Act39. サンタになった矢先
聖夜前日――つまり、クリスマスイブ。
あたしの部屋の鏡の中に、ダーグレッドと深緑のジャンパースカート姿の女の子が映っていた。
茶色い耳当ても、すでに当てている。
髪は――下ろして。
純がしてくれたのをできるだけ真似してブローにメイクもしてみた。メイク道具はおかあさんのを借りたけど。
……ちょっとは見られるかな。
そんなふうに考えてる自分に苦笑する。
いいよね、少しくらい浮かれたって。
今日のあたしはサンタなんだ。
いつもがんばってる彼のもとへかけて行く。
等身大の鏡の下に置いてあるバッグには、原稿用紙の束が入っている。
クリスマスプレゼントはオリジナルの小説だ。
じつは――純がほめてくれた、小説。ついに完成したんだ。
歓んでくれるかな……。
大き目のバッグを抱きしめて、勇んで玄関を出ようとしたとき、スマホの着信音がした。
バックから出したスマホの画面に表示された名前を見て仰天する。
あたしは一も二もなく、通話ボタンを押した。
『花乃か!? ……よかった。つながって』
いつになく切迫してるような声。
「純。どうしたの。なんかあった?」
コンサートツアー中の今は、一秒だって時間が惜しいはずだ。
『あぁ。いきなりこんなこと言って悪いんだけど』
暗雲がもくもくと胸にたちこめる。
声が醸し出す不穏な雰囲気。
いったいなに?
『今日は家から一歩も出るな』
……え?
どうして?
『わけは言えない。でも、そうしてほしいんだ。頼む』
どこか哀願するような、弱り切ったような声。
こんな彼の声、はじめてだ。
「ねぇ、純、なにがあったの――?」
『悪い、そろそろ打ち合わせだから切らなくちゃならない。いいな。とにかく、頼んだ』
一方的に切れた通話。
無音になったスマホをかかげたまま、玄関にこしかけたままの体勢からあたしはしばらく動けずにいた。
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