40【乱入】


「アイス・バレット!」


 氷の魔弾がステッキから放たれる。

 魔弾は近くに居たアンノウンを貫通し、更に奥に居たアンノウンを貫く。そして弾丸に貫かれたアンノウンはその場から綺麗に消え去る。


「何か多くないか」

「ええそうね……レベルは2とか3ばかりみたいだけど」


 ビームとかを撃って来る熊のアンノウンを倒したあと、俺はこの地域内を簡単に見回っていた。警報は相変わらず鳴り続いているのでまだアンノウンを倒し切れていないということだろう。


「一体どんだけ出てるんだ? この近くだけでも10体は居たよな」


 幸い空を飛ぶイノシシもどきのアンノウン以外については弱いものばかりで簡単に倒せるものの、数が多い。何処かから湧いているかのように倒しても倒しても次が出てくる。


「……」


 雫は逃げられているだろうか。大丈夫だと思うが……心配でもある。背中にある羽を使い、空を飛びながらそんなことを考える。飛行能力を持つ小さいアンノウンも何体か襲って来るものの脅威と言う感じではない。

 鳥みたいな感じの見た目をしているし、身体も若干小さめなので面倒なのは違いないけどな。


「地上にも結構いるなぁ」

「その分、魔法少女も対応してるみたいだけれどね」

「みたいだな。どうも、この地域にしか出てないみたいなんだよなあ。そんなことってあり得るか?」

「何とも言えないわね……ただ確かに気になるわね」


 見える範囲ではそれなりの魔法少女の姿が確認できる。

 この地域に魔法少女は居ないので、隣町とか違う町とかから来ているはずだが、こんなに来ても大丈夫なんだろうか。何か向こうから新しく駆け付けたような子まで居るし。


 これを見る限りではこの地域にしかアンノウンが出ていないように見える。見えるだけなので本当かは分からない。もちろん、最低限の戦力は残しているだろうけど。


「どっから出てるんだよ本当に。原因がありそうな感じがするけど」


 原因も何もそもそも、アンノウンの出現って不定期だし空間が歪んでから出てくるみたいなので原因は空間の歪みになるのか? いや歪みは出現する際の現象であって根本的な原因ではない……んだっけか。

 確か別空間から空間を歪ませて出現するって言うのが今現状信じられている仮説だったかな。


 別空間とか意味分からないが……でもそうとしか考えられないってのはある。


「奏、あそこ!」

「ん? っ!」


 フルールの言った場所を見るとそこには何か無駄にでかいアンノウンらしきものが見えた。更に言えばその近くに人影が2つ見えるから恐らくあれは魔法少女だろう。

 いや問題はそこではない。その2人の魔法少女の内、1人がアンノウンのしっぽ? みたいなやつの攻撃を受け、吹っ飛ばされる。それをもう1人の子が受け止めたが、その瞬間を狙ったのか何か口から放とうとしてるのが見える。


「ったく……あまり他の魔法少女と関わるつもりはないんだけどな……」


 ただあの2人は見覚えがある。

 この地域でアンノウンとかを倒していると必ずと言っていいほど遭遇する2人組の魔法少女だ。名前は知らないけど……多分この地域を担当してる近隣の町の魔法少女なんだろうけど。


 魔力装甲があるから大丈夫だろうけど……目の前で襲われそうな子を見たら流石に無視は出来ない。それに魔力装甲があると言っても攻撃を受ければそれなりの衝撃とかは来るからな。


 ステッキを握り直し、その場所に向けて急降下する。


「え?」

「!?」


 急に現れた俺に驚いているようだ。取り敢えず、普通に間に合ったようなので素早く魔法を発動させる。思ったより速度が出て正直、少しびびった。下り坂降りる時みたいな感じ……。


「マルチプル・アイスバリア」


 雪の結晶を模したような形の壁と言うかバリアが無数に出現し何重にも重なっていく。自分の周辺、後ろに居るであろう2人の周辺……それぞれにバリアが展開される。


 そして次の瞬間、目の前に居る何か無駄にでかい感じのアンノウンの口から炎のブレスのようなものが放たれる。そしてそのブレスは俺の展開したバリアをぶつかり合う。


「氷と炎だったらどっちが強いんだっけ」

「氷のじゃない。解けると水にもなるし」

「あ、それもそうか」


 なんて凄いどうでもいいことを話す俺とフルール。実際問題、そのブレスはまだ一枚目のバリアとぶつかり合っているみたいで、こっちのバリアが壊れる感じはしない。ただ削れてきているのは確かだが。


「あ、1枚目が砕けた」


 そんなこと考えてると1枚目のバリアが砕け散ってしまうものの、そこでブレスが止まる。


「###!!」


 突然の乱入者である俺を睨みつけるように見るアンノウン。


「で、無事?」

「え? う、うん」

「は、はい……ありがとうございます」


 そんなアンノウンを尻目に2人の方に声をかける。すると2人とも、戸惑うように返してくる。まあ、突然俺が乱入してきたらそりゃ、そうなるよな。


「さてさて。危なそうだったから介入したけど……お節介だったかな?」

「ううん! そんなことないよ。あのままだった2人揃って直撃受けてただろうから」


 俺の言葉に返してくれたのは赤と言うかピンクと言うか、そんな感じの色の方の少女だった。髪もそれに倣って同じ色で衣装自体もまた同じ感じの色だった。ただし、俺のような輪っかとか羽はない。


「その子の言う通り、2人揃って直撃を受けていたと思いますし、助かりました」

「それなら良かった」


 続けて青色……青に近い感じの方の少女も答えてくれる。正直、余計なお節介だったかもしれないとは思っていたが……そんな感じはなさそうだな。ひとまず良かった。


「えっと、あの」

「ん?」

「いえ、さっきから普通に後ろから平気で攻撃されてますけど……」

「ああ……このくらい大したことないよ」


 背中を向けた瞬間どうせ攻撃してくるだろうと思ってバリアは張ったので微妙に衝撃は来るけど、特に俺にダメージはない。ブレスではなく物理攻撃なのは笑うが。


「あれは倒した方がいい?」

「そ、そうですね。このままにしておくと被害が広がりますし」

「そっか。ならちょっと離れててね」

「え?」


 最後まで聞くことはなく、それはそのまま後ろの振り向き加速して接近する。突然、目の前にやってきたように見えるだろう。アンノウンの顔は分からないが、驚いているように見える。見えるだけだが。


「さようならっと。アイス・ブラスト! ついでにアイスバリア」


 刹那……アンノウンが爆ぜる。

 冷気を纏った爆発が引き起こされ、周囲を凍結させると同時にアンノウンを飲み込む。さっきの空飛ぶイノシシもどきに使ったものと全く同じであるが、今回はバリアを併用したので問題ない。


 というか最初からバリアを併用しろよって話だけど。


「ってまじか」

「あらあら。まだ生きてるわね」


 確かに手応えはあったのだがまさか生き残るとは思わなかった。冷気が晴れると身体のいくつかの場所が凍り付いた状態のアンノウンが姿を現す。消えてないってことは倒し切れてないということだ。


「あれを耐えるか……」


 レベル4かと思ったけど……5くらいはあるか? フルールの判定によると4~5みたいなんだけど……知っての通り1レベルの誤差があるから何とも言えない。もしくは、氷属性に対して耐性とかがあるとかかな。


「だ、大丈夫? 何か凄い自爆技みたいな魔法だったけど!?」

「ん? 自爆じゃないよ。ちゃんとバリア張ったし」

「いや、そういう問題じゃないよね!?」

「?」


 一番手っ取り早く倒せそうな魔法を使っただけだが。

 まあ、確かに傍から見れば自爆魔法と捉えられてもおかしくないけど、このアイス・ブラストって魔法、意外と使い勝手が良いんだよな。射程距離はそこまでないから近距離になるけど。

 高威力で広範囲。うじゃうじゃ居るような場所で使ったらスカッとするかもしれない。それは置いとくとしても、こて単体に対してもかなりの威力があるし、あんな感じに凍らせることも出来る。


 狙いを定めずに済むって言う利点もあるな。ただ確かに失敗すると自分にもダメージ入るから注意と言った感じだが。


 まあでも結局一番使い勝手がいいのはアイシクル・シュートだよな。追尾性能はないけど氷の礫をマシンガンのように放てるからね。氷の弾幕を張れるよ。


 閑話休題。


「でもまあ、かなりのダメージは入れられたかな」


 見た感じ、アンノウンは悲鳴のような変な声を上げているし虫の音と言ったところ。アイシクル・シュートとかで不通に留めはさせそうだ。


「アイシクル・シュート」


 再びアンノウンを見てステッキを向けたところで、俺はとどめと言わんばかりに静かに魔法のキーワードを紡ぐのだった。



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