26【氷結の魔法少女Ⅱ】


「(出力高めの)アイシクル・シュート!」


 普通の”アイシクル・シュート”では効果がよく分からなかったので消費魔力を増やし、魔法を強化した状態でもう一度”アイシクル・シュート”を放つ。

 魔法というのは実は消費する魔力を増やすと、魔法自体が強化されるとのこと。魔法省でもそんな感じの話が会ったのを思い出した。


 いやまあ、別にデータのように公開されているという訳ではないのだが……それらしき話のようなものは書かれていた気がする。

 魔法なんて魔法少女しか使えないし、説明したところで一般人はなるほど、と言った感じだろうしな。俺の場合はフルールから聞いたんだけども。


 話を戻すが、通常魔法って何だかよく分からないけど魔法によって消費する最低魔力量っていうがあって、その最低魔力量を満たしていないと魔法を発動することが出来ないらしい。

 で、最低魔力量があればその魔法は放てるのだが、そこに魔力を上乗せすることで本来の威力よりも上乗せした分だけ強化された状態で撃つことが出来る。


 なので同じ魔法でも上乗せされている状態とされていない状態では大きな差がある。上乗せした分だけ強化されるってことはそこに上限がないから、その上乗せした魔力次第では威力にも差が出てくる訳だ。

 魔法省の魔法少女はどの状態で魔法を使っているかは流石に分からないけど……そこの辺りはどうなんだろうな。今はそれは置いておくか。


「おー効いているっぽい?」

「さっきの”フリーズ・ショット”のダメージもあるだろうしね」

「それもそっか」


 何となくもう虫の息のような感じに見えるが油断はしない。


「じゃ、もう一発。”フリーズ・ショット”」

「うわ」


 なんかフルールに少し引かれたが、ここは手を抜くことはしない。他の魔法もあるけど、今回はこれでいいかなと思っただけである。

 二発目のフリーズ・ショットが放たれ、それは何の迷いもなくアンノウンへと飛んでいく。そもそもこの魔法は追尾性能ホーミングがあるので、一度狙えば撃ち落とされない限りは狙った相手についていくから迷いも何もないけどな。


 二発目のフリーズ・ショットも避けることは出来ずに、そのまま着弾する。もしこれで生きていた場合は別のところが凍っている状態になるはずだが……。


「あ、消えた?」

「みたいね。反応が消えたわ」


 そこに居たはずのアンノウンは姿を消していた。

 もしかしたら逃げたのかもしれないし、空を飛んだかもしれないので念の為周囲を警戒する。羽とかなかったし飛ぶ可能性は低いけど、相手はアンノウンだしな。


 しばらく周りを警戒していたが、何処にも見当たらないのでこの場所はクリアだな。もしかしたら転移とかしたかもしれないが、流石にそれはどうなのって思う。

 仮に転移していたらもうそれは俺じゃ、何処に居るかなんて分からないので、取り敢えずこの場所はクリアになったということになる。


 熊みたいなアンノウンは倒せたが、他にもアンノウンが居るかもしれないので俺は簡単に回りを飛び回るのだった。




□□□




「これで全部かな」

「多分ね。他の場所は知らないけど」

「他の場所は他の場所で魔法少女が対処ているだろ」


 まあ、どうなのかは分からないけど。

 この場所にも既に魔法省の魔法少女が駆けつけているので、特に俺がやる必要はなかったのだが処理は早いほうが良いだろと思い、こそこそとアンノウンを倒していた。

 とはいえ、あの熊のアンノウン以外にこの場所に居たアンノウンはレベル3以下がほとんどだったので熊ほど時間はかからずに倒せた。


「ここしばらくはレベル3以下がほとんどだったのに、どう思う?」

「現状ではなんとも言えないわね。でも5年前の時も確か……」

「予兆はあったな」


 思い返すのは5年前のこと。

 当時の俺は当然ながら魔法少女ではなく、一般人だったのでアンノウンが出た時は逃げるだけだった。5年前のレベル6襲来の前、じわじわと各地でアンノウンの出現数が増加していた。

 首都凍結フリーズ・シティより前はレベル3とレベル4が多く、レベル5についてはほんの数回程度出現している。

 首都凍結フリーズ・シティのせいで忘れ去れられそうになっているが、今から15年前の初めてアンノウンが出現した日に出たアンノウンの中にレベル5が居た。

 とは言え、当時は脅威レベルなんてものはなかったので後から付けられたものになるんだけど、その時に出現したアンノウンはレベル5と付けられている。


 15年前のアンノウンの出現後から首都凍結フリーズ・シティまでの間に観測されたレベル5は正確に言えば3体程度。

 15年前と、10年前、それから首都凍結フリーズ・シティが発生した1ヶ月ほど前に確認されている。偶然かは分からないが、5年間隔で出現しているように見える。


 話が逸れてしまったので戻すが、首都凍結フリーズ・シティの前はさっきも言ったようにアンノウンの出現数が増加していたのだ。そしてこれもさっき言ったが、1ヶ月前にレベル5が出現している。

 アンノウンの増加とレベル5の出現……1ヶ月後にはレベル6が観測され過去最悪の規模の被害を受けた。


 だから今の増加傾向は少々不安があるのだ。魔法省側も警戒しているみたいで、ニュースでもそれとなく言っていた気がする。


 アンノウンが初出現した15年前は、5年前と比べて被害は少なかったもののそれでもかなりの数の死傷者が確認された。レベル5でもこれだけの脅威があるということだ。

 その後、5年間隔で出現したアンノウンについては、こちら側も大分慣れてきたのもあって高クラスの魔法少女たちの手によって怪我人は出てしまっているものの死者は確認されていない。


 結局何が言いたいのかと言えば……。

 アンノウンの増加傾向。それから5年間隔で出現しているレベル5……一番最新で観測されたのは首都凍結フリーズ・シティの1ヶ月前。


 では現在は?

 もうここで察せると思うが、最後にレベル5が観測された時から5年が経過している訳だ。5年間隔が偶然ではないとしたら……今年、レベル5が観測される可能性は高いということになる。


 ……あくまで予想なのだが。


「レベル6は置いとくとしても、レベル5は今見ると5年くらいの間隔で出現してるんだよな」

「! 言われみれば……最初のレベル5は15年前。その次のレベル5は私が丁度この世界に来た10年前。ええ、10年前のことは覚えているわ……確かに観測されていたわ」

「そして5年前……首都凍結フリーズ・シティの1ヶ月前に観測されている」


 ほぼ5年間隔だ。これが3回も連続して起きているというのは果たして偶然と言えるのだろうか?


「今年がその首都凍結フリーズ・シティから5年後……レベル5の出現からも5年後ね」

「ああ」

「何だか嫌な予感がするわね……」

「俺も嫌な予感はしているんだよな……予感がするだけなんだけど」


 仮にレベル5が出現したとしても、今の魔法省や、魔法少女たちならば問題なく対処できるだろう。なのでそこは言うほど心配しなくても大丈夫だと思いたいが、それ以上に何かが起きそうな気がしてならない。


 レベル5の1ヶ月後に起きた首都凍結フリーズ・シティ

 とは言え、その時は本当に最悪の偶然が重なっただけかもしれない。だって現に、10年前とか15年前のレベル5のアンノウン出現の後に何かが起きたということはないからだ。


「杞憂で終わればいいが……」

「本当にそうね。後、話を変えて申し訳ないんだけど魔法少女の反応が近付いているわ」

「まあ来るよなあ」


 だってここにはレベル4が出た訳だしな。他の場所にも出ているかは流石に分からないけど。


「さっさと逃げようか」

「そうね……でもたまには話をしてもいいんじゃない? 何か情報とか得られるかもしれないわよ?」

「魔法省に所属する魔法少女なら確かに色々と知っているとは思うけど、それを聞いたところで俺に教えてくれると思うか?」


 こっちは野良だし、魔法省はもう知っての通り国家機関だし機密情報とかもあるだろう。それらを魔法少女が知っていたとして、それを他人の俺に教えるとは思えない。情報漏えいになってしまうだろうし。


「それもそうね」

「そういうこった。それに俺には既に目的があるしな」


 男に戻れる方法を探すというもその一つだが、今は東京のことだ。正確には5年前に首都凍結フリーズ・シティを起こした俺の妹らしき魔法少女についてだ。

 記憶にないから何とも言えないのは事実だが、すぐ目の前に手掛かりらしきものがあるのだ。……まあ夢の中の話になるけどな。


 だが確かに俺は彼女と話していた……はずだ。


「東京タワーが斜めに見える位置だったわよね」

「ああ」


 彼女が最後に残してくれた手掛かり。

 これが本当だとすればその場所のあの子は居るはずだ。凍り付いた状態で……。


「時すらも凍らせる……これがどうも引っかかる。もしかして俺らの記憶にないのもアブソリュート・ゼロが関係していたりするか?」

「そこまでは分からないわ。でも……時すら止めてしまうと言うなら。その子の生きていた時すらも凍ってしまっているのであれば……」

「……!」

「あり得ない話ではないわね」

「……そうか」


 ……。

 フルールの話が本当ならば……何とも残酷な話だろうか。生きていた時すら止まっているなら誰も、彼女が生きていたことを理解できないし、分からない訳だ。


 辛うじて彼女が首都凍結フリーズ・シティを起こしたという事実だけ残っているのは、魔力のお陰、とかね。


 ……魔力は謎が多いってフルールも言っているしあり得なくはない。


 ともかく、俺は彼女のことを探したい。ただそれだけである。そしてあの子の正体も……今ある手掛かりで探せるかは分からないけどな。


「ただの夢……とはここまで来るともう言えないよな」


 うん。

 そんな訳で俺はその場を後にするのだった。



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