28【氷の中の少女】


「……間違いない。夢のような場所で話したあの子にそっくりだ」


 そこそこ奥の方なので、はっきりとは見えないけどまだ明るいって言うこともあって、ちょっと見える感じだ。魔法少女の姿ではなく、話した時の姿……だと思う。


「今の俺の黒髪をセミロングにして少し幼くした感じ。いやまあ、ここからでははっきりとは見えないけど」

「いえ、多分間違いないかもしれないわ」

「え?」

「今の自分の身体を見て」

「ん? あれ? 光ってる!?」


 フルールに言われて自分の身体を見てみると、どういうことだろうか。俺の周りに光の粒子のようなものが飛んでいた。しかも見た感じでは俺の身体から出ているように見える。


「まさか……共鳴?」

「ええ。共鳴しているわね。その光の粒子は恐らく魔力。あっちも見てみなさい」

「!」


 微かではあるけれど、向こうの少女の身体も若干光を放っていた。同じように光の粒子のようなものが飛んでいるように見える。凍っているのにそんなのお構いなしにこっちに来たり、俺の方から向こうに光が移動したり。


 氷を無視している。魔力ってスゲー……。


 って、冗談を言っている場合かっての! 共鳴しているということは同じような魔力だということ。つまりそれは……まだ確実とは言えないが、あの子である可能性が高くなった訳だ。


「やっと見つけた……でも」

「ええ。この氷のせいで近付けないわね」


 軽く叩いても特に変化なし。それだけで砕けたら砕けたらで怖いけどな。


「目の前だって言うのに」

「共鳴しているだけでまだ、その子だって確定した訳じゃないけどね」

「それは分かってる」


 可能性が高いだけで低い可能性で違う人って言うことも考えられる訳だ。だけど、共鳴しているし何となく間違いないって言う謎の自信がある。


「この氷をどうにかしないとな……でもなあ」


 知っての通り、この東京を凍らせている氷は普通の氷ではない。凍っている物を動かすことも出来ないのだ。それは実際魔法省の魔法少女が実践したことでもある。

 そして俺もこの東京探索している中で、ボールのような物を手に取ろうとしたもののびくともしなかったのだ。本当に時が止まっているかのような感じだった。


 感じというか、間違いなく止まっているんだろうな……あの魔法の効果ならば。


「クソっ……」


 目の前に見えるのに何も出来ないと言うのはこんなにももどかしいものなんだなと思った。


「奏……一旦引き上げましょう。魔力装甲も危ないわよね?」

「……アイシクル・シュート!」

「って、奏!?」


 魔力装甲……は確かに持ってあと1時間くらいだろうな。でも、やれることはやっておきたい。無駄だと分かっていても……俺は駄目もとで攻撃魔法を放つ。 


「駄目か……」

「奏……」


 氷に氷属性の魔法をぶつけたところで意味はないだろう。アイシクル・シュートを撃ったのはいいが、傷一つ出来てない。


「奏!? 今度は何を!?」


 魔法を使っても無駄そうだと分かった俺は、一旦その場所から距離を開ける。一定の距離を開けたところで、俺は思いっきりダッシュをする。そしてそのまま氷に激突する。


「奏!」


 特に痛みはない。まあ、魔法少女になっているからだろうけど。魔法少女になっているから体当たりでもそれなりの威力があるはずだが、氷には特に何の変化もない。


「もう一回……」

「奏、やめなさいって! そんなことしても魔力装甲に更に負担をかけるだけよ!」


 もう一回体当たりしようと思ったところでフルールが両手を広げて俺の前で止まる。それは……分かっている。ただでさえ、この場所に居るだけでも魔力装甲が削られているのだ。更に負担をかけているような行為だろう。


「フルール……」

「一旦落ち着きましょう。場所が分かったんだからまたあとでもすぐ来れるでしょう」


 場所は分かったんだ。確かにフルールの言う通りだ。場所が分かったらもう他を見る必要はないし、またすぐに来れる。ちょっと冷静さに欠けていたかもしれないな。


「今日は一旦帰りましょ」

「そうだな……ごめんフルール。ちょっと冷静さを失っていたかも」

「全く……奏まで凍り付いたらもうどうしようもなくなっちゃうでしょ。でも気持ちは分からない訳ではないわ」


 魔力装甲が無くなって、唯一彼女のことを知っている俺まで凍ったら誰にももう見つけられなくなるだろう。いや見つけることは出来るかもしれないが……。


「絶対助けるからな……行こうフルール」

「ええ。って奏、何かさっきより凄く光ってないかしら?」

「へ?」


 一度帰ろうと思ったところで、フルールにそう言われ俺は自分の身体をまた見る。


「何これ……?」


 光の粒子がさっきより何十倍もの輝きを放っていた。流石に眩しく、目を細めてしまう。この粒子は魔力とさっきフルールが言っていた。そんな魔力がこんなに光るって言うのはどうなんだ?


「共鳴……ではないわね。これはもしかして魔力が奏に反応している?」

「え? 俺に反応しているって何それ」

「私も分からないけど、魔力は前にも言ったと思うけど時折、何かに強く反応し周りに多大な影響を与えることがあるの。解明できていないしね」

「それは聞いたけど、これは一体俺の何に反応しているんだ?」

「もしかしたらっていうのはある」

「それはなんだ?」

「今奏が強く思っていることよ」

「今の俺が……」


 もしかして。


「彼女を救いたいと言う強い思い。それに反応しているかもしれないわ。魔力装甲は大丈夫?」

「あ、ああ一応は……」

「それなら、奏。もっと強く本当に救いたいと心から願って見て」

「もっと強く……」


 夢から始まったことではあるが、こうして今に至れている。

 5年前にその身を犠牲にして、凍り付かせた英雄でもある魔法少女。まさか夢の中に出てくるとは思わなかったし、夢なのに記憶にはっきり残っていた。


 そして俺のことをお兄ちゃんと呼んでいたこと。

 俺にはその記憶がない。いやそれは、全ての人に言えることだ。あの魔法少女が首都凍結フリーズ・シティを起こしたと言う事実だけは覚えているのに、誰もがその本人を覚えていない。


 なんとも残酷なものだと思う。

 まだそうと決まった訳ではないけど、アブソリュート・ゼロという魔法は時すらも凍らせる。それはその人の生きていた時すらも凍らせてしまうもの……なんじゃないかと俺は思う。だから皆彼女のことを覚えていない。


 でもそれならどうして、凍らせたということは覚えているのか……そこが説明が付かないのだが、もしかしたら魔力のおかげ……なのかもしれない。そこはまだ分からないけど。


 だけど、俺はこの子を救いたい。その気持ちに嘘はない。

 本当に俺の妹なのかもしれないし、妹であれば彼女は唯一、今の俺と血の繋がった家族だ。記憶がないから分からないが、俺のことをお兄ちゃんと呼んでいるくらいだし、本当にそうなのかもしれない。


「強く願う。……お願いだ魔力、もし俺の思いに反応しているなら、力を貸してくれ。俺はこの子をここから出したい!」

「眩しっ!?」


 俺が声に出してそう強く言うと、それに答えるかのように更に光が増す。流石に眩しすぎて俺も目を瞑ってしまうが、それでも眩しい。

 目を瞑っていても眩しいって、いったいどんな光量だよ、と心の中で突っ込む。ここまで眩しくなるって言うのはある意味凄いなと、変なことを考えていると、光はまだまだ明るくなっていく。


 そう……止まることなくどんどん明るくなっていっている。どこまで明るくなっていくのか、それは分からないが、普通ではないのは確かだ。


 そして次の瞬間、目を瞑っていた俺の視界を真っ白に染め上げたのだった。



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