Act40. コンサート会場に届いた脅迫状 ~純side~

『お前の恋人を八つ裂きにしてやる』


 ライブを控えたオレ、一路純は、コンサートホールの楽屋で、一人、じっと一枚の紙を睨んでいた。


 コピー用紙に印刷された、一路純宛てに届いたという脅迫状だ。


 こういうことはままある。

 ある程度名が世間で通れば、猛進的なファンとか。アンチの人々は、一定数つくものだ。

 たいがいただのいたずらだから、当人であるオレたちの目に触れずに処理されることもある。


 だが。


 今にかぎっては、見過ごすことはできなかった。

 最悪なことに、脅迫状をよこしたやつらに、心当たりがある。


 頭の中に鋭く押し寄せる痛みを追いやるために、ペットボトルの水を含んだ。

 このところ度々つきまとっていた頭痛だ。ドラマの撮影にライブにと重なって、日に日にひどくなっていた。


 いささか、やばいな。と思う。

 仕事のことが考えられない。


 二つのおさげ。

 めきめきよくなっていく小説。

 なぜか胸に残る声。


 あいつのことしか。


「一路さん、スタンバイお願いします」


 扉を開けて呼びかけるマネージャーに片手をあげて答えつつ、思うともなく、思う。


『か、カレシなら、疲れたときには、疲れたって言ってよ。つらいときにはつらいって』


 そう言われたとき、そんな情けないことができるかって思った。

 でもなぜか、熱を持った身体がむしょうに今、あいつを求めている。


 今目の前にしたら、プライドも矜持もへったくれもなく、すがってしまいそうな気がした。


 惹きつける言葉を紡ぐ、あの手に。


 ……あいつの書く、死にたがりの少女とロックバンドの少年は、どんな結末を迎えるのだろうか。


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