42【掃討】


「アイシクル・レイン」


 結構久し振りなこの魔法。

 特定の場所にまず設置し、そこから氷の礫の雨をシャワーのように降り注がせる魔法である。なお、一度設置すると移動させることは出来ない。降り注ぐ氷の礫は消費した魔力にもよるけどそれなりの数が降り注ぐ。


 地上に居たレベル2くらいのアンノウンたちに容赦なく氷の礫が降り注ぎ、その命を刈り取る。アンノウンに命って言う言葉が通用するかは分からないが……だって消えるし。


「本当に氷なんだね……」


 そんな感じにアンノウンを一掃していると、後ろからそう声をかけられる。ついさっき聞いたし、声だけでも誰なのかは分かるが、違う場合もあるかもしれないので振り返ってみれば、やはり声の主はチェリーレッドだった。


 何て言えばいいかな? こう……何か主人公っぽいような感じの子だなって思う。色も何だかそれっぽいし……まあ、アニメとかの世界での魔法少女の主人公ってピンクとか赤が多いからそれのせいでもありのかな。偏見と言うやつだ。


 ピンクとまでは行かないけど薄い赤と言った感じかな。

 そんな薄い赤色の髪をそこそこ長めなツインテールに結んでおり、瞳の色もまた薄い赤だ。如何にも魔法少女っぽいフリル付きのワンピースを着ており、その色もまた薄い赤色。胸元……俺で言う氷の結晶の装飾がある場所にはこれまた同じ薄い赤色のリボンが結ばれている。


 魔法少女の衣装って人によって異なる……のは確かだけど基本的な構造は似ている感じはする。あくまで基本的な部分だけだけど。とは言え、そんな魔法少女のことなんてじっくりとか見ないから俺の偏見かもしれないが。


 取り敢えず……チェリーレッドの衣装の構造は俺の物とちょっと似ているような感じ。袖の方が若干広がっているような感じだな。まあ……少し前にも言ったけど羽とかリングとかそう言ったものはない。


 ただ靴下は白みたい。靴は基本色は薄い赤だな。

 でもって、赤い宝石の嵌め込まれているステッキを握っている。チェリーレッドの魔法属性は”火”であり、攻撃魔法とかは当然ながら火属性である。火属性だから赤いのかね? 俺も氷だから白いと言うか水色と言うか……色は別にどうでもいいか。


「? さっき言った通り私は氷属性。それがどうかした?」


 何なんだろうか……そんな驚くことかね? 自己紹介的なやつをした時に既に氷属性と言ったはずだし、ぶっちゃけここまでの戦いから見て明らかに氷なのは間違いないと思うのだが。


「もしかして知らない?」

「え?」

「……その反応からして知らないみたいだね」


 何に対しての知らないなのかがまず分からないので答えようがないのだが……。もしかして氷属性は珍しいとか? 意外と居るようなイメージがあるけど。


「えっと……氷属性の魔法少女って今までの中では1人しか居ないんだよ?」

「え、そうなの?」

「うん。5年前のアイス・メロディーだけかな。それ以外、確認されてないんだよね。まあ、これは魔法省の知ってる範囲での話になるんだけどね」


 アイス・メロディー……雫か。

 やっぱり他の人も思い出したみたいだな……いやそれは置いておくとして、氷属性の魔法少女が1人だけ? 何それ初耳なんだが?


「私はその時はまだ魔法少女じゃなかったし、アイス・メロディーに会ったことはないんだけどね」

「なるほど……それで驚いていたのか」

「うん」

「何を無駄話してるんですか。まだアンノウンは居ますよ」

「あ、ごめん」


 そんな会話の中に入ってきたのはアズールフラワー。

 チェリーレッドと一緒に行動してる魔法少女だ。話によればいつも一緒に行動しているとのことで、そもそも一緒に行動することを魔法省側も認めているらしい。


 魔法省がどんなところかは分からないけど……。


 そんな彼女は青を基本色としている。正確には純粋な青よりも若干薄みがあるかな? 空色とか? 水色……までは行かないかな? 薄い青と見ればいいか。

 名前にアズールって入ってるもんだから瑠璃色とかかと思ったけど、それよりも薄い感じがする。


 正直、色とかに詳しい訳ではないから何とも言えないのだが。


 取り敢えず、アズールフラワーも構造自体は同じようなものかな。髪の色は当然ながらその薄めの青になっていてこちらは髪は結んでおらず背中に届く程度のロングストレート。瞳の色は髪の色と同じ薄めの青だ。頭には何の花かは分からないけど、その色に染まっている花の髪飾りが付いてる。

 服については同じような長袖ワンピースではあるもののフリルは控えめで袖が広がっているタイプではない。胸元には髪にも付いていた花の飾りと一緒にリボンが結ばれてる。


 チェリーレッドはちょっと幼さがあるけど、アズールフラワーは何処か大人っぽい感じ。


 そんなアズールフラワーの属性は”水”である。水鉄砲のようなものを放ったりとか水の弾丸のようなものを飛ばしたりとかしてたかな。属性は違うが魔法自体は何か全部を通して似てたりするよな。


 ……まあ取り敢えず、アンノウンがまだ居るのは事実なのでここでじっとしてる訳にも行かないので再び掃討に戻った。





▽▽▽




「数が多いわね」


 アンノウンの出現自体は別に今更珍しいものではないけど、今回は今までに比べて明らかに数が多い。幸いなのは他の地域には出現していないところだろうか。


「周辺の居たほとんどの魔法少女が駆け付けてますね」

「ええそうね。まあ要請したのは私なんだけど……それにしてって数が多くないかしら?」

「その通りだ思います。結構な異常事態なのは間違いないかもしれないですね」


 作戦マップに現在アンノウンが出現している地域全体の地図を映し出す。見事なまでに真っ赤になっている。この赤い点はアンノウンは確認されている場所のことを示してる。


「一般人の避難は?」

「現状、おおよそ70%が地下に避難出来ていますが……」

「まだ30%も避難できてない人が居るのね」

「はい。アンノウンが一般人の居るところに突然出現したりとかあったため、その対応もあって遅れている状態ですね」


 アンノウンはランダムな場所に出現するから何処に現れてもおかしくはないけれど……避難中の一般人の近くに出現したらそれはそれで色々と厄介なのよね。過去にそう言うパターンは幾つかあったけど……。


 何かを守りながら戦うと言うのはぶっちゃけ、難しいのよ。魔法の威力を抑えたり、範囲魔法ならその範囲を調節したり、間違って一般人の居るところに魔法を飛ばさないように気を遣うのも……実際やってみれば分かる。


「あと、今回……やはり件の白い魔法少女が目撃されてます」

「! まあそうよね」


 謎の多い野良の魔法少女……あの地域に暮らしている可能性は非常に高いから今回目撃されてもおかしくはない。いまいちあの子の目的が分からないわよね……。

 東京で何かを探していたのもそうだし……少なくとも現段階で言える事は味方と言った感じだろうか? いえ、味方と断言するのは危険よね。かといって敵と言った感じもしないし……。


「中立と言えばいいのかしらね」


 向こうも向こうで目的があって行動しているようだしね。それがいいものなのか悪いものなのかは判断できないけど。


「これはついさっき入った情報ですけど、その白い魔法少女は今現在、とある魔法省の魔法少女2名と行動しているみたいですね」

「! それは本当なの!?」

「は、はい。チェリーレッドとアズールフラワーのようです」

「あの子たちね。一緒に行動してるってことは何かあったのかしら?」

「さあ、そこまでは……」


 今まで魔法省の魔法少女と遭遇したらすぐさまその場から去ってしまってる、件の魔法少女が魔法省の魔法少女と行動していると言うのはどういう風の吹き回しなのかしら。

 いえ……もしかすると何かしらの利害が一致して行動しているのかもしれないわね。


 今回初めてコンタクトが取れたということになるのかしらね。


 チェリーレッドとアズールフラワーは今回アンノウンが大量出現している地域の隣の地域を担当している魔法少女だ。吉川市には魔法少女は居ないので、そこでアンノウンが出現した場合その子たちがまず最初に駆け付けるようになってる。

 もちろん、自分の地域が優先になるんだけどね。


「……それは置いときましょ。後で2人に連絡を取るとして、今回のこのアンノウンの出現、七夜なやはどう思う?」

「私ですか? うーん……おかしいのは間違いないと思います。それとこれはあくまで私の感覚なんですけど、何だ凄く嫌な予感がします」

「あら、あなたもなのね」

「え? ってことは月夜さんもですか?」

「その畏まった話し方は何だかむず痒いわ。今は私と七夜しか居ないんだし普通に話してくれないかしらね」

「一応業務時間なんですけど……」

「誰も気にしやしないでしょ。それに知ってる人の方が多いでしょうし」

「はあ……仕方ないなぁ」


 私がそう言えば七夜は苦笑いをしながら口調を戻す。

 彼女の名前は月代七夜つきしろなや……一応幼馴染になるのかしらね。補佐官と言った感じの役割をしてもらっている感じね。なので、一緒に居る時間は恐らく一番長いかも。


「人前ではあっちの喋り方にするからね。幼馴染と言っても今は月夜の方が偉いんだから」

「それで構わないわよ。偉いと言ってもねえ……」


 魔法省のトップだから何って話になる。私自身はぶっちゃけ何もしてないんだしね……昔は魔法少女として活動していたけど今じゃ全盛期ほどの力はないわね。変身は出来るみたいだけど。


 でもよく考えてこの年で魔法少女とか恥ずかし過ぎるわよね。


「それで今回のアンノウンでしょ? さっきも言ったように嫌な予感がするのと、既に月夜も気付いていると思うけど……」


 そこで一旦言葉を区切り、一つのグラフデータを私に見せてくる七夜。


「やっぱり七夜も気付いていたのね」

「まあね」


 そこに映されているデータはここ最近の増加傾向を表すグラフだ。そしてもう一つ……5年前のグラフも映っている。2つのグラフはほぼ同じような感じで増加傾向を表していた。


「これを踏まえて考えると……12月に何かが来そうな気がするんだよね。いや……もしかしたらもう来てるかもしれない」

「今発生しているアンノウン出現ね」

「うん。数が明らか多いし……何かが居そうな気がしてるけど、まあそんな気がするだけで何とも言えないんだけどね」


 ……。

 杞憂で終わればいいんだけどね……。



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