46【再来】
「吉川市上空に高魔力反応及び、歪曲反応! 謎の暗雲を観測!」
「!?」
その叫び声を聞き、ただでさえアンノウンの大量出現で慌ただしくしていたのに、更に騒がしくなる。即座に観測データの確認の作業に移る人に、叫んだ人の元に駆けてモニターを覗き込む人等々。
「何があったの!?」
「さっき言った言葉そのままの意味です! 吉川市上空に強力な魔力反応を観測しました!」
「魔力反応……?」
「はい。それだけではありません。その場所において謎の暗雲を観測しました。更に言えば、暗雲付近……空間の歪曲も感知しました」
「!? 映してちょうだい!」
「画面、映します!」
そう言うと同時に目の前にある大きなスクリーンに映像が映し出される。場所は吉川市……今現在も相当数のアンノウンを観測している場所だった。
「これは……」
空間の歪曲現象。
それはアンノウンが出現する際に発生する現象の一つで、アンノウンの警報を鳴らす基準にも使われているものだ。アンノウンが出現する際、周囲の空間が歪みだすと言うのは既知の話だけれど。
モニターに映ったものは、言われた通りの暗雲だった。プラズマのようなものも発生してるし、その暗雲は渦巻くようそこに佇んでいる。それだけならまだいいけど、徐々に周囲を暗くしているのも見える訳で。
「ただの雲ではないですね」
「七夜……」
いつの間にかすぐ近くに来ていた七夜を見る。
ただの雲ではないのは誰もが察しているだろう。そしてさっき言っていたけれど、暗雲付近に空間の歪みを発生しているとのこと。こんな状態を私……いえ、私たちは見たことある。
「吉川市以外での反応は?」
「ありません! アンノウンが確認されているのも、暗雲があるのも吉川市のみです!」
何故こんな一部地域だけにこんなにアンノウンが出ているのかは分からない。そしてあの暗雲にも言えること。
少々言い方が悪くなってしまうけれど、この地域だけにしか被害が出ていないというところは良かったのかもしれない。だけれど、この地域も関東の管轄であり、守るべき場所だ。
「今、駆け付けているSクラスの魔法少女は?」
「こちらに向かっている途中の者は2名。既に駆け付けている者は5名になりますね。残りの3名は各地の哨戒に当たってます」
この関東地域に所属するSクラスの魔法少女は全部で10名。そう、たった10名しか居ない。10名しか居ないけれど、その力は一般の魔法少女と比べても桁外れと言っても過言じゃないわ。
制限はあるものの、一時的に時を止めると言うとんでも魔法や、広範囲にかけて魔力回復を促進する魔法や能力向上系統の広範囲魔法、星を降らす魔法に全てを貫く極太レーザーなどなど。
魔法少女についてはアンノウンと同じで謎が多いのよね。
稀にそんな力を手に入れて子が悪さしたりとかしてしまうこともある。そんな魔法少女に対応するのもまた魔法省である。警察や自衛隊の武器程度では魔力装甲が邪魔をするのでどうしようもないしね。
アンノウンの攻撃に耐えるレベルの装甲よ? 拳銃とか自動小銃だとか、そんなものでは削れないわよ。少しは削れるかもしれないけれど、魔力の自然回復の方が早いから削れるけど削れないと言う感じかしらね。
「アズールフラワーとチェリーレッドにはあの近くに行ってもらうつもりだったけれど、危険ね。彼女たちを今の緊急避難所である小学校の方に行くように指示を」
「了解です」
あの暗雲近く……正にそこは強力な魔力反応があった場所なのよ。衛星写真を見ても何も映ってなかったのに魔力反応があったから調べてもらうつもりだったけれど……危険ね。
それから白い魔法少女の子……ようやくここで名前を知れたのだけど、彼女は避難所が攻撃されたって言うのを聞いて物凄い速度でそっちに行っちゃったしね。
フリーズ・フルール……実際通話をした感じでは何というか……特に何もなく普通の女の子っぽかった。ただ何というかアズールフラワーみたいな感じで結構大人っぽい感じがあったかもしれないわね。
後は時折、話し方というか口調が変わったりするわね。成人男性のような……いえ、それは流石に失礼よね。見た目の年齢では14,5歳くらいな感じはするけど……まあ分からないわね。
それは置いとくとして、彼女は避難所に向かったということは恐らく今の緊急避難所として使っている小学校に流れ的に行くかもしれないわよね。
魔法少女の姿で……って言うのは考えられないわよね。無理に探るつもりはないけれど、彼女の目的が分からない以上、スルーって言うのはちょっと難しいわよね。もしかしたら魔法省に敵対する可能性だってある。
可能性を考えればどんどん出て来てきりがないわね。ともかく、味方か敵かがはっきりとしてない以上は、警戒するに越したことはないのよね。
「でも今はそこではないわね」
確かにフリーズ・フルールのことも気になるけれど、今はそれ以外にやることがある。あの暗雲……空間が歪むということは間違いなくアンノウンが出て来るわ。
……それがレベル4なのか5なのか6なのかは分からないけれど、これほどの影響を及ぼすものだ。ただのアンノウンではないのはもうほぼ確実ね。
私はゆっくりと立ち上がる。
「手が空いてるBクラス以上の魔法少女に通達。緊急避難所である小学校に集結せよ。Cクラス以下については後方支援及び緊急避難所の警戒へ」
何が起こるか分からない。いや……もう何となく分かっていかもしれないわね。あの光景を見たことがある人ならば。
「緊急避難所に作戦本部を設置するわ。私と七夜はそこに向かうわ。現地に居る魔法省職員にも連絡を」
「月夜!?」
こんな場所でじっと何てしてられる訳がないでしょ。昔みたいな大惨事は起こさせないわよ。
▽▽▽
「アンノウンだ! アンノウンが来たぞ!」
それは誰の声か。
その声の通り、避難所周辺にアンノウンが出現し始める。ただ、知っての通りこの緊急避難所は相当数の魔法少女が待機しているし、自衛隊も待機している訳で。
「ライトニング!」
バリバリとかなり大きな音を立てながら雷がアンノウンに落ちる。そしてそんな魔法の雷に打たれたアンノウンはそのまま消滅する。
その光景に驚く者、感嘆する者、目を輝かせる者……反応は人それぞれだ。ただ戦っているのが10代の女の子だって言うのは周知の事実なので逆に不安そうな顔をする人や心配する者も居る。
そう言った人々の反応をよそに、俺は向こうに消える暗雲に目を向ける。
「お姉ちゃん……」
「ああ」
俺は、いや俺たちは知っている。あの光景を。
「まさかこの場所で悪夢が再来するとか、冗談じゃないぞ」
5年前の光景が蘇る。
東京全体を覆った暗雲……そしてそこから現れたアンノウン。
「出て来て欲しくはないが……それは叶わないよな」
レベル6のアンノウン……ドラゴン型のアンノウンの姿が頭をよぎる。
当時の俺は実際、その場所で見た訳ではないが、テレビとかがもうこれと言わんばかりに中継を流していたのでその姿自体は見たことはある。
あの時も思ったけど、あれを中継しようとするテレビ局の人もかなり肝が据わってると思う。
「レベル6のアンノウン……」
まだ姿は見えない。
だが、あの時と同じような光景である。いつあそこからアンノウンが出て来てもおかしくはない。あの時感じた、やばい気配はあれだったのだろうか?
もし……レベル6のアンノウンが出たら恐らく被害は尋常じゃないものになるだろう。5年前と比べて色々と進歩していても結局アンノウンの攻撃は普通では防ぎ切れないのだ。
そして一般人はもちろん、魔法少女にも死傷者が出る恐れだってある。むしろ出ない方がおかしいかもしれない。
「お姉ちゃん、行くの?」
そんなことを考えていると、不安そうな顔で俺に聞いてくる雫が目に入る。
行く……それは多分これから出現するであろうアンノウンに対してだろう。ここは俺の暮らしてる町でもあるし、雫も居る。だから恐らく俺は行くんだろうな。
だが……俺の使う属性が氷と言う過去に1人……雫だけしか居なかった魔法ではあるものの、レベル6級のアンノウンにどれだけ通用するのか。まだレベル6かは分からないが……まずどこまでやれるのかだろう。
「一応はな」
「それならお姉ちゃん。私も行く」
「え?」
予想外の言葉にきょとんとする。
「いやいや……雫、正気か?」
「うん。正気だよ。それにあいつとはまだ決着がついた訳じゃないし」
そう言って暗雲をにらみつける雫。
さっきまでの不安そうな顔はどこ行ったし。というか決着がついた訳じゃないって……雫が凍らせたお陰であのレベル6のアンノウンは消滅してるんだし。決着は付いてるのでは。
「あれは自分も凍ったからイーブンだよ」
「お、おう」
少し反応に困る。
「でもいいのか? お前は……」
「うん。分かってる。アイス・メロディーは既に死んでいるって言われてることだよね? でもそれってぶっちゃけ、変身しなければ分からないでしょ。魔法少女の姿の時は騒がれるかもしれないけど、変身を解除すれば普通に暮らせるよね」
「……それは確かにそうだが。でも足を怪我してるじゃないか」
「変身すれば問題なく動けるよ。それにもう結構痛みも引いてきたし。骨折じゃないしね」
そう言って車椅子から立って見せる雫。
……兄としては止めるべきなんだろうけど。
「本気、なんだな」
「うん。それに今回は一人じゃないしね?」
そう言って俺に向けてウインクする雫。
「ったく……はあ。分かった分かった。それなら行くぞ。5年前のような惨事はごめんだ」
本気の目だったし、強い意思も感じた。これは俺が止めても無駄だなと思い、こちらが折れることにする。何処までやれるかは分からないが……5年前のような大惨事にはしたくない。
そうと決まれば。
俺と雫は今居る場所から静かに去り、人目のつかない場所へと移動する。もちろん、移動中も周りに注意しながらだ。
「……」
「……」
誰も居ない部屋で俺と雫は向き合う。一応、校舎内も開放されているのでこうやって入ることは可能だった。まあ、トイレとかは中にしかないしな。ただ中にも当然だが人は居るのでそこも注意しながら移動していた。
そして辿り着いた場所で周りに人が居ないこと、視線を感じないことを確認したところでお互い頷き合う。そして……。
「――チェンジ”フリーズ・フルール”!」
「――チェンジ”アイス・メロディー”!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます