23【夢の中の邂逅】
「お兄ちゃんは私のこと探してくれているの?」
「……ん? え?」
ぼんやりとした中、聞き覚えのある女の子の声にはっとなる。声のした方を向けばそこには、どういうことだろうか。
「今はお姉ちゃんだったね」
そう言ってくすりと笑う少女。
「君は……」
声自体は聞き覚えがある。
ただ記憶の中の彼女とは容姿が違うような……というより、この子の声、俺の今の声と似ている気がする。今の自分の容姿とも似ているような……今の俺の髪をセミロングくらいにして、少し幼くさせたらこんな感じになりそうだ。
「やっぱり覚えてないよね……本当にとんでもない魔法だよね」
にししと笑う少女。まあ今の俺に似ているけど、性格は全く違うな……そりゃそうだ。俺は中身が男なんだしな。というか今なんて言った?
「ん? 魔法?」
「うん。お姉ちゃんも知っている魔法だよ」
俺も知っている魔法?
「というか、そのお姉ちゃんって言うのはやめてくれないか……」
「えー? 今はお姉ちゃんだしなぁ……その姿でお兄ちゃんって言っても変でしょ?」
「……俺の妹、なのか?」
「そうだよ。私の大好きなお兄ちゃん。名前は多分今言っても伝わらないと思うけど、□□って言うんだ」
「?」
「やっぱり聞き取れないか……うん。予想通りだけど」
今名前を言ったのか? 何かノイズがかかったように聞こえなかった。今言っても伝わらないの意味は何となく分かった。どういう原理かは知らないが……。
「結局のところ、君は何者なの? 魔法少女……なんだよな?」
「うん。名前はさっきも言ったように伝わらないから言えないけど、魔法少女をしてたよ。レベル6のアンノウンとレベル4以上のアンノウンが無数に出現してた時に戦ってた。でも結局は最終手段を使うしかなかったんだけどね」
「
「そう呼ばれているんだね。私がやったことは分かってるんだよね?」
「まあな。東京全体を凍らせた。違うか?」
「ううん。合ってるよ、お兄ちゃん」
……。
この子はやはり、あの魔法少女だった訳か。というか今更だが、今こうやって話せているのは何なんだ? 夢とは明らかに違う。夢なら見ているだけだったのに、今はこうやって対話をしている。
「……ここは東京タワーか?」
「あーうん。そうだね、凍り付く前の、ね」
目の前の少女にばかり気を取られて周りをよく見ていなかった。今俺と少女が居る場所……それは見覚えのある赤いタワーの一番上の展望台、トップデッキの上だった。
だけど、俺が見たものとは違い、凍り付いていない……つまり、東京が凍結する前の本当の姿の東京タワーだ。下を見れば、他の建物とかも凍っておらず、ここからだと見えにくいが下を見れば車や電車などが走っているのが見える。
「お兄ちゃんも知っていると思うけど、流石は日本の首都なだけあって本来はこんな感じだったんだよ」
「ああ、それは知ってる。昔は東京で暮らしていたからな……丁度引っ越した翌年にあれが起きた」
本当に何ていうタイミングだ、と今更ながら思う。
あれが起きる前に引っ越したのは正解だったのかそれとも不正解だったのか……いや、引っ越していたからこそこうやって生きている訳だから良かったのかもしれないな。
だがそれはあくまで、俺のことだ。本当に……俺だけのことだ。
嫌な記憶が蘇る。
引っ越し自体は終わったけど、仕事は変わらない。最初は東京で働いていたのだが、勤務先が変わることになり、まあ思い切って引っ越そうと言った感じで引っ越したのである。
と言っても、首都圏寄りなんだけどね。まあ、そこの方が東京にも転勤先にも連絡しやすいのでこれまた思い切って一軒家を購入。因みに東京に居た頃は普通にマンションの一室だった。
まあ、永久とまでは言わないがその転勤先からは動くことはこれ以降ほぼないと言ってた。まあ、例外はあるかもしれないが……父さんの名誉のために言っておくが、別に左遷と言う訳ではない。そこは安心して欲しい。
まあ、父さんも母さんもかなり稼いでいたみたいだしね。正確にどれくらいかは分からないけど。父さんは結構有名な企業で働いていたけど、母さんについては謎だった。いや。教えてくれないと言うか……守秘義務がなんやかんやで詳細は不明。
ただ……魔法省で働いていたのは分かっていた。まさかの国家機関である。魔法省の本部があるのって実は東京じゃないんだよね。東京に近いけど東京ではない。
魔法省は各地……北海道、東北、関西、四国、九州それぞれに支部がある。で、本部があるのは関東何だがさっきも言ったように東京ではない。
魔法少女たちは基本的には暮らしている場所に近い魔法省に集まる時は集まる。と言っても、魔法少女が毎回そんな魔法省に集まるってことはない。基本的には普段通りの暮らしを送っている。
……そんなことを母さんが言っていた気がする。守秘義務はどうしたって思ったけど、このくらいなら誰もが分かる情報なので問題ないらしい。
「……」
「どうしたの、お兄ちゃん? 何か顔色が悪いよ?」
「ん? そう……なのか? いやちょっと嫌な記憶を思い出してな」
「お兄ちゃん……」
父さんは仕事で東京に出向いた。その日にあれは起きたのである。そして母さんも……対策本部を東京近くに設置し、そこに居た訳だ。そして父さんも母さんも行方不明となった。
「あそっか。君も妹なら知っているよな……」
目の前の子が妹であるとはまだ言い切れないけど……でも嘘を言っているようにも聞こえない。妹を君って呼ぶのは何か変な感じだが仕方がない。
「まあね……」
「……凄い今更のことを聞くんだが、いいか?」
「うん、いいよ」
「ここは何処なんだ? それからこうやって話しているのは……」
うん。今更だ。さっき思ったことだが結局聞けてないことを思い出す。
「何処、かは私も分からないけど夢みたいな場所かな? そしてこうやって話せているのは……」
「話せているのは?」
「多分、私の魔力とお兄ちゃんの魔力が共鳴したからだと思う」
「共鳴?」
「うん。詳しくは分からないけど、同じような魔力同士では共鳴するみたい。共鳴するとお互いの魔力とかが上がったりとか、場所が分かったりとか色んな効果が出るみたいだね。特に姉妹同士の魔法少女とかは、似た魔力だから共鳴しやすい。と言っても近くに居る場合なんだけどね」
「なるほど……でも共鳴? おかしくないか?」
「うん。私も思った。こうやってお兄ちゃんと話せるとは思わなかったし……」
似た魔力同士は共鳴するって言うのは何となく分かった。まあ共鳴自体はよく分からんが、ゲームで言えばバフみたいなものなんだろ、多分。だって分からないし……この子も分からないみたいだし。
だがそれはおかしい。
聞けば共鳴って言うのは近くに居る時に起こるものらしいし、近くにこの子は居ない。それならどうして共鳴しているんだ?
「多分、なんだけど。お兄ちゃん、東京に行ったよね、今日」
「え? ああ行った。夢の中の魔法少女……を探すために」
「うん。知ってる。それ多分、私だしね。でもお兄ちゃんもお兄ちゃんで、夢の中のことなのによく行動できたよね」
「……どうしても引っかかってな」
本当にそうだと思う。フルールにも言われたし、俺自身も思っている。
「嬉しいけどね。……まあそれで、東京に行った時にもしかしたら私の近くにお兄ちゃんが来たのかもしれない」
「!」
「多分、だけどね。それで共鳴してこうやって繋がった……でもそろそろ時間切れかもしれない。何だかちょっとノイズみたいなのが聞こえるし」
「そっちもか……実はこっちも何だよな。無線機のノイズみたいな感じ。でもまだ君の声は聞こえている」
まだ話せないって程ではないけど、若干ノイズみたいなものが走っている。多分、時間切れと言うか繋がりが切れようとしているんだろうと思う。彼女の近くにまたいければ繋がるかもしれないが……。
「君が居る場所は……」
「東京なのは間違いないんだけど、分からないんだよね。本体って言うか多分私の身体って凍っていると思うし。内側からでは外側は見れない」
「……そうか」
あくまでこうやって話せているのは内側……俺自身も元の身体は寝ているのかもしれないしな。それと同じなのかもしれない、夢であって夢ではない場所……でも俺は外側も無事で動けているからこれが終わると恐らく目を覚ませるはずだ。
でも彼女は違う。元の身体は凍っている……んだと思う。だから起きることが出来ない。
自分でもよく分からないこと言っているが、何故かそうと言える。何だかよく分からんな本当に。魔法も魔力も……。
「こうやって話せているってことは生きているってことだろ? 待ってろ……助ける」
だが一つ言えることはこうやって何だかよく分からない不思議な空間で話せているってことは生きているってことだ。幽霊とかだったら別だが……。
「お兄ちゃん……ありがとう。でもお兄ちゃんも無理は絶対しないで」
「ああ、無理はしない」
幽霊なら幽霊でも良い。ともかく、この子の身体はちゃんと見つけたい。妹じゃなくても、あの魔法少女であるなら余計に、な。
俺も知っている魔法……まあ十中八九あれだろうな。アブソリュート・ゼロ……あの魔法を使ったのだろう。あの魔法は自分を起点に発動させる魔法だからどうしても自身も巻き込んでしまう、諸刃の剣のような魔法だ。
説明を見た感じ、だがな。そして時すらも凍らせると書いてあった。時が止まっている……それなら恐らく凍っていても生きているはずだ。発動した時の状態のまま時ごと凍り付いているなら、な。
結局、俺の夢の中に何故この子が出てきたのかは分からない。でも……何か意味があるのかもしれない。本当の兄妹だからこそ出てきた可能性もあるし。
何故記憶にないのかは分からないけど……何となくではあるけど、この魔法が原因な気がする。まあ、今考えても分からないものは分からない。今は置いておこう。
「そろそろ……時間……切れが近いかも」
そんなことを考えていたところで、さっきまで気にするほどではなかったノイズが酷くなってきた。彼女の声が聞き取りにくくなってきてる。
「最後に……私……最後……見えた…は、……東京タワー……斜めに見え……よ」
「何だって?」
肝心な所が聞き取れない。ん? 何だって? 東京タワーが斜めに?
「……」
「……」
しばらくして、ついに少女の声は聞こえなくなってしまった。少女の姿も見えなくなった。
「くそ……東京タワーが斜めに見え?」
誰も居ない空間に俺の言葉だけが響く。
「手掛かり……」
絶対に助ける。
そんな決意をしたところで、周りの空間が歪み始める。これは恐らくこの夢のようなものが終わりそうになっているのだろう。俺自身も何か浮遊感みたいなものを感じる。
……そのまま俺は流れに身を任せ、そして意識が覚醒するのだった。
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