Act27. ポケットの中 ~夏陽side~

 家まで送ってくれるという正真くんと歩く道。

 空はオレンジ色からパープルに変わりつつある。

 住宅街に入ったところの角にあるこじんまりしたお店に、あたしの目は釘付けになってしまった。

 お気に入りの雑貨屋さん。

 でも、その外装はいつもより格段に華やかだった。

 茶色い木組みの屋根の端から端まで、色とりどりのイルミネーションがぴかぴかと光って、窓には赤い靴下や雪だるまのクリスタルシール。

 わー、なんかすごいテンションあがる。

 もうすぐクリスマスだって花乃とも話したっけ。



「少し、見ていこうか」

 え?

「いやいやいや、多忙なアイドル様に送ってもらったうえに衝動買いつきあわせるとか、さすがにそのようなことはできかねます――」

「――って、すでに店内の奥まで来てから言われてもね?」

 正真くんの目が、いたずらっぽい紫の輝きを宿す。

 しまった。

 足が勝手に動いてやってきてしまったらしい。

 決して、彼といっしょにこのかわいい空間にいてみたくて、ふらふらと足が動いたふりをしたわけではない。うん。


 とりわけあたしの目をひいたのは、天井から釣り下がっているペアグッズたちだった。

 色違いのトレーナーや靴下なんかがいろいろ売ってる。

 その一つ、サンタの描かれた靴下を手に取った。

「あたし、憧れなんだ。カレシとおそろいのものを身につけるの」

 あ。

 思わず言ってしまった!

 いや、今度のはほんとうのほんとうに、やらかした。

 あわてて胸の前で両手をふる。

「これは別に、おそろいのものを買えとかいうアピールじゃないから!!」

 苦笑しつつ、正真くんが言う。

「わかってるけど」

 また、謎めいた光をその目に宿して。

「主張の強い人って、きらいじゃないよ」

 まともにその目と目があって・

 どぎまぎと心臓が騒いで。

「ああっ、このハンドクリームも、かわいい!」

 ごまかすように棚に並んだ別の商品を手に取る。

 じっさい、手荒れがしやすくて、すぐ冷たくなってしまうのが悩みだ。

 無意識に両手をこすりあわせて、いいクリームがないかと物色をはじめだしたあとき。

 すっと、右手がとられた。



 あたしの目が間違ってなければ。

 あるいは、妄想に曇っていなければ。


 今、正真くんのポケットのなかに、このあたしの手が、すっぽり入ってる……!


「これで、お互いの手はおそろいの場所にある」


 ささやくように言われた台詞に、心臓のスピードが加速する。



 あぁ、聖夜の神様ごめんなさい。

 正真くんと過ごしたいからって、お店に見惚れて足を踏み入れたふりなんかして。

 猛烈に懺悔したくなった。


 そんなあたしにこの極上の仕打ちは。

 神様、慈悲深すぎです……。



 甘い痛みにあてられたように彼の肩によりかかったあたしはこのとき、知らなかった。

 たった一週間後のテレビ番組を目にした瞬間から。

 運命が手のひらを返したような無慈悲な仕打ちに耐えなくてはならないなんて。

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