47【対峙】
「……」
空を黒く染める暗雲を俺は静かに見ていた。暗雲はそこそこ大きく、渦巻いているような感じになってる。それに加え、時折雷雲のようにプラズマと言うか光のようなものを放っている。
「お姉ちゃん」
「ん? どうした?」
そんな中、一緒に変身してきた雫もとい、アイス・メロディーが俺のことを呼ぶ。そして、雫の居る方に目を向ける。
「見た感じだと、この周辺はアンノウンが少ないかも」
「そうか……」
暗雲付近の地上……全く居ない訳ではないが、アンノウンが全然見当たらない。避難所周辺の方が居る感じだな。だけど向こうは待機している魔法少女が居るので別に問題はないだろう。
そう言えば途中で全速力で雫のところに飛んじゃったけど……チェリーレッドとアズールフラワーには悪いことしたかな。後で謝っておこう。
「###!!」
雫と話していると、突然耳を
「「!?」」
あまりも凄かったので俺と雫は咄嗟に両手で耳を塞ぐ。そのまま咆哮の聞こえたであろう方角を見れば、そこにあるのはさっきからずっとそこに佇んでいる暗雲だった。
暗雲のの方角から聞こえた…ということは。
「ついにおいでなすったようだ」
「だね……」
さっきまで何も居なかった暗雲周辺にぽつぽつと何かが増え始める。いや……何か、ではないな。間違いなくアンノウンだ。色んな姿形をしてるしな。
空中だけではなく地上にもそれは増え始める。ただどれもそこまで大きくない個体のアンノウンのようで、明らかにおかしいと言うかでかい感じのアンノウンは居ないが……。
「いや、出てきそうだな」
一定の数まで増えたところで、
全身真っ黒で何処か禍々しいオーラを放ち、金色の目が光っているビルよりも大きいのではないかと思うくらいの大きさの
そいつが進むに連れて付近のアンノウンも前進を始める。そいつが歩く度に地面が振動し、建物や標識と言ったものが踏みつぶされて行く。
「……お姉ちゃん、あれかなりやばい個体かも」
「だろうな。フルールはどう思う?」
「そうね……やばいのは確かね。少なくともレベル5……いやレベル6級かもしれないわ」
そいつ……少し前の熊や恐竜のようなアンノウンよりも一回りも二回りも大きな図体を持つアンノウン。ただ何に似ているのかと言えば……ちょっと分からない。熊でもなければ恐竜と言った感じもしない。
ただ……どちらかと言えば恐竜に近いのかもしれない。肉食で有名なティラノサウルスのような感じなのだが、何か違う。全身が真っ黒って言うのもあるのだろうが……。
「羽無しドラゴンみたいな見た目よね」
「それだ!」
「え?」
フルールの言った表現についつい大きな声で反応してしまう。
「あ、ごめん。いやあのアンノウンの見た目、何て言い現わせばいいのか分からなかったからさ」
「あ、なるほど」
「でも確かにあれは、地球上の生命では表現しにくいよね……恐竜っぽさはあるんだけど」
地球の生命で何とか表現するのであれば恐竜だろう。ドラゴンなんてものは地球には居ないしな……フェアリーガーデンには居るとか居ないとかなんとか……居たとしても滅多にと言うかほぼ見ることはないみたいだが。
「どうするの?」
「まあやるしかないだろ?」
「そうだね……このまま放っておいていいことなんてないし、むしろ5年前よりひどくなる可能性もあるし」
どこへ向かってるかは分からないが……方角的に避難所の方に向かっているように見える。あそこには確かに魔法少女は居るがこいつのレベルが6だとしたら危険だ。
それにこいつだけではない。周辺には相当数のアンノウンが一緒に居る。取り巻きというべきか……取り敢えず、単体相手ではないということだ。
「あいつ単体だけならいいんだがなあ」
「それなりの数の取り巻きが居るから、そっちも相手しつつって感じになりそう」
「中々ハードだなあ」
「でもやるんでしょ?」
「ああ」
さっき俺が聞いたように雫にもそんな風に言われる。
結局はやるしかないのだ。相手がレベル5だろうがレベル6であろうが……放っておいたら大惨事がまた起きるだろうしな。今回はこの地域だけという5年前よりも範囲はかなり狭いが……何故ここなのかは分からない。
「雫は優先して周りの取り巻きを頼む。俺はその取り巻きも相手するが……あいつをやる」
「了解。お姉ちゃん、気を付けてね」
「雫もな」
1人ではなく2人だ。1人で相手するよりは大分マシになるだろう。とは言え、雫に関しては5年ぶりになってしまうのでそこは少し心配だ。
取り敢えず、フルールは雫に付いてもらうことにする。
「……やるか」
ステッキを握る。
「何だかんだ言って、このステッキとは長い付き合いだな」
魔法少女なら誰もが持っている武器だ。その形状は魔法少女によって異なるが、スタンダートなステッキタイプだったり変形するものだったりとか、剣のようなものもあるみたい。
俺と雫はスタンダードでシンプルなステッキである。よくアニメとかで見る魔法少女が持ってそうなやつだ。変形はしないがまあ殴ったりとかにも使える。
自分が魔法少女になるなんて思っても見なかったしな。しかも性別まで変わる始末……変身時だけならいいが、俺の場合は元の身体まで変わってしまってる。原因は分からないままだ。
「……」
ちゃんと戻れるのか……戻りたいと思う自分も居れば、このままでいいんじゃないと思う俺も居る。あの身体にもすっかり慣れてしまった。
だって、ぶっちゃけ元に戻らずとも困るようなことがないのだ。普通に暮らせるし……。
「まあ……」
どっちにしろ、原因が不明なのは変わらない訳だが。
俺のことは今は置いておこう。確かに何かと不便はあるが、日常生活上に支障は今のところない。車にも乗れるし家にも居られる訳だしな。ただ祖父母についてはどんな感じなのか分からないな。
いや祖父母だけに限らず、俺と雫のことを知ってる人……学生時代の同級生だとか、今はもう辞めた仕事場の上司や同僚……その人たちにとって俺はそんな感じになっているのかが気になる。
原因が分からないとは言え、戸籍関係が変わっているのは事実だ。だからそうなれば、周りはどういう感じになっているのか気になるのは俺だけじゃないはずだ。
まあそもそも俺のような現象が起きた人がそもそも他に居るのかって話だが。
取り敢えず、俺自身のことについて考えるのはこれくらいにしておこう。自分自身にも問題は山積みだが、それよりも他に優先すべきものがある。
「俺自身のことも大事だけど、今はアンノウンだ」
ステッキを握り直しそいつをにらみつける。そうあそこに居る馬鹿でかいアンノウンの対処が優先だろう。あいつのレベルは分からないが、そこら辺のアンノウンとは格が違うのは容易に予想出来る。
羽無しドラゴン……フルールが言った表現を思い出してちょっとだけ笑いが出てしまった。なるほど、しっくりくると言った感じだ。
姿形は確かに真っ黒なドラゴンな感じがするが、羽のようなものはない。だからドラゴンではない……ドラゴンもどきと言うべきか。
「開幕大打撃……と行きたいが」
アイス・ブラストは知っての通り近距離だし、少し隙が大きいかもしれないから開幕のアイス・ブラストはやめた方がいいかな。
「よし、これにするか。……アイスバレット!」
氷の弾丸を生成する。ただ生成するだけではなく、複数の弾丸を次々と生成させ自分の周囲に浮かせて待機させる。はっきりと見える距離ではあるものの実際の距離はそれなり離れているのもあって向こうはまだ俺には気付いていない。
雫については俺の攻撃を待っているのか、まだ攻撃を開始してない状態である。ただ狙いは定めてるっぽい。
「大体百発くらいかな?」
真面目に数えてないので感覚での数だが、それなりの数の氷の弾丸が俺の周囲に浮かぶ。奇襲が出来るのかは回のみ。一度攻撃すれば当然ながら向こうは俺らに気付き臨戦態勢を取るだろう。そうなれば不意を衝くのは難しい。
出来ればノーダメージと言うのは避けたいので、確実にダメージを与えられそうなものが貫通力の高い”アイスバレット”だと判断した。
通らなかったら通らなかったで次の手を考えるだけだ。
「せーの! 行け!!」
そんな訳で俺はアンノウンに狙いを定め、百発くらいの氷の弾丸が一斉にドラゴンもどきへと発射する。それと同時に雫の攻撃を開始されたのだった。
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