38【戦闘】


「ちっ」


 アンノウンの放つビームのようなものをかすってしまい、魔力装甲が少し削れるのを感じる。


「大丈夫?」

「あの程度ならな……でもあれは面倒だな。つか厄介だわ」

「そうね……」


 目の前に対峙するのはイノシシのような見た目をしているアンノウン。だが……確かに見た目はイノシシみたいなものだが問題はそこではない。


「あれどうやって飛んでんだよ……」

「飛行魔法か何かを使ってそうだけど……うーん」


 そう。

 そのイノシシの見た目をしているアンノウンは空を飛びやがっている。羽とかそう言うものは見当たらないし、どういう原理で飛んでいるのかが分からん。

 ここにきて俺としては初めての飛行系の大型のアンノウンと戦っているということになる。あくまで大型を見るのが今回初めてというだけだが……。


 小さなやつなら飛行能力の持つ個体に何回か遭遇していたが……今回のはあまりにも見た目と飛行能力がアンマッチすぎるアンマッチである。イノシシが空飛ぶって何だそれって話だ。


 で、このイノシシ……飛行能力以外にもビームみたいなやつを放ってくるだよな。さっき俺をかすったあれだ。単発なら簡単に避けられるのだが、こいつはビームは一気に3発くらい同時に撃って来やがるのである。


「微妙に追尾性能まであるとかなんだなんだよあれ。あれ、レベル4なのか?」

「ええ、レベル4でも上位に入るくらいだと思うわよ。ただ何度も言ってるように誤差があるから、もしかしたらレベル5の可能性もあるわね」

「レベル5か……」


 イノシシもどきを見る。

 確かに……いや何となくではあるけど、レベル3以下ではないって言うのは分かる。飛行能力もあるからか、動きも熊よりも機敏だしな。アイシクル・シュートも何発かは当たるが、避けられる時もある。


「俺としちゃ、あいつはレベル5あってもおかしくないと思うが……取り敢えず、そのくらいの個体だと思って相手した方がいいな」

「ええそうね。警戒するに越したことはないわ」


 フルールの言葉に頷く。

 俺と雫とフルールの3人でショッピングモールに行って買い物をして、フードコートでお昼を取ろうとしたらこれだもんな。いきなり緊急避難警報の方が鳴るのは流石にびっくりした。


 一般人として逃げることも出来たが、全然戦ってなかったし、まあリハビリと言う感じで変身したのはいいが……まあ、結局のところは雫を守りたいってのが強かったかもしれないな。

 放っておけば他の魔法少女が来るだろうが……いつ来るかは分からない。前にも言ったけど、この地域に魔法少女が居ないので来るとしても最寄りでも隣町からになる。


 魔法少女は身体能力も上がってるから、そんな時間かけずに来れるだろうが、もしその隣の町にもアンノウンが居たらそっちが優先になるだろう。


「魔法少女の反応はある?」

「一応、少し離れた場所に幾つかあるわね。けど…恐らくは」

「戦闘中、か」

「多分ね」


 フルールの感知能力? がどこまで分かるかは知らないが、ただ魔力反応が強くなったり弱くなったり繰り返しているみたいで、恐らく戦闘中の可能性があるとのことだった。

 他の場所にもアンノウンが出現したってことだろうな。俺の家の方は大丈夫だろうか……。


「アイシクル・シュート!」


 いや。

 今は目の前のこいつだ。避難はしているだろうが、近くには雫が居るのだから。アイシクル・シュートを再び放ってみるが、何発かはヒットしてるし効いている感じはする。でも一部は避けられる。

 どれくらいのダメージが入ってるかは分からないが……まあ、微妙に効いているとは思う。


「フリーズ・ショット!」


 アイシクル・シュートではなく、単発型で尚且つ追尾性能を持つフリーズ・ショットを放つ。アイシクル・シュートより大きい氷の礫が一発放たれ、アンノウンに向かって飛んでいく。

 案の定、アンノウンはそれを避けようとするものの、今回のは違う魔法であり追尾性能を持つフリーズ・ショットである。避けたと思えば追尾が働き、氷の礫は軌道を修正し再びアンノウンへ飛んでいく。


 心なしか軌道を変えたことに驚いているように見える。軌道を変えたフリーズ・ショットはそのままアンノウンにぶつかり、小さな爆発と共に冷気の煙? を上げた。


「##!!?」


 何を言っているか分からないが、驚きと怒りが混ざっているような感じがするな。

 それはさておき……フリーズ・ショットにはもう一つ効果があるのを覚えているだろうか? そうだ。狭い範囲を凍結させる効果を持っている。


 さっき俺の放った魔法が当たったのはそのイノシシの姿をして空を飛んでいるアンノウンのお腹の辺りだ。そんなお腹の辺りを見れば効果通りに一部凍り付いていた。


「とは言え……お腹辺りが凍ってもあまり意味ないよな」

「まあそうよねえ……お腹を凍らせたって謎の力で空を飛んでいるものね」

「羽とかがあったらそこを凍らせれば地上に落とせただろうが……ないからな、あいつ」


 というか……まだ全然平気そうだな、あのヘンテコイノシシもどき。攻撃は効いてるとは思うけど……やっぱり、あいつ今までのアンノウンより強いよな。個体差もあるだろうけど……レベル4かレベル5とはフルールは言ってたが。


 レベル6……の可能性はないか。そこまでの危険性を感じないし。いや、完全に危険性とか俺自身の勘なんだけどな。


「奏、例のビームがまた来るわよ!」

「ちっ」


 そんなことを考えてるとフルールの声が聞こえ、アンノウンを見る。ビームを放つ時の予備動作だ。こいつの放つビームみたいなやつは3本……同時に3発撃って来るから注意が必要だ。


「ビームとか卑怯だろ」

「奏の魔法も結構反則並だけどね」


 放射状に放たれた3発のビームを避けてから俺が言うとフルールからの突っ込みが入った。いや確かに俺の魔法も結構あれなものも多いけどな。とは言え、基本的にはアイシクル・シュートかフリーズ・ショットの2つだけどな。むしろ、今まではこの2つだけで十分だったし……。


「連射して来るもの面倒だよな。ちっ」


 そうなのだ。

 何もあのイノシシもどきが放つビームは連射出来ない訳ではなく、続けて撃ってくることもある。だからほら、次のビームを撃つための予備動作もやってるしな。

 幸い予備動作があるから、ビームが来るって言うのは分かるが……続けざまに撃って来るのは面倒である。しかも、あいつにも知能とかがあるのか知らんが、結構ビームの軌道とか変えたりしてくるからな。


 つまり、ワンパターンじゃないってことだ。


「終わったか……」


 で、何回か続けて撃って来るとパタリとビームを撃つのをやめるんだよなあいつ。何か発動の条件と言うか、魔法少女が力を使う時に消費する魔力のようなものがあるのか……取り敢えず、この間に攻めないと。


「遠距離はビーム、近付けば突進。行動自体は単純なんだよなあ」


 まあいい。

 今が攻めるタイミングなので、背中に魔力で出来ている羽に力を込め空中ダッシュを決める。ダッシュと言っても加速するだけなんだけど。

 近付くと体当たりをしてくるので遠距離……としても、さっきのようにビームを一定間隔で放ってくるし、更に言えば距離が遠いほど俺の魔法を避けられる可能性が高くなるんだよな。


 中距離辺りを維持……と言いたいところだが。


「この速度を追えるかね」


 自分でも驚く程の速度を空中で出しているが、身体は何ともない。むしろ、もっと早くならないかとか思ってしまうがそこがぐっとこらえる。

 流石に早すぎるとこっちも認識しづらくなるしな。


「!#$!!!」


 俺のことを目で追っているようだが、どうやら追えてないみたいだ。ならこの速度でいいな。


「それ! アイスハンマー!」

「###!」


 杖の先端に氷の金槌が生成され、それを振り下ろす。アンノウンを殴ったところで、氷のハンマーは砕ける。そして再びさっきの速度でアンノウンの周りを不規則に移動する。

 このアイスハンマーって結構打撃力が強いんだけど、一回殴るだけで砕けるから微妙よな。でも、結構なダメージは入れられたみたいだ。


 魔法なのに物理度が高い気がするけど、気にしては駄目だ。


「じゃ、さよなら」


 ちょっとだけ動きが鈍くなってきたので、俺はアンノウンの背後で止まり、ステッキの先端を向ける。


「アイス・ブラスト」


 氷爆。

 氷瀑ではなく、氷爆である。いや、そんな単語は存在しないけど、今の光景を言葉で表すならそうだろうと思う。ステッキの先端が向いている場所……アンノウンの背中部分に水色の魔法陣が生成されたと思えば、真っ白な大爆発が起こる。

 一瞬にして周囲を白く染め上げ、冷気を放つ。それの影響で、さっきよりも気温が下がっているような感じさえする。いや、実際下がっているのだろう。


 アイス・ブラスト。

 俺の使える魔法の中でも範囲が広く、威力も大きい魔法だ。ステッキの先端が向いている少し先を起点に氷の爆発を引き起こす魔法。影響を受けた範囲は凍り付き、白く染まる。そして放射される冷気によって周囲の温度をがくっと下げる。


 流石にあのアブソリュート・ゼロレベルではないが、簡単に言えばフリーズ・ショットの広範囲版? いやでもこの魔法、欠点として射程距離が短いんだよな。それなりに近付かないといけない。

 それと見ての通り何かを”放つ・撃つ”と言った系統の魔法ではなく、特定の場所を起点にして爆発を起こすタイプ。要するにすぐさま事象を起こすってことだな。


「少しやり過ぎたか」

「ええそうね……というか、そんな魔法使わなくても倒せたでしょ」

「うーん? どうだろ」

「そもそも近づくならアイシクル・シュートでも良かったわよね」

「まあ、確かに」


 近付くならばアイシクル・シュートでも十分攻撃は出来たかもしれないな。今更だけど……まあほらそこは、普段あまり使わない魔法の実戦練習ってことで。


「はあ、まあいいわ。無事倒せたみたいね……あなたも少し白く染まってるけど」

「この魔法、遠距離じゃなくてどっちかというと近距離だしな」


 なので、ぶっちゃけ被弾覚悟な魔法である。とは言え上手く使えば自分が被弾しないように爆発させることも出来るみたいだが……俺の場合はちょっと被弾して魔力装甲が削れた。


 イノシシもどきアンノウンの姿は見えないので倒したと思う。倒したのだが……何か他の場所にも出現してるっぽいよな。警報はずっと鳴ってるし。

 ずっと鳴ってるってことはまだまだ出現するということだろう。だからこれで終わり……な訳ないよなあ。他の魔法少女も対応しているからまだいいけども。


「嫌な予感も消えないしな」


 取り敢えず、もう少しは様子見だな。




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