Act13. 2回目デート先は……!?

 次に純に会ったのは二週間後。

 秋も本格的になってきた十一月の下旬のことだった。

 紅葉した枯れ葉の舞う中、もはやトレードマークとなったサングラスに、オレンジのジャンパーにジーンズ姿で現れた純は、挨拶もそこそこにすまさそうな顔をした。

「悪いな、なかなか時間つくれなくて」

 ――また、みょうなことを。

 告白避けに仮につきあってるだけなのに、なんで律儀に本物のカレシのようなことを言うんだろう。

 毒舌と偉そうな態度の合間に見せる優しさがあたしの頭の中を溶かしてマーブル模様にするみたい。

 胸の中に覆う高揚気圧。時々、竜巻ふうにぐるぐる回る混乱あり。

「今日は、どこに行きたい? 場所以外の要望でもいいぜ」

 そう言うと、なにかを思いついたようにいたずらっぽく笑って、肩にあごをのせて囁いてくる。

「――どうしてほしい?」

 またあたしを混乱させようとしているんだろうが、そうはいかぬぞ。

 何回か会う回数を重ねた今では、答えはちゃんと用意してある。

「純が、好きなところ」

 え? と彼が意外そうにあたしの肩に乗せた顔を寄せる。

 近いってば。

「この前はあたしにつきあってくれたでしょ。だから、純が行きたいとこに行きたいな」

 完璧主義の努力家。

 オレ様であたりかまわず毒を吐く。

 そして、たまに優しい。

 この不思議で不可解な彼のことが、知りたいと思った。

 そう言うと、ははんと純は得意げに笑った。


「さては、オレに興味がでてきたか」

「は?」

「安心しろ」

 人差し指をこちらに突きつけて、撃つ真似をする。

「すぐに骨抜きにしてやる」

 そんな仕草、今どき流行らないからな。

 その顔だからイタくならずに済んでるんだからな。

 自分の顔面に感謝しなよと、わりかしガチ目に助言しても、純はご機嫌に小春日和の空なんか眺めて、口笛でも吹き出しそうな雰囲気だ。

「冗談はともかく、まじでいいのか。オレの行きたいとこなんかで」

「うん!」

 ようやく肩から顎を外してくれた彼のとなりに立ち並ぶ。

 準備はオーケーだ。

 くるりと、くっきり二重瞼が空からあたしに移される。

「じゃ。うちくるか」

「はへ?」

 う・ち?

「いやぶっちゃけ、数日前まで夜中まで映画の撮影続いてたからさ。地味に疲れてんだよ」

 照れたように純は笑ってそう言ったあと、ふいに穏やかな目つきになる。

「――疲れてるときにはそう言えって言ってくれたことだしな」

 ああうん。たしかに言ったけれども。

「ちょうどいい。カノジョは家族に紹介するもんだろ」

 あのもしもし。なんか前からやたら、ふつうのカップルマニュアルにこだわってますけど。

 それはあくまで、真剣につきあってる二人の場合で――。

 等々、つっこみどころなら満載だったんだけど。

「うん、思いつきで言ったが、我ながら名案だなこれ。思う存分、花乃のこと自慢できる」

 いたずらをしかける前の男子のような顔で笑われてしまうと、それらもごくんと飲みこんでしまうあたしだった。

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