53【事後-side魔法省】
「まあ、このくらいかしらねえ」
「良かったの? あの子たちから何も聞かなくて」
「……気になるのは確かだけど、彼女たちは野良だからね。何も悪いことをした訳ではないし、取り調べるのは流石にね」
この場には今は私と七夜しか居ないので、七夜は私のお願い通り、素で話している。
まあそれで、彼女たちと言うのはフリーズ・フルールとアイス・メロディーの2人のことである。
写真を見た時は何かの間違いかと思ったけれど、実際会った感じではもう間違いなく彼女そのものだった。何なら自分の名前を隠さず普通に名乗っていたしね……。
「アイス・メロディー……生きていたんだね」
「そうね。死んだ訳ではなく行方不明と言う扱いだったけれども」
5年前、東京で起きた死傷者数千万人規模に達する過去最悪のアンノウン襲撃事件。突然出現したアンノウンたちは暴れに暴れたのだ。建物を破壊したり、逃げる人々に攻撃したり。
当時は魔法少女の大規模部隊を編成し東京へと出撃。しかし、アンノウンの数も多くレベル6のアンノウンまで居たのもありかなりの苦戦を強いられた。魔法省側の被害も尋常ではない。
ただ魔法少女が駆け付け、攻撃を開始すると住民たちを襲っていたアンノウンの矛先は魔法少女たちへと向いた。そのまま一般人や建物を攻撃し続けるアンノウンも居たけど明らかに全体的な矛先は魔法少女たちへと向いたのだ。
まだはっきりとは分かってないけれど、アンノウンは何故か魔法少女に反応する。いえ……まだそうと断言できる訳ではないけれど魔法少女が狙われやすいのはこれまでのデータで分かっている。
だけどさっきも言ったように例外もあり、魔法少女が来ても変わらず別の方を攻撃するアンノウンも居るため、はっきりとは言えないのよね。
話は戻すけれど、当時は一般人はもちろん、魔法少女にも死傷者が多く出た。レベル6のアンノウンを筆頭にレベル4以下のアンノウンの大量出現。当時の戦場は入り乱れまくっていたわ。
で、そんな魔法少女を狙いやすいという特性のお陰か魔法少女たちが戦闘を開始すれば一部を除き、アンノウンは一般人や建物等を襲うことをやめたのだ。
その間に避難活動を徹底的に行い、何とか東京都内から郊外へ避難させることが出来た。数時間はかかったけれども、それでも避難は出来た。逆にあの時間だけで避難を終えたのが凄いことだと思ってる。
一般人の被害は突然現れたアンノウンによる攻撃によるものが一番多い。何の前触れもなく唐突に表れたレベル6のアンノウンである。そんなものが何の準備も出来てない状態で襲撃してきたら一瞬にして多くの人が犠牲になるのは必至。
魔法少女だって駆け付けるまでにタイムロスが発生するし、一般人を巻き込む恐れがあるため戦闘はあまりできない。当時の東京に居た魔法少女たちも当然駆け付け、まずは住民たちの避難を優先に行動した。
その行動した魔法少女たちの中にも死傷者は出てしまっている。だけど、避難優先に真っ先に行動を起こしたのもあってさっきの時間で避難が出来た……のかもしれないわね。
そしてそのタイミングを見計らって登場したのがアイス・メロディー。
当時、確認されていた魔法省のデータ内では唯一の氷属性の魔法少女だ。魔法省の魔法少女たちも彼女には何度か会ったことがあると言う子も結構居た。
戦ってるところも結構目撃していて、間違いなく彼女は氷属性だと判断した。
そんな彼女が、阿鼻叫喚な東京に現れ……一般人の避難が出来たことを聞いたところで
何の魔法を使ったかは分からない。近くに居た魔法少女に対しては「東京から出来る限り離れて!」と叫んでいたみたいね。
当然、それを聞いた魔法少女は戸惑ったけど最終的にはその場から離れて行った。そして次の瞬間、首都は凍り付いた。東京からの避難に遅れた魔法少女も居たけれど魔力装甲のお陰で凍り付くことはせず何とか脱出できたのよね。
「……」
一瞬にして凍り付いたその光景は不躾ではあるけど綺麗な物だった。シンボルである東京タワーやスカイツリー、ビル、家屋……車、植物等、全てが氷の世界に閉ざされた。
「あの子が……東京を凍らせた子なのよね」
5年前のことを思い出しながらぽつりと呟く。
あのまま、あの子が凍り付かせてなかったら魔法少女たちにも更なる死傷者が出ていただろうと思う。魔法少女だけじゃない……郊外に避難した人たちもそうだし、他県も襲われていたかもしれない。
共に凍り付いたアンノウンについてはその後、消滅しているのが確認されてる。知っての通り東京には調査隊を何度も送っていたからね。凍ったアンノウンの姿は見えなかった。
「東京の氷も次第に解け始めるって言ってたよね」
「ええそうね。起点となったアイス・メロディーが戻ったからだったかしら?」
本当に聞きたいことは色々あったけど最低限に抑えたのよね。
彼女たちは特に隠すこともせず話してくれたわ。まず、アイス・メロディーが使った魔法は発動させた人を起点に一定範囲を凍り付かせる魔法。凍り付いたものは時すら止まる……らしい。何そのトンデモ魔法は? と思ったわね。
それからフリーズ・フルールが東京内に居たのはアイス・メロディー……彼女を探していたということだった。どう特定したのか、どうやってあの状態から彼女を救い出したかは教えてくれなかったけれども。
そしてそんな魔法をの発動起点のアイス・メロディーがフリーズ・フルールによって助けられたことによって、東京の氷は次第に解け始めると言っていた。
……なるほどね。魔力装甲の削れる速度が落ちたのはこれが原因だった訳ね。
「とんでもないわね」
先日のアンノウンを2人で相手していたのも含め、彼女たちの力は強力なものだと思う。魔法省で言えばSクラスと言っても過言じゃないかもしれないわね。
そうそう、あのアンノウンだけど、色々とデータを分析したところレベル6……とまでは行かず、レベル5の上位と言うような位置づけとなった。
そもそもレベル6のデータが1件しかないから、基準はその1件になってしまうのよね。脅威レベルは過去のデータ等を一つのパターンとし、それに近いかそれよりも下か、それよりも上か……で判断する。
既に今まで出現したアンノウンのデータは保管されているので、それらを参照しレベルを算出するのだけど……今も言ったようにレベル6の例は1件のみ。
そうなるとレベル6の判定はその1件で行うことになる訳で……その1件っていうのが5年前のドラゴン型のアンノウンよ。あれを基準にすると今回のアンノウンはレベル6には満たないという判断になる。
5年前とは違い、意外とあっさりと倒せてしまったからレベル6に行かないというのは間違いないのかもしれない。魔法省の魔法少女が駆け付ける前に2人の氷の魔法少女がダメージを与えていたからというのもあるだろうけど。
「氷が解け始めるってことは、過去に東京に侵入した人たちも助けられるかしらね」
「だね」
何度も思うけどよくあの場所へ行こうと思えるわよね。今はほぼ居ないけれど、昔は興味本位だとか好奇心とかで東京内に侵入しようとした人が居たのよね。侵入した人も居たし、その人は当然ながら凍り付いた。
ヘリコプターで東京を突っ切ろうとした人もまた凍り付いた。これはまあ、事故なのかしらね? 取り敢えず、それなりの数の人が凍り付いてしまっているのが現状である。
いくら動かそうとしても動かせず、どうしようもない状態だった。一部の人から色々と言われたものの、そう言ってくる人たちに付く人々は思ったより少なかったんだけどね。
そもそも危険地帯と明記されているのにそこにわざわざ行く方が悪いとかそう言った意見が圧倒的に多く、文句を言ってくる人たちは気付けば消沈していた。
法律に進入禁止を定めるべきではと言ったものもあったけど……まあ色々とあってそのままである。
「……彼女たちのことは気になるけれど、取り敢えずは救助部隊を編成しないとね」
色々と話を聞いたところで、フリーズ・フルールとアイス・メロディーにその時最後に3つ程質問をしたよね。1つはまず私たち魔法省に敵対するのかどうか。
彼女は「余程なことがない限り敵対する意思はないよ」と、言っていた。フリーズ・フルールの言葉に同意と言った感じにアイス・メロディーも頷いていた。特に嘘を言ってるようには見えなかったのでそう言うことかしらね。
2つ目は2人の関係について。もちろん、無理に聞き出すことはしないつもりで言いたくないのであればそれいいと思ったのだけど、2人は普通に教えてくれた。姉妹、と。
確信はなかったものの、姉妹であるのはほぼ間違いなさそうな感じだったので納得と思ったわね。2人が嘘ついたと言うなら別だけれど。
で、最後が……これは質問ではないわね。勧誘と言えばいいのかな?
魔法省に所属する気はない? と聞いたのよ。それを聞いた2人はお互い顔を合わせた後、こちらを見て「お断りします」と言われたわ。
まあ、期待はしてなかったのだけど……予想通りと言えば予想通りだったわね。
「残念だったね。所属してもらえなくて」
「そうねえ……野良で動いていた時点で予想はしていたけれど」
アイス・メロディーもフリーズ・フルールも野良である。わざわざ野良で活動しているのだから所属する気はないんだろうなとは思ってた。
「何か理由でもあるのかなー?」
「さあ? 無理強いは出来ないから分からないけれども。義務ではないしね」
「まあね」
無理強いは出来ないのだし断られた時点で潔く諦めるべきである。気が変わって所属してくれると言うなら喜んで歓迎するけれども。
何はともあれ……今回はそこまで被害は大きくなくて良かったと思う。油断は出来ないけれど……警戒はしつつ今後のことを考えましょうか。
_あとがき_
あくまで奏が見たのは夢なので夢と完全一致するということはなかったり()
実際、凍結させようとした時、雫は無関係な人が巻き込まれないようにしてました。
第一話を思い出す話でしたね()
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます