24【緊急避難警報】
「おはよう、目が覚めたみたいね」
「ん……フルールか」
「ええ。何か魘されていたって言うか、寝言を言っていたけど変な夢でも見たの?」
目を覚ますとすぐ目の前には宙を飛んでいるフルールが見えた。夢というか……あれは何だろうか。
「あの魔法少女と話してた」
「え?」
「なあ、フルールは共鳴……魔力の共鳴って知ってるか?」
「え? ええ。一応は……と言っても原理とか詳しいことは知らないけど、同じ魔力同士が反応しあうことよね。それによって不思議な効果が表れるって言うやつ」
「フルールも詳しいことは分からないのか」
「まあね。魔力って不思議なものだからねえ……それでその共鳴がどうかしたの?」
「ああ。実は……」
さっきの夢の出来事をフルールに話す。
その中で、色々と話した内容とか、覚えている限りのものを全部話した。彼女が言っていたことや、最後の聞き取れなかった言葉のことも。
「そんなことが……」
全てを話すとフルールは顎に手を当てて、考え込む。はっきりと会話した内容とかをこうやって覚えているし、夢なのか夢じゃないのかは曖昧なところだ。夢の中で対話する何て言うのもまた変な話だけどな……。
「東京タワーが斜めにってどうのこうの言っていたんだけど、肝心な所が聞き取れなかった」
言葉から察するに東京タワーが斜めに見えたって言っていたのだろうか? それならば、その場所を探せば彼女は居る? いや全てを聞き取れてないから何とも言えないのだが。
「共鳴は、その子が言った通り似た魔力同士が近くに居る時に発生しやすいとされているわ。つまりそれは……」
「俺があの辺を探索している時に彼女の近くを通ったってこと、だよな」
「ええ、恐らくわね」
共鳴以前に、俺の魔力と似た魔力って言うのがまたあれだよな……本当に次から次へと偶然か何か知らないけど、重なっていくな。だけどこれは重要な手掛かりになる。
「……また東京に行くか」
「元よりそのつもりだったでしょ」
「まあね」
取り敢えず、俺が探索した場所で東京タワーが斜めに見える場所……それだけだとよく分からないが、斜めと言っても見え方って言うのがあるよなあ。
タワー自体が斜めに見えたのか、それともタワーの斜め……一応東京タワーって四角形みたいな感じになっているから、その斜めなのかもしれないし。要するに四隅……四角形の四つの角のどれか、が見えたのかもしれない。
まあ、どれかと言っても俺が探索した範囲内に限った話なので、場所は分かるのだが……あの辺に居るのだろうか?
「!」
早速変身して向かおうと思ったところで大きなサイレンの音が鳴り響く。ここまで大きく聞こえるということは、この地域に出現する可能性が高い。
「サイレン……よね。でも音が違うような」
サイレン……なのは間違いない。だが、いつも聞いているものよりもどこか物々しい感じのサイレンに違和感がある。サイレンの故障? いや待て……どこかで聞いたことあるような。
「まさか……」
「え?」
いやそんなまさか?
でも……だが、あの時のサイレンと似ている。
『緊急避難警報! 緊急避難警報! 対象地域の人は速やかに避難してください!』
「緊急避難警報……? あれ何処かで……?」
いつもと違うサイレンと共に音声案内まで再生される。普通なら音声案内は再生されないのだが……音声案内に緊急避難警報……物々しい感じのサイレン。
「5年前だ」
「え?」
「5年前に聞いたことがあるはずだ」
「!!」
緊急避難警報。
今更ながら思い出した。警報には種類があることを。
アンノウンが出現する際に鳴るサイレンと言うのはアンノウン出現アラート……正式名称”Unknown Emerges Alert”と呼ばれている。普通に読むと長いので大体は略してUEアラートと呼ばれることが多い。
そしてそんなUEアラートには2種類ある。
一つは”アンノウン出現警報”。いつも聞いているサイレンで、ここ最近鳴っていたのはこの警報だ。誰もが一度は聞いたことがあると思う。普通にアンノウンの出現を感知した際に鳴るものだ。
……そしてもう一つ。
高脅威レベルのアンノウン出現を感知した際に鳴る”アンノウン出現緊急避難警報”だ。これはレベル4以上のアンノウンを感知した際に鳴る警報で、速やかに避難することを促す警報だ。
そうレベル4以上で鳴る警報。5年前のレベル6のアンノウンが出現した時にも鳴ったあの警報だ。それはつまり、もう分かっていると思うがこれが鳴ったということは少なくともレベル4のアンノウンが出現するということ。
そしてあくまでレベル4以上とされているだけで、レベル5やレベル6の可能性もあるということ。
レベル4ならまだいいが、レベル5はやばい。レベル6はもうお察しの通りだ。レベル5の場合、日本で言うならその個体だけで都道府県を幾つか滅ぼせてしまうとされている。
「――チェンジ”フリーズ・フルール”!」
どうせ変身して東京に行くつもりだったんだ。俺は何の迷いもなく、魔法少女フリーズ・フルールへと変身する。もう慣れた浮遊感とか不思議な感覚が収まれば、変身完了である。
「行くの?」
「うん。ここは俺の家のある地域でもあるしな」
野良なのでぶっちゃけ戦う義務はない。だが……この町は俺の……俺たちの家がある場所だ。両親は居ないしお祖父ちゃんやお祖母ちゃんもここには居ないけど、それでも親の形見とも言える家だ。そんな家がある場所を無視出来る訳がない。
変身を終えたところで、自分の部屋の窓から飛び出す。地域全体に警報は鳴るので、どこに出現するかまでは分からない。だけど、この町のどこかに出現するのは間違いないだろう。
俺は、出現しそうな場所をマークし、そこに向かうのだった。
□□□
「緊急避難警報!? 場所は!?」
「はい! 緊急避難警報が鳴ったのは吉川市です!」
「……!」
いつも通り魔法省内の仕事とかをしていると、警報が鳴ったことを知らせる音が室内に響く。ここは各地の警報の状態を見ることが出来る場所で、どこで警報が鳴ったのかがすぐに分かる。
警報が鳴るのは別に珍しいことではない。
最近のアンノウンの出現数は例年と比べて増加傾向だし、毎日のようにあっちこっちで警報が鳴っては魔法少女が駆け付けれるように指示をする。
だけど……緊急避難警報が鳴ったのは今年初めてである。……というより、緊急避難警報自体が5年前の
もしかしたら忘れている人も居るかもしれないけど、アンノウンの出現を感知した際に鳴る警報の正式名称はUnknown Emerges Alertで、通称UEアラートって呼ばれているんだけど、これには2種類の警報がある。
一つが今までもう何度もしつこいくらい聞いたことがあるアンノウン出現警報。そしてもう一つはレベル4以上のアンノウンの出現を感知した時に鳴る緊急避難警報。
この緊急避難警報は普通の警報と違って、音声案内も再生されるもので速やかにその場からの避難を促す警報よ。普通のアンノウン出現警報も避難を促しているけど、緊急避難警報の場合は音声案内とあとサイレンの音も違うものになっている。
より強く避難を促すような感じだ。
それはそうよね。レベル4のアンノウンと言えば、個体にもよるけど街の一つや二つは軽く滅ぼせてしまうだろうとされている脅威なんだから。
それに、あくまでレベル4
今回鳴った警報はそんなレベル4以上を感知した際に鳴る緊急避難警報だ。
「魔法少女たちの状況は?」
「はい。近くにAクラス、Bクラスの魔法少女が居りますので、すぐに駆け付けられるかと。後そこそこ離れた位置ではありますが、Sクラスの魔法少女も居ます!」
「他の地域の出現状況は?」
「今のところはありません。吉川市のみのようです」
「了解。緊急避難警報よ。Sクラスも含め、行ける魔法少女たちを向かわせて!」
「はっ!」
レベル4以上。
レベル4ならまだいいが、レベル5や6となるとかなりまずい。いやまだレベル5はギリギリ対応できるかもしれないけど、アンノウンが単体とはまだ分からない。
複数のレベル5だとか、レベル5や6が1体にレベル4が数体と言った構成の場合だと流石にSクラスの魔法少女を向かわせても危ないかもしれない。
とは言え……今回はタイミングが悪いとかはなく、近くに魔法少女が居たから少し安心している自分も居る。幸運なことにSクラスの魔法少女も居るみたいだ。
「とにかく、アンノウンの脅威レベルを確認しないと」
それによって対応は変わる。
謎の白い魔法少女と言い、アンノウンの増加傾向と言い……今回の緊急避難警報と言い、何だか凄く嫌な予感がする。杞憂で終わればいいけど……。
いえ、白い魔法少女については一応味方? なのかしらね。アンノウンを倒してくれているみたいだし。ただ東京に入って行ったのはよく分からないわね。
報告によれば東京タワーの近くを飛び回って何かを探している様子だったらしいけど……あの辺に何かがあるのかしら。
「いえ、今はそれよりもアンノウンね」
思考を切り替え、私はアンノウンに対する対応を考え始めるのだった。
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