54【謎の影とこれからのこと】


「はあ……」

「お兄ちゃん、お疲れ様」


 色々あったものの俺と雫は家に帰って来ていた。


「雫もな」


 そう言って俺は雫の頭を撫でる。うん、撫で心地はいいな……って何言ってんだ俺は。流石にこれはないわあ……。


「お兄ちゃん、くすぐったい」


 しかし、雫は特に気にすることせず撫でられるがままであった。うーんこの……まあいいや。雫が嫌がってないのであれば大丈夫……なのか?


 それはさておき。


 あの戦闘の後、俺と雫はそのまま魔法省があの緊急避難場所としていた小学校に設置した作戦本部へと案内され、そこで星空月夜魔法大臣……まあ、魔法省のトップと会った。この前のテレビ電話のようなものでの対面ではなく本当の対面である。

 実際会ってみた感じでは、うん……テレビ電話で見た人物そのものであった。そりゃあ当たり前なのだが、やはりどう見ても成人している女性には見えなかった。少女と言った方がしっくりくる容姿だった。


 そんなこと考えていたら、こっちを見て来たけど……心が読めるのかな? 適当に誤魔化したけどな。


「普通に名乗っちゃったし、姉妹って言っちゃってたけど良かったの?」

「変に隠すより言った方がいいと思ってな。それ以上は聞いてこなかったし」

「確かに」


 話を戻すが、その時に星空月夜から聞かれたことは思ったよりも少なかった。こっちとしては嬉しいと言えば嬉しいのだが。


 まあ、聞かれたとしてもこっちも色々あるし言えないことは言えないのだが。


 それで、話せる内容は取り敢えず話したところで、最後に彼女は3つ程俺たちに質問してきたのである。3つ目は質問と言っていいのかわからないけどな。


 1つ目はまず敵対しないか? ということ。

 これは俺たちが魔法省やその所属する魔法少女たちと敵対する気はあるのかないのか、といったものだ。妥当な質問だと思う。

 俺と雫は所属してない野良の魔法少女だし、敵対するかしないかは気になるところだろう。それに戦闘も結構見られたようだしな。


 氷属性の魔法少女……はやっぱり、チェリーレッドとアズールフラワーから聞いた通り本当に居ないみたいだ。

 確認されているのは5年前のアイス・メロディ-……つまり雫だけとのこと。そしてそんな雫は少し前までは行方不明で皆の記憶から消えていた。

 そんな中で新たな氷属性である俺が現れたということだった。そもそも氷属性の魔法少女が居ないとかその時、初めて聞いたぞ、まじで。


 話が逸れたがそんな質問に対しては「余程のことがない限りは敵対することはない」と答えておいた。特に彼女たち魔法省と敵対する必要性がないしな。

 今後何かあったらあるかも知れないが……特にこっちに何もしないのであれば敵対することはない。無いとは思うけど、こっちを攻撃とかしてきたら流石に反撃させてもらうが。

 取り敢えず、今のところ敵対することはないし、する気もない。理由がなければ敵対なんてしない。


 で、2つ目の質問が俺と雫の関係についてだった。

 割と困るところを聞いていたが、特に隠すことはせず普通に兄妹……とは言えないので姉妹と言っておいた。あの状態では俺も雫も少女な訳で兄妹なんて言ったら変に思われるからな。

 俺が東京に居たのは雫ことアイス・メロディーを探していたと既に言ってしまってるから関係性が気になるのは仕方がない。

 どう助けたかまでは流石に言わなかったが……いやそもそも言えない。言えないと言うか分からないから答えられないと言えばいいか。魔力のお陰なんだろうけど、よく分からんしな。


 そう言えば向こうは更に聞いて来ることはなかったので良しとする。

 でだ。隠すことはも出来たのだが、変に探られても面倒なので姉妹と言った訳だ。そう答えるとあの場に居た星空月夜ともう一人が俺と雫を交互に見て納得と言った顔をしてた。


 ……そうなんだよな。

 魔法少女の状態も今の状態も、雫にそっくりなのだ。雫が先に魔法少女になってる訳だし、雫が俺に似てるではなく、俺が雫に似ているということになる。

 兄妹なんだから似てるのは当たり前と普通の人は思うだろうが……俺の場合は特殊である。魔法少女の状態はいいとしてリアルの姿の方も似てるというのは前々から思ってたけど気になるんだよなあ。


 よく考えて欲しい。

 兄妹で似てるのであれば問題はない。だが、俺の場合……魔法少女になった影響で何故かこっちの姿まで変化してしまってる訳だ。

 変化した姿……この姿が雫にそっくりっていうのはやはり不思議でしょうがない。全く違うような容姿だったらそれはそれで変化も知れなかったし、これで良かったのかも知れないが。


「……」


 元に戻れるか戻れないか。

 アンノウンの危機は一応去ったからこの問題は解決となる。だけど、俺にはまだ解決すべきものがあるし……とは言っても全く何も分からないんだけどな。


「はあ」

「お兄ちゃん?」

「あ、ごめん、ちょっとため息が出た」

「ため息を出すと幸せが逃げるよ?」

「迷信だろ」


 戦いは終わったけど俺はまだ終わってないし、問題は山積みである。


「そう言えばあのアンノウン、レベル5の上位という位置づけになったみたいだね」

「そうみたいだな……まあ確かに何となく弱いなとは思ってたが」

「私は直接戦ってないから分からないけど……お兄ちゃんがそう言うならそうなんだね」

「あくまで俺感覚だから気にするな」


 敵の強さなんて人によって感じるのは変わってくるだろうしな。

 無駄にしぶといというのはあったが、攻撃とかについてはそこまで強いとは言えなかった。いや、ビームやら衝撃波やらブレスやらは脅威かもしれないが。

 それにその辺のレベル3以下とかのアンノウンと比べれば相当強いだろう。


「それにそもそもレベル6のデータが1件しかないしな」

「確かに」


 警報の仕組みはよく分からないけど、彼女……星空月夜が簡単に説明してくれたのを思い出した。過去のデータを参照にするんだとか何とか。


 それは置いとくか。

 だいぶ話が逸れたが、最後……3つ目については質問ではなくあれは勧誘かな。俺たち2人に対して魔法省に所属しないかという誘いだった。

 所属した際のメリットだとかデメリットだとか色々と簡単に説明されたものの、答えは変わらない。そう答えは雫と一緒に”ノー”である。


 理由は簡単だ。

 俺がそもそもイレギュラーだということ。こんなナリではあるが、俺は男だった。ちゃんと男として暮らしていた記憶もちゃんとある訳だ。

 その時点で既に問題大アリである。魔法少女はその名前の通り少女しか居ない。いやもしかしたら俺みたいに男なのに魔法少女になってる人も居るかも知れないが、それは置いとくとしても完全に少女である。そんな中に俺が入るのは流石に無理。

 後は行動とかが制限されるかも知れないし、肝心な時に招集されたらこちらも行動がしにくくなる。だからこそ所属することはない。


 俺には俺で解決するべき問題があるのだから。


 それにそもそも俺はアンノウンとの戦いに身を投じる気はまずない。今まで戦ってたのだって雫を助けるためでもあったしな……そのついでに倒していたということ。

 もちろん、危険な時とか……ピンチなところに出くわしたら助けるけどこれからは自主的に行動することはないだろうと思う。


 まあでも……家があるのこの地域が危ないのであれば俺は全力で戦うだろうが。


「俺には俺で目的があるからな」

「まあそうだよね。やっぱりお兄ちゃんは元に戻りたいの?」

「戻れるなら、な」


 とは言え今の身体での生活にはもうだいぶ慣れてきてる。慣れるのはいいこと……なんだろうか? もしこのまま元に戻ったら普通に生活できるか?

 色々とまだ謎は多いな……それに仮に戻ったとして、戸籍等も戻るかも分からないよなあ。


「このまま過ごしてもまあいいかも知れないな」

「お兄ちゃん?」

「ん? なんか言ったか?」

「う、ううん。何でも無い」

「そうか?」


 そう言うと雫は頷く。

 何か変なこと言ったかな? 戻れないという最悪の事態を予め考えておくべきってフルールも言ってたし、最悪な場合も視野に入れてる。


「地道にコツコツ、だな」


 今はそれしか無い。

 俺はそう考え、これからのことを考えるのだった。






▽▽▽






「そう……倒されちゃったのね」

「残念ながら」


 報告を聞き一つため息をつく。

 予想していたことではあるけど……やっぱりまだ未完成と言ったところかな。それでも実験としては結構な成功だとは思うけどね。


「レベル5の上位に認定されたようですよ」

「……そう」


 そこまで行けば上々かな。

 そもそも魔法省のデータは少なすぎるからなんとも言えないけど。レベル6の個体が出現した例が1件しか無いからそれを基準にしてるんでしょうけど。


「5年前よりは魔法少女も魔法省も強くなってるわね」

「ですね。喜ばしいことではあると思いますが」


 魔法省にはこれからも是非頑張ってもらいたいところね。


「ええそうね……だけどまだ足りないわね」

「でしょうね。どうします?」

「取り敢えず、戻って考えようかしらね。それにしても……あの2人は想像以上だったわね」


 レベル6までは行かずともレベル5の上に認定されたアレをたった2人でかなりのところまでダメージを与えていたし、対するその2人は被弾が少ないときた。


「氷属性の2人のことですね。野良らしいですよ」

「あの2人ならもしかしたら……まあいいわ。さあ、帰りましょうか」


 野良みたいだし、もしかしたら協力関係を築けるかも知れないと思ったけど、今は情報が足りないから不用意に接触するのは危ないわね。

 このタイミングで現れた2人の氷属性の魔法少女……これには果たして意味があるのかしらね? 今考えても仕方がないか。


「了解です」


 こっちもこっちで色々とやることがある。……そんな訳で私たちはその場を後にするのだった。






To Be continued...?



END




_あとがき_

ここまでお読みいただきありがとうございました。

色々と不完全燃焼も残ってますがこれにて完結になります。


元より長いものではなかったのでリュネールと比べると短いです。

書き溜めもあったのもありますが、ひとえに読んで下さる方々のおかげでここまで書き終えられました! 本当にありがとうございます。


文字数はリュネールと同じく3000文字での毎日投稿でしたが()

第二部……については、構成自体はありますが書けるかどうかはまだ分かりません。


何はともあれ、ここまでありがとうございました。

不定期に閑話を投下するかも知れませんが、ひとまず完結と致します。


まあお読みになられてない方が居ましたら、是非リュネール・エトワールも一話だけでもいいので読んで下さると喜びます。()



TS魔法少女リュネール・エトワール!

https://kakuyomu.jp/works/16816452220252959371


長くなりましたが、これからもよろしくお願い致します。




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