Act24. 敵地潜入を彼にとめられました ~夏陽side~

 真っ赤に燃えさかる夕日が、長い影を照らし出す。

 あたし、夏陽は地元の駅近くの川沿いから一本外れた裏通りに立っていた。

 さび付いた建物が延々と続いている。少し行くとまた薄暗い駐車場。

 ここ、東焉ひがしいずく通りの名前を聞いて、笑顔になる人はあまりいない。

 まともな中学生なら、避けて通る薄暗くごみごみした場所。

 早い話が、不良たちのたまり場だ。

 親友の花乃にあんなことされて、黙ってる手はないでしょう。

 すーっと鼻から息を吸って、勇んで一歩踏み出す。

 許さない。


 たとえお天道様が許そうと、この久遠夏陽が、ぜったいぜったい許さない。

 鬼になることを、あたしは決意していた。

 なのに。

 よりによってたった一種類だけ、あたしを鬼から腑抜けに戻してしまうその声が響いてくるなんて。



「夏陽ちゃん!」



 ふだん柔らかな中低音は、焦っていた。


 サングラスをかけた声の主が、必死の形相であたしに駆け寄ってくる。


「正真、くん……? なんでこんなところに」

「レッスンの帰り。通りで見かけて、もしかしたらと思って来てみたら、やっぱりそうだった」

 早口でそう告げると、もっと素早くあたしの前に回り込んで両手を広げる。

「だめだよ、きみのような子がこんなところにいたら」

「いや、その、あたし、ちょっと用事が――」

 ちらと、彼が投げたうろんげな視線のさきには、橋の下でしゃがみこんでいる、怒りの対象たちがいる。髪を金髪に染めていたり、制服を着崩していたり、どいつもいかにもって感じの外見だ。

「あの類の人たちに用事?」

 うぐ。

 一瞬口籠るあたしに、頑とした口調がおいうちをかける。

「だめだ。どんな理由があろうとも」

「うう……」

「今は、僕との用事を優先してもらうよ」

 いくら正真様の頼みでもそれは、それだけは……!

 なんか腕を固く絡められてかなり天国的な体勢になっておりますが、そのようなことをなされても、一度鬼になったこの身、引くわけには……!

「今からこの道を迂回するけど、そのあいだ離れないこと。いいね」

 ひっ。

 耳元で囁かれて、鬼は。

「で……でも……」

 棍棒を手にまだあがき続ける。

 でも、身体は正真くんの力によって、別の方向に踏み出してしまう。

「ね?」

 ぴったりくっついた身体に、正真くんの忠告の声が振動して伝わる。

「夏陽ちゃん、僕一人の力にも抵抗できないでしょ。女の子が、あんな連中の中に一人で乗り込んで行ったらどうなるか、わかるよね」

「……ふぐぅ」

 喉から出たのは、不良たちのたまり場にのりこもうとしていたのが恥ずかしくなるくらい、か細い声だった。

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