27【手掛かり】


 緊急避難警報が鳴った日の翌日。

 俺は再び東京の地に足を踏み入れていた。昨日のアンノウンについては、各地でも確認されたみたいだが何事もなく魔法少女によって討伐され再び平和が戻って来ていた。


 何かの予兆ではないかって言う俺の予想と言うか嫌な予感については、今のところは問題なさそうだ。真面目に杞憂で終わればそれでいいのだが……。

 1日しか経過してないとは言え、アンノウンはいつ、どこで、出現するかなんて分からないから油断は出来ない。警報があるとは言え、それでも出現する場所はランダムだからもうどうしようもないのだ。


「東京タワーが斜めに見える位置……うーん」


 そして尚且つ、以前俺が探索した場所のどこかに彼女は居る……のだろう。共鳴したということは俺は一度、彼女の近くを通ったってことになる。そうなると探索範囲は狭まるし、探索の目途が立つ。


「この辺りよね。奏がこの前探索したのは」

「うん。この辺りのはず……」


 この範囲の中で東京タワーが斜めに見える場所を探すのだが、そもそも彼女は地上に居るのかね? ぶっちゃけ地上に凍り付いた状態で居たなら発見されてもおかしくないはずなのだが……。


「なあフルール。あの子は地上に居るのか? そもそも見えるところに居るのか?」

「どうしたのよ」

「いやほら、もし地上に居るなら既に発見されてもおかしくなくないか? 魔法省も東京を調査している訳だしな」


 地上なんていう分かりやすい位置に居たとして、それを魔法省が見逃すって言うのはないと思うのだが、どうだろうか。


「確かに……そうね」

「本当に単に魔法省が見逃したって可能性もなくはないけどな……」


 一応実力のある魔法少女で調査隊を組んでいるみたいだし、見落とすって言うのはあまり考えられない。後は実は既に発見されているが、それを魔法省が黙っているか……いやそれはないか。


「でも、こういう可能性もあるんじゃない?」

「こういう可能性?」

「ええ。ほら、凍り付いている人を運び出そうとしたけど無理だったって言ってたじゃない?」

「言ってたな」

「発見されていたとしても、運び出せないからどうしようもない。だからそのままにしているかもしれないわ」

「確かに」

「それに、奏。大事なことを忘れているわよ?」

「大事なこと?」


 あれなんだっけ?

 確かに凍り付いてしまっている人を外に出そうとしていたけど、まるで時が止まっているかのように全く動かすことが出来なかったっていうのは聞いている。だから、見つけていたけどそのままにしている可能性は高いな。


 いや待てよ。

 俺はまず大事なことを忘れていないか? あの子はその身を犠牲に魔法を放った。それがアブソリュート・ゼロというもの。そして首都凍結フリーズ・シティが起きた。


「!」

「思い出した?」


 まず大事なことを忘れていた。

 そうだよ。あの子は何故か俺も含め、多くの人々にも忘れられているのだ。首都凍結フリーズ・シティを起こしたということだけ皆は覚えている。だけど、それを行った張本人については誰も覚えていないのだ。


 そうだよ。

 昨日も考えていたじゃないか。アブソリュート・ゼロは時すらも凍らせてしまう魔法。東京のあっちこっちがそのままの姿で凍り付いているのが何よりの証拠ではないか。

 それからフルールが話した仮説。時すらを凍らせる魔法……それはもしかすると、その人のすらも凍らせてしまっているかもしれない。


「誰も彼女のことを覚えていない」

「ええ、そうよ。だから仮に見つけたとしてもその子だと判断することが出来ない。それに変身が解除されていたら魔法少女だって判断することも難しい」

「そうだな。肝心なことを忘れていたよ。……覚えていないのだから見つけたとしても分からないもんな。それに変身が解除されていたら普通に一般人だと思われるだろうし」


 そうなると、地上に居たとしてもおかしくはない。既に発見されていたとしても、今言ったように運び出せないから結局はその場に置いたままにするしか魔法省には出来ないのだ。


「……待ってろ、絶対に見つけてやるから」


 誰もが忘れてしまっている日本を守った魔法少女。

 俺も忘れてしまっているから、何も言えないが……それでも俺には夢ではあるけど夢の情報を持っている。そして実際夢みたいな場所で彼女を話をしたのだ。


 覚えていなくとも彼女が居るってことは分かった。名前も何も思い出せないけど、それでもあの子は存在しているってことが分かったのだから、探さない訳にも行かないだろう。


 俺は一度自分の頬を両手で叩き(ちょっと痛かったが)、気合いを入れ直し探索を再開するのだった。




□□□




「見つからないわね。というか本当にやるの?」

「もっと念入りに調べないと駄目か。……やるよ、もしかしたらやれば見つかるかもしれないし」

「それは確かにそうだけど」


 若干大雑把に探索してしまったことは否定できない。もっと細かく念入りにしらみつぶしに探すべきだったかもしれない。ただそうなるとこの範囲だけでもかなりの時間がかかるのは必至だ。何日かかるか分からない。


 そんな中、俺は一つ試したいことがあった。


 今俺とフルールは再び東京タワーのトップデッキの屋根の上に立っている。相変わらずここから見える東京の姿は綺麗でもあり恐ろしさもある。


「夢の中の少女が立っていた場所から同じように飛び降りてみる、だなんて」

「単純な発想だとは思うけど、見つかるかもしれないし……」


 うん。

 本当に至極単純な発想なのは自覚している。誰もがこう思うだろう、そんな簡単に見つかったら苦労はしない、と。それは俺も言える。

 でも、場所がよく分からないのであればやってみる価値はある。同じ場所から飛び降りれば、その先で見つかる可能性はゼロではない訳だしな。


「少なくとも方角は分かった訳だしな」


 俺が探索していた場所の方角で間違いない……と思う。方角が分かればその方角に向けて同じように飛び降りれば或いは。


「まあ、好きにしなさいな。魔力装甲は大丈夫そう?」

「まだ大丈夫だが、あまり長くないかもしれない」

「結構探索したものね」


 探索はしていたが見つからなかった。とは言え、自分でも理解できているが全部を隅々まで見た訳ではない。例えば木の中とか、木の上とか……車の下とか。

 そう言ったところはざっくりとしか見てなかった。木の上だって、上から見たとしても内側……枝とか木の葉とかで隠れているような部分までは見えないしな。


「取り敢えず今日はここから同じように飛び降りて、着地した場所の周囲を調べて終わりかな」


 魔力装甲との相談だな。許す限りはその着地した付近については、隅々まで見てみるつもりだ。これで見つかれば御の字だが現実はそんな甘くないかな。


「よし、行く」


 夢の中で彼女が飛び降りた時のことをも思い返し、出来る限りそれに合わせるようにトップデッキから飛び降りる。落下していると言う感覚に襲われるまま地上へと落ちて行く。

 魔法少女になっているとは言え、高さ約223.55メートル……四捨五入して224メートルくらいの高さから落下している訳で普通に考えれば恐ろしいことをしていると思う。自殺かよと言われるくらい。


 夢の中の彼女はそこまで思い切りジャンプしてなかったから、落ちるとすれば東京タワーのすぐ下になるが……しばらく落下していると言う感覚に襲われていれば、遂に地面が見えてくる。

 顔面落下みたいな状態なので、俺は一旦空中で回転し、足を下にするように体の体勢を変える。そのまま地面に着地し、周りを簡単に見回す。


「この辺り……になるよな多分」

「ええそうね……」


 どこか呆れている様子のフルール。まあ、こんな凄く単純なことをしているから分からなくもない。


「……ざっと見た感じでは見当たらないか」


 やはり現実は甘くないのだろうか。


「ん? ねえ、ちょっと奏。あれ!」

「どうしたんだよ、そんな慌てて」


 さっきまではどこか呆れていたような感じだったフルールが慌てて大きな声を出すものだから、ちょっと驚いてしまう。フルールを見れば、ある場所の方を指さした状態でそこを見ていた。


「ん? え?」


 そんなフルールが見ている方向には、木が何本か生えている場所(当然ながら凍っている)……なのだが、指を指している先にある木……その中に何かが見える。


 取り敢えずそこに近付いてみるが、そこは普通に木がいくつも生えていて森……とは言えないが、まあ林? な感じになっている何の変わりもないものだった。ただその木たちは綺麗に凍り付いているが。


「!?」


 木がそれぞれ単体で凍っている訳ではなく、まとめて凍っているので入れそうな空間の場所も一緒に凍り付いてしまっているようで林の中には入れなさそうだが、氷は透明だからそこそこ奥までは外側から見える。


 その中で俺とフルールは見つけてしまった。




 林の少し奥……その場所に木と共に眠るように凍り付いている、一人の少女を。

 




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