31【氷音雫Ⅱ】


「ん……?」


 何だか暖かい……そんな中私は目を覚ます。まだぼんやりとしているけど、何だか見たことあるような天井だった。どこか懐かしさを感じる。


 ……お兄ちゃんと話した夢を見た気がする。

 でもそれは夢なんだろうし、今の私の願望を見せてくれたのかもしれない。でも夢でもお兄ちゃんと話せたのは嬉しかった。どうせならずっと話せればいいのに。


 もちろん、叶わない夢なのは分かっているけど。お兄ちゃんは探してくれるって言ってたけど、見つけられるかは別だしね。


(お兄ちゃん……いやお姉ちゃんになってたな)


 魔力の共鳴……どうしてそれが今起きたのか分からないけど、その時にちょっとお兄ちゃんの記憶の断片みたいなのが私の中に入ってきた。これについては夢ではなく本当に。


「あれ」


 そこで私は身体の方に違和感を感じる。


「身体が動く?」


 夢の中なら自由に動かせていたからおかしくはない……んだけど、なんだろう? 夢の中の身体はどこか現実味がなかったんだけど、今の身体にはそれがある。

 何を言っているのか分からないと思うけど、私もどう言葉で表現すればいいか分からない。


「!」


 そこで私ははっとなって、目を開ける。


「あれ。私……え? お姉ちゃん?」


 一気に意識が覚醒する。

 これは夢ではないってことを瞬時に理解する。私はどうやらベッドに寝かせられていて、かけられた布団にはまだ暖かさが残っていた。


 そしてそんな布団の上に頭を置いて眠っている少女が一人。


「お姉ちゃん……いやお兄ちゃん?」


 その少女には見覚えがあった。

 夢の中で話した……そうお兄ちゃんだ。私の大好きなお兄ちゃん……今は何か色々あってこうなってるみたいだけど、間違いなくお兄ちゃんだって分かる。


「ずっと居てくれたの?」


 眠っているお兄ちゃんに私はそう声をかける。聞こえてはいないだろうけど……。そもそも、私がどれくらい眠っていたのか分からないしね。


「夢、じゃない?」


 部屋をそのままの状態で見回す。そうだ。懐かしいなって思ったけど、ここ私の部屋だ。私の部屋にお兄ちゃんは運んでくれたんだね。


「んぅ」

「お兄ちゃん?」


 自分の部屋に懐かしさを覚えていると、声が聞こえたので、そっちに目を向けるとお兄ちゃんは目をこすりながら起きている途中だった。


「雫!? 目が覚めたのか!?」


 起き上がっている私に気付くとお兄ちゃんは驚いたように私に詰め寄る。見た目は可愛いけど、ちょっと怖い。


「お兄ちゃん。落ち着いて」

「ああ。ごめん……でも良かった。目が覚めたんだな」


 心の底から安堵したような表情を見せるお兄ちゃん。それを見て本当に心配してくれていたんだなって思う。それで約束通りお兄ちゃんは私のことを見つけてくれたってことだよね? 夢じゃないなら。


 そう思うと私も嬉しくなってくる。


「お兄ちゃん、泣いてるの?」


 ちらっとお兄ちゃんを見ると目から涙を流しているのが見えてしまった。


「泣いてない」

「涙出てるよ?」

「うるさい。それなお前も涙が出てるじゃねーか」

「え?」


 そこで私も気付く。目のあたりに何か水のようなものが付いていることに。そしてそこから頬に流れてきている感覚。自分の手でその部分を触ってみれば、触れた部分が少しだけ濡れていた。


「……お兄ちゃん」

「うん」

「胸、貸してくれないかな?」

「……いいよ」


 少しだけ間があったけど、それでもお兄ちゃんはいいよと言って私の方に近付いてくる。


「ありがとう」


 私はそれだけ言って、自分の顔をお兄ちゃんの胸の中に顔を埋める。お兄ちゃんに触れると同時に、栓が取れたように涙が流れ始める。そして、私はお兄ちゃんの胸の中で泣きじゃくってしまったのだった。





□□□





「もう大丈夫か?」

「……うん」


 雫に胸を貸してと言われ、一瞬思考が止まってしまったものの何とか再開しOKを出して近付いたら、雫が俺の胸のところに顔を当ててきて、俺も俺で手を後ろに回して抱きしめるような形にしたところで、雫は泣き出してしまった。

 まるで子供のように泣き続けて、ようやく今落ち着いたと言ったところだ。俺も多分、泣いていた思うけど何とか押し殺した。まあ、押し殺したとはいえ涙は流れてしまったのだが。


「私の名前……」

「ん? 雫だろ?」

「うん。思い出せたの?」

「まあな……だけど、つい最近までは全然覚えてなかったよ。この部屋のことも全部」

「そっか……」


 記憶については本当によく分からない。

 やはりアブソリュート・ゼロの影響なのだろうか? 名前も何もかも、雫のことについては全て忘れていたのだ。大切な妹だったのに。

 生きていた時間すらも凍らせてしまった可能性はやはり高いのかもしれない。アブソリュート・ゼロ自体、まだよく分かってないけどな……。


「ねえお兄ちゃん。あれから何があったか教えてくれる?」

「もちろんだ」

「ありがとう、お兄ちゃん大好き」

「ば!? おま、いきなり何言ってんだよ」

「慌てるお兄ちゃん可愛い」


 くすくすと笑う雫。

 いやそうだったわ。こいつ、ブラコン疑惑があったんだ。どうしてこうなったか……いやまあ、それについては分かっているんだけど……俺とか父さんとか母さんが甘やかしすぎたのが原因だろうな。

 でも、わがままとかは言わなかったしそれもあったのかもなあ。要するに俺含め家族全員が原因ってことだ。俺自身もその自覚はある。


 結局俺も甘い訳だ。


「取り敢えず、簡単に説明するぞ」

「うん、お願い」


 そんな訳で俺は雫にこの5年間にあったことを簡単に説明する。

 まず、首都凍結フリーズ・シティ……雫が東京を凍らせた時より5年が経過しているということ。それからその時の出来事のことは首都凍結フリーズ・シティと呼ばれているということ。


 この5年間、雫が起こした首都凍結フリーズ・シティについては誰もが覚えていたけど発生させた本人……つまり雫については誰も覚えていなかったということ。

 事件自体はちゃんとこうして残っているのに、雫のことについては本当に誰も覚えていなかった。ある野良の魔法少女がその身を犠牲にしたとだけしか皆分からなかったしな。

 それはネット上でも同じでSNSやらスレやらでもそんな感じだった。


 とは言え、こうして俺は雫のことを思い出せたしフルールも思い出せたってことは、他の人も思い出すのは時間の問題だろうか? まだ分からないが。


 他には5年間の間は結構平和だって言うこととか、俺が魔法少女になった経緯とか……フルールのこととか……それらを全部一つずつ簡単に雫に教えて行った。


「そっか……5年も経過しているんだね」

「ああそうだ。当時のお前は15歳だったから、もう立派な成人だな」

「成人……かあ」


 既に雫の誕生日は過ぎているので、雫は丁度20歳となる。5年前の時点で15歳だったからな。5年って言うのは長いよな……15歳が20歳だからな。


「お兄ちゃんはその見た目でも25歳何だっけ? 合法ロリって言うやつだよね!」

「誰が合法ロリだコラ」


 いや確かに言う通りっちゃ言う通りなんだがな。


「そう言う雫も、その見た目で20歳な訳だから合法ロリだよな」

「うっ……ねえ、お兄ちゃん。私このまま成長しないのかな?」

「どうだろうな……でも当時の15歳のまま時間も止まっていたなら、ここから成長するんじゃないか? 多分」


 成長自体も止まっていた訳だし、それが解除されたらその分普通に成長するとは思うが……よく分からないけど。


「成長しなかったら……お兄ちゃんとお揃いで合法ロリ姉妹だね」

「合法ロリ姉妹っておま……」


 なんだその謎のパワーワードは。

 ってか、今思ったけど俺は成長するのかねこれ。いや戸籍上も普通に25歳だし成長はストップかなあ……元の身長もそこまで高くなかったから言うほど支障はないけど、何だかな。


 いやそうじゃない。

 雫を助けられたんだから次にするべきことは元の姿に戻る方法探しだろ。あるかどうかは知らないが……一から探すしかないよなあ。そもそも手掛かりすらない。


 何だかちょっと先が思いやられるな……と俺は今後のことを考えながら頭を抱えるのだった。



___________

あとがき


ガールズラブ「出番か?」


TSなのでGLかどうかの判断は任せますが、どうやら本領発揮のようです。()

と言っても、そこまであれな感じにはなりませんが……保険ですしね。

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