36【嫌な予感】


「そう言えばお兄ちゃん。5年前までの首都は東京だったけど、今は違うの?」


 なんやかんやあって、時が過ぎるのは早いもので既に11月の中旬に入っているこの頃。炬燵に入ってゆっくりしているところで雫からそんな質問をされる。


「いきなりだな……首都は、一応は記述上は東京なんだけど今はあれな状態になってるから仮の首都として埼玉になってるよ」

「そうなんだ……」


 仮の首都となっているものの、東京が復活したとしてもそう簡単には復興とかは出来ないだろうし当分の間は埼玉のままな気はするな。あーでも……時間ごと凍っているなら意外とすぐに復興できたりするんだろうか?


「知っての通り魔法省があるのも埼玉だしな」


 そう。

 以前、魔法省の本部……関東ではあるけど東京ではないと言ったと思うが、本部があるのは埼玉県の大宮市になる。さいたま市ではないんだよな。


「……」

「どうかしたか?」


 俺が質問に答えると、雫は何故かこちらをじっと見たまま止まっていた。


「ううん……お兄ちゃん、凄い女の子っぽいなって」

「!? いやお前、何を言い出すんだ……」

「何かもう動きと仕草とかが、ね」

「……」


 ……。

 自覚はある。自覚はあるんだけど……どうしても無意識にそう言う動きをしているみたいなんだよな。フルールにも言われたけど。慣れ過ぎている……と思う。


「そうよね。無意識みたいだけど……」

「フルールまで……」


 真面目にまずい気がする。


「大丈夫だよ、可愛いから」

「可愛いっておま……嬉しくないぞ!?」


 雫め……分かって言ってるだろ。フルールは何とか隠しているみたいだが、笑っているのが分かるぞ!


「でも、お兄ちゃん……本当にどうするの? 私は別にお姉ちゃんでもお兄ちゃんでも好きだからいいけどね」

「どうする、か」


 結局のところ、進展が全くない。フルールに頼んでフェアリーガーデンに行って、そこで魔法とかの本を読ませてもらったりしていたが、性別を変える魔法なんてものはなかった。

 フェアリーガーデンと言っても、ほぼフルールの家なんだけども。フルールの家は単に大きいだけじゃなくて、魔法に関する本もそうだし、他にも色々なものがたくさんあったんだよな。


 真面目にフルールは何者なのか気になったが、聞くことはしてない。


「最悪……このままで居るしかないかもな」


 戻ることは不可能、とはっきりと断言できるならば決断は出来るのだが……。


「奏……」

「お兄ちゃん……」


 二人とも心配そうに見てくるが、最悪の場合を考えておく必要はある。というか以前フルールにも最悪の場合を考えておいた方がいいかもと言われたし、考えてはいるんだよな。


「もしそのままで居るって決断したら私もお兄ちゃんのこと全力でサポートするからね。助けてくれたお礼も出来てないし」

「お礼なんてするほどではないだろ? 当たり前のことをしただけだよ」


 助けたのは俺自身の選択だし、大切な家族なんだから助けるのは当然だろう。


「やっぱりお兄ちゃんは優しいよね。だから好きになったんだし」

「優しいと言うか甘いだけな気がするけどな」


 最後はちょっと聞き取れなかったが、俺の場合優しいではなく甘いなのでは? と思う。まあ甘いってこと自体は自分でも自覚しているけども。


『次のニュースです。昨日、日本で確認されたアンノウンの数は……となっており、増加傾向が続いています』


 そんな中、テレビからそんなニュースが流れてきた。


「……アンノウンの増加傾向が止まらないな」

「ええそうね……」

「……」

「雫? 急に黙り込んでどうしたんだ?」


 ニュースについて俺とフルールがそれぞれ一言呟いたところで雫はテレビをじっと見ていることに気付く。


「ねえ、お兄ちゃん。私、何か凄い嫌な予感がするんだよね。少し前にも言った気がするけど……」


 雫は突然そんなことをこぼす。そう言えば前も同じようなことを言っていたような気がする。


「嫌な予感、か。奇遇だな、雫」

「え?」

「俺もかなり前から嫌な予感がしてるんだよな。今の今まで気にしないようにしていたが……」


 あの時の嫌な予感が未だ消えてない。

 アンノウンの増加傾向に、大体5年間隔で出現していたレベル5のアンノウン。最後にレベル5が確認されたのは5年前……首都凍結の少し前というか1ヵ月くらい前以来だ。

 そう……5年が経過しているのだ。つまりそれは……今年中にレベル5が出現する可能性が高いということ。レベル5自体は今の魔法省ならば対処出来るとは思うが……問題なのがもう一つの方。


 アンノウンの増加傾向だ。

 アンノウンの数についてはまあ、各地で結構ばらつきがあるけど魔法少女たちの力もあり、今はこうやって比較的平和に暮らせている。しかし……データとかを見ると明らかに全体的にアンノウンの出現数が増えているのが分かる。


 この増加傾向のグラフと似たデータが過去に存在する。


「増加傾向のグラフが似てる?」


 自分のスマホで開いた画面を雫に見せ、雫の言葉に軽く頷く。

 この部屋にはパソコンは置てないからな……わざわざ上に行くのも面倒だし、スマホという便利なものがあるのでこっちでサイトを開いた。


「このデータって……2025年? ってことは5年前?」

「そう。つまり……」


 そう。

 首都凍結が起きた2025年のデータと似ているのだ。あの時も今のようにアンノウンの数が増加傾向になっていた。魔法省はそれを見て警戒を強めたものの、結局はあの事件となった訳だ。


 恐らくこの増加傾向については魔法省はもう気付いているだろうと思う。むしろ気付かない方がおかしい。当時よりは若干技術や魔法少女の数とか、魔法少女の強さとかそういったものは変わって来てるはずだ。政治関係もまた然り。

 その証拠に既に魔法省はアンノウンの増加傾向を公表し、全体的に注意を促しているみたいだし。ニュースでもさっき言っていた。


 5年前だったら余計な不安を与えないように公表を控えていたのに、こんな代々的に知らせてきているのはやはり5年前の反省からなのだろう。よく分からないけど。


「レベル5が出現する可能性が高いってことだよね。いや……それだけじゃない。もしかしたら……」

「うん。雫の予想通り……とは言い切れないけど、下手をすると5年前の大惨事の襲来になる可能性がある」

「!」


 これが嫌な予感の正体かはまだ分からない。

 だけど、似たような増加傾向になってるのは間違いなく、楽観視することは出来ない。杞憂で終わるのが一番だが……最悪のパターンを考えるとレベル6のアンノウンの再来が起こるかもしれない訳だ。


「まあ本当に予想でしかないんだけどな。フルールはどう思う?」

「そうね……あり得ない話ではないわね。真面目に……まだレベル5は出現してないけども。そう言えば首都凍結が起きたのっていつだったかしら?」

「今から5年前の2025年の12月15日だな」

「今日は……11月11日よね?」

「そうだが、どうしたんだ?」


 フルールが今日の日付と首都凍結の起きた日のことを聞いてきたので、取り敢えず答えたのだが……既に知っているはずだろうし、今更何だと言う話だ。


「レベル5が出現したのは首都凍結の1ヵ月前よね」

「ん? そうだが……あーなるほど」

「え? え? お兄ちゃんもフルールも二人だけで納得しないで?」


 雫は何を言っているのかが分かってない様子だ。まあ突然こんな日付の話とかして何だって話だよなあ。


「悪い雫。5年前にレベル5が出現したのが首都凍結……つまり12月15日の1ヵ月前……11月15日ということになるだろ? そして5年間隔で出現しているかもしれない。今年はその5年目」

「あ! もしかしてレベル5のアンノウンがもしかしたら4日後の15日に出るかもしれないってこと?」

「そうそう」


 出ると決まった訳ではないが出る可能性はある。ぴったり15日じゃなくても今週中、今月中に出る可能性はある。出なかったらそれはそれでいいが……もし出てしまった場合。


 ……5年前と更に酷似した出来事が今年に起きたということになる。


 そうなると……考えたくはない、考えたくはないが……もしかすると今年の12月に何かが起きるかもしれない。5年前と同じようなレベル6の出現とかそういう事件が。


「……」


 取り敢えず、俺も俺で油断は出来ない。今はそんなにアンノウンとは戦ってないが、レベル6とかが出た場合はじっとしている訳にも行かないだろう。それがもしこの地域に出るのであれば……俺は全力で相手するつもりだ。


 無謀かもしれないが……それでもこの場所を壊されたくない。


 可能性の話だから何とも言えないけど……俺は気付かれないよう雫の顔をちらっと見る。折角、助けられた大事な妹である。傷一つ付けさせない。


 ……取り敢えず、今は警戒を強めようか。



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