49【出現】


「うわああ……」


 何か引かれた。一斉に処理できるんだからいいじゃない。

 何をしたのかって? 別に変なことはしてないよ。アイシクル・スピアを同時に2回発動させて氷槍で攻撃しつつ、空中に氷槍を浮かべていただけだよ。

 あの数を生成するには当然だけど時間がかかるからね。その間、アンノウンが攻撃してくるだろうから二重発動と言えばいいのかな?


「兄妹揃ってほんと、とんでもないわね」

「そうかな? でもまあ、この辺りのアンノウンは倒せたからいいじゃない」


 確かにちょっとやり過ぎた感はあったけど……。


「お姉ちゃんの方は……うーん、微妙な感じかな?」

「みたいね」


 お姉ちゃんが今戦っている今回の元凶であろう羽無しドラゴンもどき。全身が黒く禍々しい雰囲気を出しているそれは、見た目通り攻撃も全部黒い感じだ。ビームのような黒い光線を結構短い間隔で放ってる。


 だけど、お姉ちゃんはそれを容易く避けているのが見えて、ちょっと苦笑いする。


「最初は結構かすったりとかしてたみたいよ。あの様子じゃ、慣れたのかしらね」

「流石はお姉ちゃんだなあ」


 私の大好きなお姉ちゃんお兄ちゃん。まさか魔法少女になってしかも、お兄ちゃんからお姉ちゃんに変わることには驚いたけど……それでもやっぱり変わらない。

 お姉ちゃんは元の身体に戻る方法も探してるようだけど、全然手掛かりがないみたい。フルールも結構探してるようだけど、同じような前例もないから探すのも結構難しいって言ってた。


 とは言え……大分、慣れてるようには見えるんだけども。

 フルールの話では最初こそは色々とあったみたいだけど、今ではもうすっかり今の姿に慣れてしまったようで普通に暮らせているみたい。


 私としてはお兄ちゃんでもお姉ちゃんでも、変わらない。だからお兄ちゃんがどう選んでも私は何も言わないつもりだ。まあ慣れたとはいえ、時々やらかす時があるのでその時は私もフルールも苦笑いしてる。

 2人で家に居る時とかはお兄ちゃんと呼ぶけど、外に居る時は変な誤解とか変に思われないようにお姉ちゃん呼びにしてる、というかそうすることにした。最初は結構戸惑っていたけど……でもお姉ちゃんが変は風に見られるのは嫌だしね。


「よし」


 考えてる時点であれだけど、これは今考えることじゃない。かなりの数のアンノウンは処理できたけどまだ残ってるので、そっちの対応をしてからお姉ちゃんに合流しよう。


 そんな訳で私は残っているアンノウンを見て、再び動くのだった。






▽▽▽






「状況を」

「はっ。あの暗雲からアンノウンの出現を感知しました。大きいものが一体、小さいものが複数です。詳細は現在調査中になります」


 この地域にある避難所が破壊されてしまい、一時的な緊急避難所として使われている小学校に私たちはやって来ていた。避難所に逃げていた人や、後に避難してきた人たちがここに固まっている。

 普通ならこんな屋根のない場所に居るのは危険だけど、肝心な避難所はアンノウンに破壊されてるからそこは使えない。だから仕方がないんだけども。


 体育館や校舎内も満遍なく使わさせてもらっている。ここの使用許可については既に取ってあるので問題ない。


「それから数は少ないですか、暗雲とは別にアンノウンが出現してはここを攻撃して来てます」


 暗雲周辺に強力なアンノウンの反応、それから取り巻きと思しき比較的小さめのアンノウンが確認されているようで、それとは別に他のアンノウンが度々はここを攻撃して来てるようね。

 だけど、その攻撃は待機している魔法少女たちによって倒されているので今のところ被害はないとのことだった。


「ただいま戻りました」

「おかえりなさい。報告を聞かせてもらえるかしら?」


 報告を聞いていれば暗雲の方を調査していたであろう魔法少女が戻ってきたみたいだった。3人組の子で、最初は軽く会釈してきたのだが、その後、再度私の顔を見て全員が驚いた顔になったのはちょっと笑ってしまった。


「「「星空月夜魔法大臣!?」」」


 あーうん。

 それりゃ驚くわよね……私がこんな場所に居たら。でも、今回は以前のような最悪の事態には絶対させたくないし、無理にでもこっちに来るつもりだったけど。


「普通はこんなところに来ないでしょうに」


 そう言って現れたのは七夜だった。七夜も半ば無理やり連れて来たっていう自覚はあるけど、七夜なら普通に拒否だってできたはずだけど、そうせずに来てくれたのはちょっと嬉しいかもしれないわね。


「副大臣っ!?」


 大臣に続けて副大臣まで現れて魔法少女たちが本当に固まってしまった。というか大臣って呼ばれるのは久しぶりな気がするわね。でもどうもむず痒い。

 一応魔法省のトップをしている訳だから大臣なのは間違いないし、七夜が副大臣なのも間違いはない。だけどそう言う堅苦しいのは苦手なので名前で呼んで欲しいと言ったのよね。


「そんな緊張しないで良いわよ。あと大臣なんて堅苦しい呼び方はやめて月夜って呼んでくれていいのよ。というより呼んでくれると嬉しいわ」

「え、えっとそれは……」

「駄目かしら?」

「う……は、はい。つ、月夜さん」


 がちがちね……いえ、無理もないのだけど。ちらりと七夜の方を見れば何とも言えないと言うか……苦笑いをしながらこちらを見ていた。


「七夜のことも副大臣ではなく普通に呼んでくれていいのよ」

「まあそうですね。私もその呼び方は何と言う堅苦しいですし苦手なので」


 これもまた戸惑う魔法少女たちだったけど、何とか七夜の呼び方も私と同じものに収まったところで本題に入る。話を逸らさせてしまったのは私たちなので何とも言えないけれど……。


 まあそれで、まずは状況把握よね。

 あの暗雲が出てきたのは既に知ってる。空間が歪んでいるような現象も発生してるようだし、明らかに普通ではない。そして今の報告であの暗雲から遂にアンノウンが出始めたということも知れた。


「大きなアンノウン……ね」


 向こうの空の方を見る。

 ここは小学校ということもあり高台に位置する。だからここからでもその暗雲がよく見えるし、何ならさっき言っていた大きなアンノウンらしきものも見えている。


「あれよね」

「はい、そうなります。異様に禍々しくて感じる圧もかなりのものでした。あれは近付いたら死ぬ……かもしれません」


 全身が真っ黒……漆黒に包まれた身体。不気味に光る眼……そのアンノウンの見た目は5年前に見たことのあるドラゴンのようなものだった。

 だけれど、5年前のやつとは違うわね。確かに見た目はドラゴンみたいなものだけど羽がない。羽のないドラゴンってドラゴンと言っていいのかよく分からないけれど。


 そもそもドラゴン何て生き物は空想の世界の生き物で、実在はしてない。もちろん、アンノウンを除いてだけどね。アンノウンの見た目は本当に色々とあるよね。


「七夜、あれのアンノウンはレベル幾つだ思う?」

「レベルですか。……多分。最低でも5……6もあり得るかもしれませんね」

「……」


 七夜の言葉にその場にいた全員が神妙な顔をする。


 皆が予想していたのだと思う。明らかに異様な暗雲、雰囲気の違う大きなアンノウン……昼間なのに暗くなってしまった空。似たような光景を見たことがあるのよ。


 ……首都凍結。

 5年前の大惨事が思い浮かぶ。あの時も暗雲のようなものがあってそこからレベル6のドラゴン型のアンノウンが出現したのよね。昼間なのに空は闇に閉ざされた。


「最悪の事態は避けたいわね」


 5年前と同じようなことを起こさせてたまるものか。


「……どの道、あれは倒さないといけません」

「ええそうね。だからこそ、私たちもここに来たのだから」


 ただ一点、5年前と異なるのは範囲が本当に狭いということ。

 5年前は東京全体が巻き込まれたけれど、今回はこの地域のみにアンノウンが出現している。関西や北海道、九州の方については連絡した感じでは通常通りのアンノウンが出現数みたいだった。


 関東がおかしいのか……この地域だけがおかしいのか。どっちもなのかもしれない。


「報告します! 暗雲付近に2人の魔法少女の交戦を確認しました」

「!?」


 そんなことを考えていると、また別の魔法少女が駆け込んでくる。


「2人の魔法少女の交戦?」

「はい。暗雲付近に出現した大きなアンノウン及びその取り巻きらしきアンノウンと交戦中です」


 その報告に皆が目を合わせる。

 攻撃指示は出してないから、交戦しているのは恐らく野良の魔法少女だと思うけれど……いえ、命令無視をした魔法少女の可能性もあるけれども。


「え、何あれ!?」

「空に何か浮いてる?」


 ドラゴンもどき? のアンノウンが居る方面……そちらを見ていた誰かが驚く声が聞こえ、私もそちらを見る。距離も距離なのではっきりとは見えないけれど、空中に何かが無数に浮いているのが何とか見える。


「……氷?」


 刹那。

 その空中に浮いていたものは一斉に急降下したのが見えたのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る