35【謎の現象と白い魔法少女】


「東京での魔力装甲の消費が和らいでいる、ですって?」

『はい。明らかにさっきまでとは違って減りも遅くなってるんですよね』


 現在東京を調査している魔法少女たちとの連絡を取っている中、そんなことを言われた少し驚いた。ついさっきの東京タワー周辺で感知した強力な魔力の反応もそうだし、その近くで昼間なのに視認できるレベルの光を観測したことについても驚いた。

 そして今の三つ目……魔力装甲の減りが遅くなっているそうなのだ。これは一人だけではなく、他の魔法少女も同じようなことを言っていたので恐らく間違いないのだろうと思う。


「減りが遅くってことは、凍結している東京の魔法が解けているとかかしら?」

『そこまでは分かりませんが、今までより行動できる時間が増えたと思いますね』

「まあそうよね……分からないわよね。一時的なものかもしれないし」

『はい。なので油断は出来ないですね』


 魔法が解かれた……と考えれば確かに削れる速度が遅くなってもおかしくはいけど、そこまではまだ分からない。東京の氷はまだ残っているしね。徐々に消えていくタイプなら考えられるか。

 その辺はまだ詳しいことは分からない。東京についてはまだ調査中だしね。行動制限もあるから中々思うように動けないし、アンノウンだって出現するのだし。


 魔力装甲云々については今は置いておこう。それよりも一番気になるのは、さっきも言った東京タワー付近での強力な魔力反応と光のことだ。


「東京タワー周辺には何かあった?」

『特に何もないです……え?』

「ん? どうかしたの?」


 通話の途中で、向こうの魔法少女から驚いた声が聞こえた。はて、何かあったのかしら?


『すみません。近くを調査していた子が見つけたみたいで』

「何を?」

『氷が砕けていました』

「え!?」


 何か変なものでも見つけたのかしらと思っていたけど、告げられた言葉に私は声を上げて驚いてしまった。幸いこの部屋には今は私しか居ないのであれだけど……。


『正確には東京タワーのすぐ下にある林? のところで更に一部分なんですけどね。明らかに自然に砕けたと言ったものではない跡がありまして』

「それは本当なの?」

『はい。自分も確認しに行きましたが、ありました。不自然に砕けた跡が』

「! それってつまり誰かがその氷を砕いたってこと?」

『恐らくは……でもそんなことってあり得ますかね?』

「普通に考えればあり得ないわよね。あなたも知ってるでしょ? 東京の氷」

『それはもちろん』


 いくら魔法少女が叩いたりしても、魔法を放っても東京を凍り付かせている氷を壊すことは出来ず、更に凍っている物を動かすことも出来なかったのだ。それは人間も同じで、凍り付いてしまった人を動かすことも出来なかった。


「でも砕けた跡があった……」

『そうなりますね。どうしますか?』

「うーん……そうね。取り敢えず、その砕けた跡も気になるけど周囲に何かないかとか簡単に確認してくれるかしら?」

『了解です』


 そう言って通信が切れる。

 私はそのまま椅子の背もたれに思い切り体重をかけて、身体を伸ばす。きしきしと音が鳴るけど、まあ鳴るのは元からなので大丈夫のはず……。


「……」

 

 一つ目は昼間でも分かるほどの光。


 二つ目は強力な魔力反応。


 三つ目がさっきの報告で聞いた魔力装甲が削られる速度が低下。

 

 東京で今回起きた現象を今の姿勢のまま頭の中で並べる。一つ目については、昼間でも分かる光を確認したということで、普通ではない現象よね。これは全部に言えるけど。

 何らかの魔法か、それとも東京の今の状態が起こした自然現象か……いえ、後者の可能性は低いわね。そんな光を何度も放っていたら既に前から確認されているはずだし。


 二つ目の強力な魔力反応の考えれば、一つ目である光……これは魔法によるものだと考える方が妥当よね。あれだけの光を放つ魔法だとすると、あの場に光属性の魔法少女が居たって言う話になるんだけど……。


「うーん」


 東京内に入った魔法少女は魔法省所属の魔法少女を除くと、件の白い魔法少女しか居ないのよね。こっそり侵入している魔法少女が居れば話は別だが、その可能性は恐らく低い。報告が上がっていてないしね。


「……見回りの目をすり抜けたならそうとは言い切れないけど」


 取り敢えず、現状分かっていることは東京内に入った魔法少女はあの白い魔法少女しか居ないってことね。白い魔法少女については、結構あの近辺で目撃されているけど、使ってる魔法はやはり氷の可能性が高いのよね。

 駆け付ける速度も速いことからあの地域に暮らしているのは間違いなさそうだし……残念ながら今もまだ彼女とコンタクトを取れたことはない。


「三つ目は……うーん。これはあの子にも言ったけど現状はっきり分からないし、保留としましょう」


 一時的にそうなっているだけなのかもしれないし。


「あとは……アイス・メロディーについてかしら」


 ……。

 アイス・メロディー……5年前に首都凍結フリーズ・シティを起こし、被害を抑えた野良の魔法少女の名前だ。この名前がどうしていきなり思い出せたのか……そこが謎なのよね。

 つい最近までは全然思い出せなかったのに……一体何が? 私もボケ始めているってことなのかしら。


「いえ……でもこれについては、他の魔法少女も一緒だったわね」


 本当にボケていただけならいいけど、他の魔法少女……当時、アイス・メロディーと面識のあった子たちも突然思い出したそうなのよね。


 更に言えば、SNSや掲示板等のインターネット上でも話題になっていた。アイス・メロディーという名前を思い出したって言うのが多かった。あっという間にアイス・メロディーという単語がトレンド入りしていた。


「……」


 何が起きたのか……分からないわね。

 ただ……アイス・メロディーについては一旦置いとくとしても、東京内で起きた三つの現象……一つは魔力装甲のやつなので一旦除外するとしても、一つ目の光と二つ目の強力な魔力反応については警戒するべきよね?


 この二つが一緒とはまだ言い切れないけど、仮に一緒だとすれば光属性の強力な魔法を誰かがあの近くで使ったということになるわよね。


「白い魔法少女……と何らかの関係があったりするのかしら?」


 謎が多い白い魔法少女。

 名前も未だに分かってない。唯一分かることはと言えば、彼女は野良の魔法少女であるということくらしかしらね。あとはまだ確信出来てないけれど、可能性が高いのは氷属性の魔法少女だということ。


「東京で何をしているのかも分からないしね」


 何かを探しているってことだけは分かったんだけども、何を探しているのかまでは流石に分からないわね。直接聞くしかない気がするけど、誰も彼女とコンタクト取れてないし、取れたとしても話す可能性は低いわよね。


 取り敢えず……もう少し調査が必要ね。





□□□





「ねね、葵ー」

「どうかしました?」


 向かい側に座る香菜が突然立ち上がり、テーブルを乗り越してスマホの画面を見せてくる。


「これ知ってる?」

「? ……魔法少女アイス・メロディー?」


 画面に映っているのは有名なSNSのトップ画面……そこには魔法少女アイス・メロディーという単語が日本のトレンドに入っていました。


「そそ! 葵もさっき言ってたよね。急に思い出したって」

「確かに言った気がしますね……それは香菜もだよね?」

「うん。私も同じなんだよね」


 魔法少女アイス・メロディー。

 それは突然思い出した5年前の首都凍結フリーズ・シティを起こした野良の魔法少女の名前です。首都凍結を起こした野良の魔法少女ことアイス・メロディーについては、最近まで誰もが思い出せずにいました。

 ですが、どういう訳かつい最近突然思い出したんですよね。何を言っているか分からないかもしれませんが、本当に突然思い出したって感じです。

 これについてはSNSではトレンド入りしたりしていますし、多くの人たちが同じように突然思い出したような呟きとかが多くありました。


「アイス・メロディー、かぁ」


 そう言いながら香菜は元の姿勢に戻り、自分の飲み物を一口飲む。私も同じように自分の飲み物を一口だけ飲んで言葉をつづけました。


「何で私たち、忘れていたんでしょうかね?」

「うーん、どうしてだろ?」


 本当に何も分からない状態だったのに。

 何か作為的なものを感じますけど……ちょっと分かりませんね。記憶を操作するような魔法が使える魔法少女が居るってことでしょうかね? いえ……記憶操作なんて聞いたことありませんけどね。


「変なことと言えば他にも東京で起きた現象もありましたね」


 そう言えば、と私は思い出します。


「あー知ってる! 何か凄い光と強い魔力反応だっけ?」

「それと魔力装甲の減りの速さもですね」

「あ、そう言えばあったね」


 東京で確認された三つの現象。一つは昼間ですらはっきりと分かるくらいの光と二つ目はその場所近くで確認された強力な魔力反応。そして三つ目はついさっき分かったことで、東京内での魔力装甲の減りが遅くなっているということ。


「心なしか東京内の気温も下がっている……ような感じがしたって言ってましたね」

「何が起きたんだろーね?」

「さあ……。でも何かが起きたのは確かですけど」


 まあ、私たちは東京の調査隊に入ることはないと思いますので何とも言えませんが。というより、一応調査隊に入らないかという誘いは私たちに来たのですが、断りました。


「これさ……あの子が何か関係してるとか考えられる?」

「白い魔法少女ですよね」

「そうそう。東京内に入る物好きなんてあの子しか居ないよね。実際目撃されてるみたいだし」

「まあ確かに……」


 普通は好き好んで東京なんていう危ない場所に行くことはしないでしょうね。野良の魔法少女なら尚更。ですが話を聞けば、その白い魔法少女は結構な頻度で東京に入ってるみたいです。……その子以外の子は目撃されてないようなので、実質彼女しかいないですよね。


「でもあの子……氷属性って言われますし、光を放つなんて出来るんですかね」

「あー確かに」


 まだ正確な属性は分かっていないものの、少なからず彼女の戦闘を目撃した魔法少女の報告によれば氷属性らしき魔法を使っていたらしいですね。なので、ほぼ確定で氷属性の魔法少女になりますね。

 ……まだ断言できる訳ではないですが。


 氷属性の魔法少女と言えば、件のアイス・メロディー以外で確認されている例はありません。あくまで魔法省で分かっている範囲に限られますが……。

 そんなアイス・メロディーは5年前の首都凍結において、死亡されたとされています。まあ正確には行方不明とされていますね、魔法省内では。


 一応野良の魔法少女でも、魔法省側が把握している子についてはデータを残していますからね。


「結局、何も分からないままだね」

「仕方ないですよ」


 結論を言ってしまえばそうなりますね。結局のところ、今までのものは全部予想だとか推測だとかそんなものなので、確かなものとは言い切れません。

 はっきりと分かっていることは、白い魔法少女は野良の魔法少女ってことですね。本当にそれくらいですよね……。あとは東京で何かを探しているみたいですが、そちらもはっきりとは分かってませんしね。


「白い魔法少女……うーん、仲良くなりたいなぁ」

「まあ難しいでしょうねえ」


 個人的には私も香菜と同じで仲良くしたい気はありますが……すぐ逃げるように去ってしまうのでまずコンタクトすら取れない状態です。

 あの地域に住んでいるのは恐らく間違いないので、隣町の子ってことになりますね。隣町ならばしょっちゅうは無理かもしれませんがまだ一緒に話せたりとかできる距離ですよね。


 まあ……あまり期待は出来ないですかね。




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