43【通話】


「アイス・ブラスト」


 目の前で氷爆が発生し、集まっていたアンノウンを巻き込み消滅させる。もちろん、今回もちゃんと自分の身をバリアで守っているので魔力装甲にダメージはない。ただこの魔法、周りの気温も少し下げるから寒くなるんだよな。

 まあ、すぐに元に戻るから特段気にするようなことはないのだが。


「これで何とかなったかな」

「……えげつないわねえ」


 一通り、アンノウンを殲滅させこの周囲にはもうアンノウンを居なかった。他の場所は分からないが、ともかく続けて出て来る気配はない。

 確認をしているとフルールがその光景を見ながら呆れたように呟く。


「やり過ぎたか」

「やりすぎってものでもないと思うけどね。数が尋常じゃなかったし」


 局地的に白に染め上げてしまった場所を見ながら俺は呟く。俺の使う魔法は氷なのだが、どっちかというとこれ氷と言うより雪だよなあ……まあ雪も氷だし間違いはないのだが。

 そんな俺の呟きが聞こえたのか、いつに間にか戻って来ていたチェリーレッドが呟きに対して答える。


「チェリー……何だっけ? そっちは倒せたの?」

「チェリーレッドだよ! 忘れるなんて酷い……うん、まあ、私の方はもう処理できたよ」

「冗談」

「冗談に聞こえなかったんだけど……」


 大丈夫だ。冗談なのは間違いではない。ちゃんと名前は覚えているが、確認ということで。


「あ、アズールフラワーも戻ってきたみたい」


 そんなやり取りをしてると、向こうから青い魔法少女……アズールフラワーが戻ってくる。

 ぶっちゃけ、俺は助けてそのままおさらばしたかったのだが、アンノウンの数も居たので取り敢えず、一時的に協力していると言う感じになってる。


 まあ正確には向こうからお願いされたのだが。

 魔法省には所属するつもりはないが、アンノウンを倒すだけならば協力してもいいと思ってる。だってここは俺の住んでいる地域なんだからな。


 ただ正直なところ、チェリーレッドとアズールフラワーは魔法省に所属する正規の魔法少女である。そんな子が野良の得体の知れない俺と協力することに反対しないのだろうか……。


「戻りました。あっちのアンノウンも掃討出来ました。見た感じではもうこの辺りには居なさそうですね」

「だね。新たに出現する気配もないし……他も場所に行こうかな」


 ちらりと俺の方を見る。

 そう言えばどこまで協力するかなんて決めてなかったな……ただ彼女たちが別の場所に行くのであればここで別れる方がいいかな。俺も俺で雫が気になるしな。


「はい、もしもし。アズールフラワーです」


 そんなことを考えていると、どうやら誰かから通信が届いたようでそれに応答しているアズールフラワー。チェリーレッドも彼女の近くに移動し、覗き込んでるみたいだ。


「……テレビ電話か」


 端末を見ながら頷いたりとかしてるので、多分テレビ電話みたいな感じに相手の顔が映っているんじゃないかって思う。俺は部外者なので覗いたりするつもりはないけど、音声が何か少し漏れてるぞ? それいいのか……。


「それ本当なのですか!?」

『ええ。本当よ。だから今すぐに向かって状況を確認してきてもらえるかしら』

「了解です」

『ただ……何があるか分からないから十二分に注意して欲しいわ。この強力な反応がアンノウンだったら避難所に大きな被害が出る可能性があるわ』


 ん? 避難所? 強力な反応? いや、聞くつもりはないのだが漏れてしまってるので嫌でも通話が聞こえてしまうのだ。こればっかりはあの2人に言ってくれ。


 内容を簡単にまとめると、

 避難所の近くに強力な反応を感知したみたいでその場所に行って確認をして欲しいということみたいだな。魔法少女の反応ならいいが、アンノウンだった場合は避難所が襲われる恐れがあるということ。

 衛星の映像を確認してもその場所周辺に不審なものは映ってなかったようで、とにかく注意して確認して欲しいと言う感じの話みたいだ。


「というかあの声、どこかで聞いたことあるような」

『……という訳で、そちらの白い魔法少女さんも手伝ってくれると非常に嬉しいわ』

「ん!?」

『もちろん、あなたは野良だから私が強制するようなことは出来ないけど……そこの判断は任せるわ』


 いつの間にか2人が俺の近くに来ており、通信端末であろうそれを俺に見せて来ていたのである。驚いて画面を見れば、そこには恐らくほとんどの人が知ってるであろう人物が映っていたのである。


「星空月夜……」

『あら、私のこと知ってるのね』

「それはもちろん……有名だし」


 星空月夜ほしぞらつきよ……現魔法省のトップ且つ、始まりの魔法少女の一人。

 テレビとか新聞とかでも良く映っているので見たことない人なんて居ないと思う。本物を見るのは初めてではあるけど……ほぼ一緒だな。見た目は高校生とか中学生くらいにしか見えないのだが。


 まさかトップと話してるとか思わなんだ。道理で聞いたことある声だった訳だよ。


『今、失礼なこと考えてたでしょう?』

「そんなことはないよ?」

『そう? それならいいけど。……こうして話すのは初めましてよね。知っての通り、私の名前は星空月夜よ』


 想定外の人物との対面(画面越しだが)したことには驚きを隠せないが……まあ取り敢えず、話だけは聞いてみるとするか。





▽▽▽





「あれ? 私は何を……」


 気が付けば私は地面に倒れていた。どのくらいかは分からないけど、気を失っていたみたいだ。


「いたっ」


 立ち上がろうと足を動かそうと思ったら鋭い痛みが走る。慌てて自分の足を見れば、足首のところが赤くなってるのが見える。それだけではなく、あっちこっちがボロボロになってる。


「大丈夫ですか!」

「ええと……はい。ただちょっと足が……」

「失礼しますね。……なるほど、どこかで捻ってしまったみたいですね。立てますか?」

「っ」


 立ち上がろうとすればやはり痛みが強くなる。何とか立てそうな気はするけど……。


「その様子ではきつそうですね。……おーい! こっちにも怪我人だ! 来てくれ!」

「すみません」

「いえ。むしろ、不躾ではありますがその程度の怪我で済んで良かったと思います」

「え? っ!?」


 そう言って救急隊員の人は目を向こうに向けたので、私も釣られてそっちを見ると絶句する。

 周囲を見回せば、何人もの人たちが救急隊員であろう人たちに運び出されたり、治療をさせられていたりしていた。見るからに痛そうな人や、意識がない人……。


「結構な数の重傷者が出てます。全身骨折、全身打撲……足や手の骨折など。幸い、魔法少女や自衛隊もそれなりに待機していたので死者は確認されてませんが」

「何が……あったんですか? というかここは?」

「避難所ですよ。地下の。ですが、出現したアンノウンによって避難所が攻撃を受けました」

「!」


 そうだ思い出した。

 あの後、私は他の人に倣ってそのまま避難所に駆け込んだんだ。避難所には自衛隊の人や魔法少女も何人か待機していたので皆安堵していた気がする。


 だけど、避難所に入った瞬間、大きく揺れたんだった。その後はよく覚えてない。多分、そこで私も気を失ったんだと思うけど……確かに何かが攻撃して来ていたような気がする。


 本当にうろ覚えだから何とも言えないんだけど。

 でもそっか……避難したところで攻撃されたんだ。何と言うか運が悪いと言うか……これ見たらお兄ちゃんに心配されそうだなあ……嬉しいけどね。

 魔法少女じゃない時は普通に怪我もするし、下手すれば命も落とす。こう考えると本当に魔法少女って不思議だよね。


 折角今日はお兄ちゃんと買い物したのに……というか流石にお腹が空いたなぁ。アンノウンのせいでお昼は食べ損ねたし。買い物袋は……うーん、駄目そう。


「取り敢えず治療しましょう。人も来ましたし」

「分かりました」


 そんなことを考えていると向こうの方から別の人が2人やって来る。手には担架を持っていて、多分さっきこの人が呼んだから来たのかな。


 その後は流石はプロと言うべきか、あっさりと私のことを持ち上げては担架の上に寝かせ、そのまま私はここから連れ出されるのだった。


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