Act44. 死にたがり少女のエンディング

 あたし、音乃。

 ちょっと前に、死にたくてビルの屋上にいた。

 でも、死ななかった。

 そこで出会った死神を名乗る少年に連れられて、星屑のような白い花が咲き誇る山や、澄みきったエメラルドの海に続く橋や――いろいろな、きれいな場所を旅した。

 そして今、あたしはライブハウスにいる。


 あたしを連れ出した彼はほんとは死神なんかじゃなく――ロックバンド『デスゴッド』のメンバー、空夜だったんだ。

 でも、そんなことはどうでもいい。

 彼がほんとうの死神だろうと、ロックスターだろうと、今大切なのは一つだけ。



 彼があたしの願いを、叶えてくれた人だということだけだ。



 病みつきになる音楽にあたしは熱狂した。

 彼と会うまであまり聴いたことがなかったけど、ロックって最高だ。

 一度聴くと、耳だこのように残る情熱的なリズム。

 それはまるで、ステージのあの人が、あたしに取り戻してくれた、人生に対する気持ちのようだ。



 ライブをこなしたあと、バンドリーダーの彼は、フライングという技術で舞台を高く、舞い上がる。アンコールも終えて、ライブはとうとうグランド・フィナーレだ。拍手喝采の中、幕が下りる。そう、思ってた。ところがそうはならなかった。



 彼はそのまま宙を舞って、二階席にいたあたしのところにやってきたんだ。



 目の前に降り立つと、あたしを抱きしめて言う。


「――どう? まだ死にたい?」

 耳に、低い声が響く。

「言ったよね? 人生の甘味が待ってるって」

 そう、彼が言ったのは本当だった。

 彼があたしにくれたもの――なにかを、誰かを大好きと思う気持ち。

 こんな気持ちが味わえるなら。残りの人生70年生きてもまだ足りない。

「あのね。あたし、あなたのことが――」

 彼はどくろの指輪のはまった人差し指をあたしの唇にあてた。


「だめ。さいしょはオレから」

 その食えないポーカーフェイスをちょっとだけ笑みにゆがめて。

「でもそのまえに、約束通り、あげるよ。とっておきの、デザート」


 彼の唇が、あたしの上に重なる――。

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