Act19. 貴公子アイドルと待ち合わせ ~夏陽side~

 花乃のおせっかい、もとい、心強い応援のおかげで、ずっと憧れていた藤波くんと連絡をとることに成功したあたし――夏陽は、今、車が何台もとまっているその場所の入り口にいる。

 今日、その藤波くんと、貝ヶ浜の駅の裏の駐車場で待ち合わせなんだ。

 人目につかないところで会わなきゃならないなんて、さすがはアイドルだ。

 女子力高めのワンピで、髪もハーフアップにしてきめてきたはいいけれど。

 どうしよう。

 緊張する~。

 今日は花乃や純くんのフォローは期待できない。

 一人でデートミッションをクリアせねばならないのだ。

 デートだって。きゃっ。

 一人でふにゃりと相好をくずしていると、どんといきなり誰かにぶつかってこられた。

 よろめいて、顔をあげて――やばいと直感した。

 一目見て、派手めで真面目そうじゃない感じの三人組の男子たちが、こっちを見ている。

「いってーな。ぶつかってきてんじゃねーよ」

 男子の中の一人が言う。ぶつかってきたのはそっちでしょ、という言葉を飲み込む。

 こういうのは無視にかぎる。

「なんだよ、謝罪もなしか」

 三人が寄ってたかって近づいてくる。

 うわ。これ、本格的にやばい。

「……すみません」

 不本意だったけど小さく呟いてあやまれば、三人はにっと下品な笑みを浮かべた。

「ちょっとつきあってくれれば、許してやってもいいけど」

 盛大にため息をつきそうになる。

 さいしょからこれが目的だ。

 じつは、この手の経験ははじめてじゃなかった。

 でもまいったな。今から人と会うのに。

 そう言ったところであっさりと解放してくれるとは思えないし。

 どうしようか、思案していると、

「じゃ、決まりだな。こっちだよ」

 男子の一人に、手を掴まれる。

 強い力に、はじめて恐怖に似た感情がよぎる。

 ……どうしよう。



「女性を口説くのに、三人がかりで、それどころか因縁ですか」



 澄んだ中低音の声がした。

 直接はこのあいだ、そしてメディアでは何度もきいた、その声を、聞きまちがえるはずがない。

 藍色のストレートの短髪に。目立たないベージュのコート。このあいだは柔和な笑みを浮かべていた紺色のサングラス越しの目は、怜悧に光っていた。

 藤波くん……。

 でも、男子たちはこれで引き下がってくれなかった。

「なんだよお前。正義の味方気どりか」

「やるってのか」

「野郎」

「――あっ!」

 あたしは思わず声をあげた。

 男子たちの一人が、彼に向けてこぶしを繰り出したのだ。

 でも、藤波くんはあわてた様子もない。

 その手首をつかんで、上にねじあげると、その男子が悲鳴をあげた。

「次は、こちらから質問します。――これでもやる気ですか」

 ぞっとするほど、冷たい瞳で。

 男子たちはもんどりうつように、逃げて行った。

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