39【襲来】


「お姉ちゃん、大丈夫かな」


 他の人と一緒に避難しながら私はそんなことを呟く。

 鳴り続ける警報……鳴ってるのは緊急避難警報の方で、これは近くにレベル4以上のアンノウンが出現するということを知らせている。

 5年前……東京でも同じ警報が鳴り響いていたのを思い返す。私が使える魔法の中で最も強力で大規模な大魔法と言えばいいのかな。アブソリュート・ゼロ……自身を起点に指定範囲を絶対零度の世界に閉ざす、やばい魔法とも言える魔法だ。


 この空間の中では何もかもが凍り付く。それは発動者も同じで凍り付く。この魔法は恐ろしく強力で規模が大きいものではあるけど、諸刃の剣とも言える。だって自身すら凍る訳だから。

 正確には魔力装甲が残っていれば、私はしばらくは凍らずに済んだのかもしれない。お姉……お兄ちゃんが教えてくれたけど、魔法少女は魔力装甲がある限りは凍らないみたい。


 というより、私が魔法を使った後、5年間もずっとあのまま凍っていたことに驚いたけどね。しかも近付く者とかも容赦なく凍り付かせてしまう凍結地獄と化しているみたいだった。素直に恐ろしい魔法だって思った。


 お兄ちゃんは私のことを東京の中から見つけてくれた。本当に夢みたい打と思った。まあ、最初は本当に夢かと思ってたんだけどね。


「……」


 お姉ちゃんになってもやっぱり私はお兄ちゃんのことが好きみたいだ。というか、こうやって助けてくれたのもあって余計に好きになってしまった。うん、自覚はあるんだよ自覚は。


「ううん。今考えることじゃないよね」


 そんなお兄ちゃんはこの近くにアンノウンが出るかもしれないってことで魔法少女に変身して外に行ってしまった。私については避難するようにって。

 今日はお兄ちゃんと買い物に来たのに……アンノウンは空気を読んでくれないよね。そもそも未知な敵対生命体だから空気を読むなんて分からないのかもしれないけど。


「お兄ちゃんも嫌な予感がするって言ってたし、心配……」


 一応変身するためのキーアイテムはぶら下げているから変身してお兄ちゃんのところに行くことは出来ると思う。でも、私の変身後の姿……アイス・メロディーについては死んだことにされてるから私が変身したら騒ぎになるかもってお兄ちゃんも言ってた。

 どこまで戦えるかは分からないけど、魔法少女になる事は出来る。でもお兄ちゃんには止められてるし……迷惑はかけたくないな。


「お姉ちゃん(お兄ちゃん)が無事でありますように」


 本当におまじない程度だけど……やっても変わらないかもだけど、そう願っておく。でもお兄ちゃんが危ない時は多分私は躊躇せずに変身して助けると思う。


「大好きなお姉ちゃん(お兄ちゃん)だもん」


 同じ両親から生まれた血の繋がった唯一家族。

 あ、でもお兄ちゃんは祖父母は居るって言ってたよね。仕事を辞めたってことも伝えていたって。お祖母ちゃんとお祖父ちゃんは居るんだね……嬉しい。


 唯一の家族と言うのはちょっと違うかな? いやでも同じ親から生まれたって考えれば唯一になるのかな?


「……うん。こんなところで突っ立てないで避難しようかな」


 そう思い、足を動かし始めた瞬間だった。


「「「きゃああ!!??」」」


 周囲に悲鳴が響き渡った。

 悲鳴の聞こえた方を見ると、そこには高層ビルくらいの大きな体をした、恐竜のような見た目のアンノウンが居た。私たちを見るなり、不敵に笑った……ように見える。


「アンノウン!? 何でこんなところに!?」


 思わず私は叫んでしまった。

 でも冷静に考えよう。警報が鳴るのは出現する”地域”だ。つまりここはまでその出現地域内……だからこんなところにアンノウンが現れても何もおかしくない。


 流石に慣れたからと言っても実際アンノウンと遭遇してしまえば誰も恐怖するだろう。比較的静かに避難をしていたけどアンノウンの出現により騒がしくなる。


「ど、どうすれば……」


 このままでは一般人にも被害が出ちゃう。


「変身……いやでも」


 そんなこんな迷っていると、アンノウンが動き出してしまった。アンノウンはその大きな足を大きく上にあげる。


「私たちを踏みつぶそうとしてる?」


 それを見てこのままでは踏みつぶされると気付くと、周囲に居た人たちは逃げ惑う。大きな足だからその範囲もかなり広いだろうし、あんなものに踏まれたら……確実に死ぬよね……?


 そして遂にその足を下ろしてくる瞬間だった。


「!?」


 その恐竜のようなアンノウンの足が爆ぜた。


「……魔法少女?」


 お兄ちゃん……フリーズ・フルールではないみたい。

 そうなると、あれは魔法省の子かな? これを機にという感じで皆が逃げ出す。恐竜みたいなアンノウンの動きが何故か今は止まっている。爆ぜたとしても止まるってことはあるのかな?


「私もとにかく逃げないと」


 皆が逃げた方へ私も倣い、アンノウンから距離を取る。


「2人?」


 離れた場所からアンノウンの周辺を見てみる。魔法少女が攻撃したのであれば、近くに居るはずだしね。すると案の定、空中に人影が見えた。


「……」


 よくよく見たらあの恐竜もどきのアンノウンの身体には何やらよく分からないものが絡みついているのが見える。透明な……紐? いや紐には……見えないよね。


「もしかして……水?」


 水でアンノウンの動きを封じている? バインドって言う魔法が確かあった気がするけど……あれの水属性バージョンかな? 氷にも一応あるんだけど、氷属性なら氷のバインドを使うよりも凍らせた方が確実なんだよね。 


 今はそれはどうでもいいか。


「##!!!」


 何を言ってるかさっぱり分からない。

 アンノウンの言葉なんて誰も知るはずもないしね。ただ……何となく怒ってるようには見える。十中八九、あの」水のバインドか何かに対してだと思うけど。


 離れてるとは言え、ここに居ては魔法少女が戦えないかもしれないし私はそのまま更に遠くへと移動するのだった。




▽▽▽




「間に合ったみたいだね、よかった」

「そうですね……しかし、まさか突然人の真ん中とかに出るとは思わなかったですけど」


 アズールフラワーのアクアバインド……魔力で出来た水で相手の動きを封じる魔法で動けなくなっている大型のアンノウンを見ながら私は安堵する。

 近くで別のアンノウンを対処してた中、避難中の一般人のど真ん中くらいに突然大型のアンノウンが出現したのは流石に驚いたよ。近かったからすぐに駆け付けられたから良かったけど。


「それで、どうする? アレ、多分レベル4……の上位か5くらいはあるよ」


 ちらりとアンノウンを見る。

 アクアバインドを引き千切ろうともがいている様子が見える。今はまだ大丈夫そうだけど、多分あと少しで壊しそうかな? そうなると、あのアンノウンが再び動き出すのは間違いないし。


「やるしかないでしょうね。下に居た人たちは逃げられたみたいですし」

「まあそうだね」


 元より、まず最初に下に居た人たちを逃すためにアクアバインドを使ってもらったんだけど……一般人が居るところで攻撃なんてしたら巻き込む可能性があるからね。それに、守りながら戦うって言うのは結構難しい。


 Sクラスの魔法少女ならやれるんだろうけど……生憎、私とアズールフラワーはAクラスなので。どうでもいいことだけど、SクラスとAクラスの間って絶対高い壁があると思う。全然違うし、戦闘力もSクラスは桁外れだし。

 AクラスでもSに近いような子も居るけどね……それでもやっぱり、何か壁があるようなそんな感じがする。


「やるしかないよねえ……倒せるかな」

「いや、倒すしかないでしょう」


 ……アズールフラワーの言う通りなんだけどね。

 倒さなきゃ、恐らくあのアンノウンは周囲を襲うのはまず間違いないしね。とは言え、アンノウンって今までの特徴からして魔力に反応するみたいで、魔法少女を見ると優先的にこっちを襲ってきたりすることがほとんどなんだよね。


 よく分からないよね。

 変な形になる時もあれば、知ってる動物とか虫とかの形になることもあるし……アニメとか漫画で出てくるようなロボット的な形になる場合もある。形が多すぎるよ。


「なら……行こうか」

「はい」


 丁度そのタイミングでアクアバインドが引き千切られる。

 そしてアンノウンはこちらを睨みつけるように見てくる。どうやらアクアバインドを使ったのが私かアズールフラワーだっていうのが分かってるみたい。まあそりゃそうか。


 アズールフラワーとちょっとしたアイコンタクトを取ったあと、アンノウンの方を見ると同時に、


「アクアバレット」

「フレイムバレット」


 火と水の魔弾が同時に放つのだった。





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