25【氷結の魔法少女】
「……あれがそうか」
ある家の屋根の上からそれを見ながら呟いた。
「大きいわね。今まで見た中では一番の大きさかしら?」
「多分、な」
緊急避難警報が鳴り、アンノウンが出現しそうな場所をマークして向かった先で俺はそいつを見つける。緊急避難警報が鳴ったということは、出現するアンノウンは少なくともレベル4以上だ。
レベル4と言えば、個体差もあるだろうが町とかを一つか二つくらい滅ぼせるくらいの力があるとされている脅威レベルだ。複数ではなく、個体単体で、である。
「レベルは幾つくらいだ?」
今回俺が見つけたそのアンノウンは今まで見た中では一番の大きさだと思う。特撮とかの怪獣か何かですか? と言えるレベルだ。見た目は何だろうか? 熊っぽいようなそうでもないような……。
アンノウンの形って本当に色々あるからなあ……既存の動物を模したやつも居れば、複数の動物を合体させたような見た目のやつも居る。他にも何かロボット? みたいな見た目のアンノウンも居るらしい。
ともかく、アンノウンの形は様々であるということだ。
「……レベル4ね。レベル4~レベル5と言ったところかしら」
「マジか……」
「ええ。ただ……私の勘からすればレベル5並かもしれない。前に言ったと思うけど、断定は出来ないからあれなんだけども」
誤差があるって言っていたしな。
とは言え、1レベルの誤差は大きい気もするが、仕方ないのだろう。全く分からない状態よりかは全然いい。だが不安も同時にある訳で、レベル4なら良くはないけど、まだましな方なのだがレベル5はやばい。
レベル4と5の間にはかなりの差がある。レベル4は町とかを一つ二つくらい滅ぼせるかもしれないと言われているレベルに対し、レベル5は町どころではなく、日本で言うなら都道府県を複数滅ぼせるかもしれないと言われているレベルだ。
町が一つ二つと、都道府県複数ではかなりの差がある。もちろん、レベル5も個体差にもよると思うが、それでもかなりの脅威になるのは間違いない。
まあ、そもそも最近はレベル3以下のアンノウンしか出ていなかったのだが。
「レベル4だとしても、日本で出現するのは5年ぶりになるな」
仮にレベル4だったとしても、日本で確認されるのは
知っての通り、5年前から今現在まで確認されているアンノウンの脅威レベルは3以下ばかりだったのである。だから特に何もなく普通に処理されていた。
敵ではあるけど普通に対処されてしまうアンノウンにちょっと同情してしまうくらいだ。
レベル6のドラゴンのようなアンノウンを筆頭にレベル4のアンノウンが複数出現。レベル3ならまだ分かるけど、レベル4のアンノウンがそれだけ出現したと言うのは初めてのことだった。
幸いだったのが
レベル5までその時に現れていたらどうなっていたことか。まあ、その変わりと言わんばかりにレベル6のドラゴン型のアンノウンが出て来たんだけどな。
「他の魔法少女の反応とかは?」
「今のところはないわね。こいつだけって可能性もあるけど、何となく他にも出現して居そうな感じがするわ」
「この位置からでは見えないけど、あり得ない話ではないよな。アンノウンは別に単体で出現するだけではないし」
そう。
知っての通り、アンノウンの出現パターンや出現する数とかはばらつきがある。単体での出現もあれば、複数の出現もある。もっと言うと複数の出現の中にも更に種類がある。
同じアンノウンが複数出現するパターンや、同じレベル帯で何種類ものアンノウンが出るパターン。レベルが全て入り乱れた状態で出現するパターンなど。
中には指揮のようなものをとるアンノウンすら居るみたいで、一体の指揮するアンノウンと複数のアンノウンが統一された動きををするとかあるらしい。このことから、アンノウンには知能があると考えられている。
とは言え、結局アンノウンの正体は未だに不明。まさに
「やるのね? 結構手強そうよ」
「早いうちに処理した方が良いしな」
レベル4となれば余計にね。放置する方が論外である。
「アイシクル・シュート!」
まずは小手調べ……と言った感じで俺の使える氷の魔法の一つ”アイシクル・シュート”を熊のようなアンノウンを狙って放つ。マシンガンの如くステッキの先端部分に現れた魔法陣から氷の礫が無数発射される。
アンノウンからすれば、これは奇襲のようなものである。当然、アンノウンは避けることが出来ずにアイシクル・シュートを全弾食らう。
冷気が煙のように着弾したところから出ているが、うん……手応えはあったが、倒せてない気がする。
「! あぶな」
「今のは……?」
何かビームみたいなものを放ってきたので、慌てて俺はそれを避ける。ただちょっと反応が遅れたせいで、かすってしまったみたいだ。ちょっと魔力装甲が削れている。
「うんまあ……遠距離攻撃が出来るアンノウンもそりゃ居るよなって」
近接だけとか、体当たりするだけとか……そんな優しいような存在じゃない。それに今回出現しているアンノウンはレベル4以上な訳だしな。
一応アンノウンの攻撃パターンとかの情報とかも魔法省はデータとして載せてくれている。まあ、こういう攻撃をしてくるアンノウンってことを伝えるためだろう。
どういうアンノウンなのかが分かれば、一般人でもちょっとは安心出来るしな。もちろん、データはデータであり魔法少女が実際戦ったアンノウンのものしか載ってないので、新手とか新種とかが出た場合はどうしようもないのだが。
「アイシクル・シュートはあまり効いてなさそうだなあ」
あの数を受けたのに平然と立っているそのアンノウンを見て俺はそう呟いた。だが体がでかい分、当てやすい的ではあるし動き自体は鈍足っぽい。一撃一撃は重そうな感じはする。
そしてさっきのビームみたいなやつ。遠距離攻撃には気を付けないとな……近接攻撃はまず近付かなければ問題ない。距離を取っても遠距離の攻撃手段があるのは微妙に厄介だな。それに遠距離攻撃があのビームだけとは限らない。
「アイシクル・シュート!」
取り敢えず、もう一回放つ。しかし、さっきのやつと同じだし、アンノウンは受けても問題ないだろと思っているのかその場を動こうとはしない。鈍足っていうのは自覚しているから避けられないと判断した可能性もあるが……。
「全く効いてない訳では無さそうね」
「だな。今回は少し動揺しているような感じがする」
だが……見ての通りそれでもまだあいつは普通に動けているので防御力とかが高いのだろうか? 大きさはともかく見た目は確かに硬そうな感じには見えるけど。
「また来るわ!」
「ああ!」
見覚えのある予備動作を確認し、アンノウンを注意深く観察する。そしてさっきも見たビームのようなものが放たれる。しかし、そのビームは直線方向にしか放てないようで、向きさえ気を付ければ簡単に避けられそうだ。
「熊な見た目でビームを放って鈍足ってなんだかなあ」
「アンノウンなんて、未知なことが多すぎるしこういうのもあるでしょ」
「まあな」
俺がさっきまで居た場所にビームが走る。しかし、既に回避しているため、それが俺に当たることはなく空を切った。射程も思ったより長くないのかな? ビームは俺の居た場所から100メートルくらい先で途切れている。
いやでも、俺が居たこの場所とアンノウンの場所との間の距離にプラス100メートルっていうのは、結構な射程になるのか? よく分からん。少なくとも数十キロ先とかまでは届かなさそう。
「あれ本当にレベル4なのか?」
「同じレベル4でも個体差もあるでしょうし、弱いのかもしれないわね。でも油断は禁物よ」
「分かってる。もしかしたらなんか別の攻撃手段とかを隠しているかもしれないしな」
流石の俺でも魔法省がデータを載せているとは言え、記録されている全てのアンノウンの情報を覚えている訳ではない。というか普通はそんなもの覚えないだろうし。気になった時に見る、そんな感じじゃないか?
……一般人なら。
そうだよ。俺だって元は一般人だったのだ。今でも一般人のつもりだが、フルールには呆れられてしまった。うん……そこはもう理解しているさ。もう結構なところまで突っ込んでいる気がするしな。
一般人だったら普通は旧首都なんて行かないはずだしな。
「こっちはどうだ? ”フリーズ・ショット”!」
ショットガンみたいな感じで、ステッキ先の魔法陣から大き目の氷の礫が放たれる。前にも使った魔法だから知っていると思うが、この魔法は”アイシクル・シュート”とは異なり単発型の魔法だ。
一回に複数放つのは出来ないが、魔力ごり押しで連射するのはやろうと思えばやれる。”アイシクル・シュート”がマシンガンとかガトリングなら、さしずめフリーズ・ショットはショットガンみたいな感じだな。
いやこの例えは前にも言った気がする。
それはさておき、この”フリーズ・ショット”については単発型であり礫というか塊と言っても間違いはないかな? それを放つ魔法であり、更に言うと
弾速自体はちょっと”アイシクル・シュート”には劣るけど、それでも十分な速さだ。ショットガンみたいなとは言ったが、射程距離自体はあまり変わらない。ショットガンで近距離武器なイメージが強いけどね。
そんな訳で俺から放たれた”フリーズ・ショット”はそれなりの速さでアンノウンへ飛んでいく。そして向こうはやはり鈍足なのを自覚しているのかは知らないが避ける動作すらしない。舐められるか?
「##!!??」
違う魔法だっていうのには気が付いてないのか? 着弾したと同時に、悲鳴のような謎の声が辺りに響く。なんだか頭が良いのか悪いのか分からんな。
そんでもって、この”フリーズ・ショット”にはもちろん攻撃力もあるがもう一つ効果がある。それは狭い範囲ではあるが、その範囲内を凍らせると言う効果だ。
それはアンノウンも例外ではない。俺が放った”フリーズ・ショット”はアンノウンの体の真ん中くらいに当たったみたいで、そこが凍り付いたのである。
「驚いているな」
「凍らせるって言う時点でこの魔法も強いわね」
「だな」
謎の生命体でも感情はあるんだなと思いつつ、最初よりは余裕がなくなってきたように見えるアンノウンを見ながら苦笑いするのだった。
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