45【予兆】
「雫、良かった無事で」
「お姉ちゃん、うん……ごめんね」
「雫が謝る必要はないだろ?」
結局のところ、避難所に猛スピードで駆け付けたのは俺のはやとちりだった。避難所が攻撃されたのは事実だが、幸いと言うべきか重傷者は居るけど今のところは命に別状はなく、死者も出ていなかった。
…一度、冷静に考えて見れば避難所には自衛隊だとか魔法少女だとか普通に待機しているはずである。実際、自衛隊も救急隊も魔法少女も待機していたのもあって、攻撃してきたアンノウンは討伐できたみたいだ。
避難所を攻撃してきたアンノウンはカメレオンのような感じのやつだったらしく、カメレオンのように周りと同化して見えなくするという力を持っていた。攻撃を防げなかったのはそれが原因みたいだ。
とは言え、周りに同化すると言っても全く見えない状態になる訳ではなく、こう何て言うのかな? 物凄く薄く見えると言うか……目を凝らさないと見えない感じかな。
逆を言えば目を凝らせば何となく見えると言った感じであり、それで何とか討伐できたみたいだ。一度魔法少女が攻撃するとアンノウンは何故か魔法少女にターゲットを変える。
確か……魔法少女の魔力に反応するんだったか? しないアンノウンも居るみたいなのだが……何というかやはり謎が多い敵だよ、アンノウンは。
頑丈に出来ているはずなのにこれだけ破壊されたのは、そのカメレオンもどきのアンノウンが普通に強かったから。待機していた魔法少女だけでは倒し切れなかったようで、近くに居た魔法少女も応援に駆け付けたみたいだね。
結局、いくら頑丈に作られていてもアンノウンの攻撃は普通とは違うので個体にもよるが、破壊される時はされるのだ。
攻撃の影響で、地下も崩れてしまい既に避難していた人がそれに巻き込まれてしまったという。それで今は絶賛救助活動中という感じだ。魔法少女も居るので瓦礫くらい大したことはないみたいだ。
それでも崩壊したのに死者が居ないのは……かなり運が良かったのだろう。既に巻き込まれた人たちの救助は終わっており、今は治療や崩れた内部の調査等を行っているとのこと。
割とこの状態で怪我人だけで済むって言うのは本当に凄いことだと思う。だけど楽観視はしてられない。避難所が襲われ、一般人にも被害が出てしまったのだ。
更に言えばまだアンノウンの出現は終わってない。警報はまだ鳴ったままだし、誰もが分かることだと思う。
ただ……そう言った悪い話だけではなく、アンノウンの数が減っていると言う情報もある。と言っても。俺が直接聞いた訳ではなく、近くに居る魔法少女の話を盗み聞きの如く聞いただけなのだが。
盗み聞きする気はなかったが……本当だぞ? だけど、結構普通にオープンで話してるもんだから聞こえるんだよな。自衛隊の人とも話しているしな。
魔法少女は一応、分類上では自衛隊と同列で国防である。ただし管轄は魔法省と言うだけだ。まあ、そんな魔法省と防衛省は協力関係である。これは前にも言ったか……。
なので、魔法少女が自衛隊の人と話していてもその反対があっても別におかしいことではない。
それは置いとくとして、普通に自衛隊の人も話してるし機密というものではないのかな? 取り敢えず、聞いた感じでは一応アンノウンの数は減ってきているとのことだ。
「良かったですね、雫さん。お姉さんと再会できて」
「はい!」
そんなことを考えていると雫のことを見つけ、助けてくれた救急隊員の人が雫に声をかける。幸い、雫は土砂崩れと言うか崩壊して落ちてきた物に巻き込まれておらず、足を捻ったくらいで済んでいた。
とは言え……大分痛そうな感じはする。でも命が助かっただけでもいい方なのかもしれない。いや、死者は出ていないからこれを言うのも何か違う気がするな。
重傷を負わなくて良かった、というべきか。
「今のところ、この周辺にはアンノウンは居ないようですがいつ出て来るか分かりませんので、しばらくはこちらで待機してください」
「分かりました。雫を助けてくださりありがとうございました」
「いえいえ……仕事を全うしただけですよ」
それだけ言ってその人は別の怪我人が居る場所へと移動する。
怪我人は何も雫だけじゃない訳だしな。中には重傷者だって居るし、何と言うか……忙しそうだな。慌ただしくあっちこっちに駆け回る人たちを見てそんなことを思う。
避難所はアンノウンの攻撃で崩壊してしまってるので使い物にはならない。そのため、少し離れた場所にある小学校を一時的に緊急避難場所として使用している。
色々な人が居る感じだな。テントとかもあれば、自衛隊のトラックとかも止まってるし自衛隊人も居る。当然だが、魔法少女たちもそれなりに居る。
魔法少女についてはまあ、空を飛んだりしてあっちこっちを警戒している。それなりの数の人が居てある意味圧巻とも言えるだろうか。
ってか、これだけの数の魔法少女がここに居るって言うのもまた新鮮だな。
「結構人が居るよね……」
そんな光景を見ながら雫は呟く。
残念ながらファンタジーとかで出てくるような便利な回復魔法はない。あるとすれば光属性の魔法だが、確かに治療出来る魔法はあるけど万能ではない。痛みを和らげたりとか、自然回復を促進するようなそんな感じの補助的な魔法なんだよな。
じわじわと回復させるような感じか……取り敢えず、そこそこ長い間魔法をかけ続けないと意味がない訳で。ある程度、かけたら後は自然回復に任せる形になる。
即時に回復出来るような魔法があったらそれはそれで地球の医療が色々と可笑しくなってたかもしれない。
雫もそんな回復魔法と言えるかは分からないが、その魔法で治療された後なので今は様子見と言った感じだ。無理に足を動かすと悪化する恐れもあるので車椅子に座って、それを俺が押してる形である。
「まあ、ここに集まってるからな」
避難所は使い物にならなくなったし……。
既に知ってると思うが、今の俺は変身を解除した状態でここに居る。魔法省のトップである星空月夜……彼女の話を聞いてその二人とその場所へ行こうとはしていたものの、その途中で避難所のことを聞いたので俺は慌ててこっちに来てしまったのである。
ちょっとまずったかなあと思いつつも雫が無事なのを確認できたのは良かったと言うべきか。
「まだ警報が鳴ってるんだね」
「うん」
過去にここまで長く鳴り続けた時があっただだろうか?
首都凍結の時は置いておき、ここまでアンノウンが出現しまくるこの状態は明らかに異常だ。数はようやく減り始めているようだが、まだ居るのは変わらない。
ただ今回は過去の反省点も踏まえ、色々と対策をしていたのもあり被害はかなり抑えられていると言っても過言ではない。何せ未だに死者は出てないのだ。
怪我人は結構出ているようだけども。
後は他の地域には出現していないって言うのも大きいのかもしれない。その分、戦力をこっちに回せるしな。だからこそ、これだけの数の魔法少女がこの地域に居る訳で。
「でも何でこの地域だけなんだろう……何か東京の出来事が思い浮かんじゃう」
「雫……確かにな。明らかに異常だし」
異常は異常。異常としか言えないからそこは勘弁願いたい。
何かちらほら聞こえる話からして、この場所だけにしか出現してないみたいなのだ。他の地域には観測されていない。流石に関西とかあっちの方までは分からないけど。
少なくともこの関東地域ではこの場所にしかアンノウンは居ない。数も異常だし、時折レベル4の上位に位置するような個体も混じっている様子。俺が戦ったアンノウンの中にも居たしな。
東京で起きたこと……確かにな。
あの時はこうやって低レベルのアンノウンが大量に押し寄せたと言う感じではなく、開幕レベル6が出現したのだ。それに続いて相当数のアンノウンが出現し始めた。
今回は違う。大量のアンノウン出現から始まっている。そしてあの時に感じたやばい気配も気になる。あれがアンノウンだったらレベル6と言ってもおかしくはないかもしれない。
「な、何だあれ!?」
それは誰の叫び声か。
それを聞いた人々がその方角を一斉に見る。その方角の空……かなり近い感じがするし、この地域内だろうか? 結構近い位置の空……そこには禍々しい感じの暗雲が渦巻いていた。
「お姉ちゃん……」
「……」
明らかに自然現象とは言えない、その暗雲を見て俺は固まる。この距離でもひしひしと感じる何か。それは最近どこかで感じたようなものだった。
「!?」
気付けばさっきまで見えていた青空が徐々に消えていき、暗闇に侵食され始めている。
「こ、これは……」
この光景をどこかで見たことがある気がする。……いや、見たことがある。
「お、お姉ちゃんあれ……」
天変地異……と言っても過言ではない。
そんな光景を見た人々は怯え始める。青い空が見えなくなっているこの状況……いずれは全部が黒く染まってしまうだろうと容易に想像できた。雫も例外ではなく、怯え始めていた。
「おいおい……マジかよ聞いてないぞ」
「奏、雫、無事!?」
そんな中、聞き覚えのある声が聞こえ、そちらを向けばそこにはフルールが居た。そう言えばさっきまで、フルールの姿が見えなかったことを思い出す。
「フルール……」
「ようやく見つけたわ。全く……物凄いスピードで移動するんだから」
「ごめん」
あの時はかなり焦っていたのは自覚してる。フルールを置いてけぼりにして加速しては避難所に行った訳だが、結果俺のはやとちりだった。
はやとちりと言うくらいでもないか? でもまあ、あの通話だってまだ終わる気配はなかったし最後まで聞いておくべきだったかも。とは言え、結局俺は元より雫を探すつもりで居たので間違ってはいないか。
2人についても置いてけぼりにしちゃったしな。
まあそれで、避難所に居た人たちは今居るこの小学校に居るってことを聞いた(聞こえた)からこっちに向かった感じだ。魔法少女の状態で行くのはどうかと思ったので人目のつかない場所に隠れて変身を解除してからしれっと言った感じに中に入った訳だ。
で。たまたまさっきのあの救急隊員の人に会って声をかけられて雫の場所に来れた訳である。
俺の容姿が雫にそっくりだったから血縁者かと思って声をかけたみたいだった。まあ、それは正解ということで合流できたのだが。
「あれ、やばいわよ……真面目に」
「知ってる」
「お姉ちゃん、フルール……この感じ前にも感じたことがある」
「……5年前だろ?」
そう言えば、どこか怯えた様子の雫が静かに頷く。
「……」
最悪の事態を思い浮かべ、俺はその暗雲を見るのだった。
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