21【旧首都Ⅱ】


 トップデッキ。

 地上から223.55メートル程の位置にある展望台だ。別名と言うか特別展望台とも言われている。そんな展望台だが、東京タワーにはここともう一箇所展望台が存在する。

 メインデッキ……大展望台と呼ばれる特別展望台よりも下に位置する展望台だ。こちらの高さは確か地上から120メートルくらいだったかな?


 まあ、そんなことはさておき。


 今回目指す場所はトップデッキ……特別展望台の場所だ。まずはあそこに行ってから考える。俺は空を飛べるので、まあ普通に高度を上げてトップデッキの位置まで行けば問題ないだろ。


「あれが東京タワー……」


 東京タワーに近付くと、フルールがどこか感慨深そうな感じで言葉をこぼしていた。もう一つのタワーであるスカイツリーよりは半分くらいの高さではあるけど、東京のシンボルだったタワーである。という今でもスカイツリーよりもこちらがシンボルな気がしないでもない。名前に東京って入っているしな。


「10年前に居たなら知ってるだろ?」

「まあね。こんな綺麗に凍るのね……建物も何もかも」

「そうだな……」


 知っての通り東京タワーもスカイツリーも綺麗に凍り付いてしまっている。魔法少女になっていても凍った場所を歩く場合滑りやすいのは変わらないので、気をつけて着地しないとな。


「よっと。問題なさそうだな」


 色々と気をつけながらの着地。トップデッキの屋根? の場所に俺は着地する。フルールは常に宙を飛び回っているから着地する必要はない。まあ、着地する場所は大体俺の頭か肩辺りなんだがな。


「見事なまでに凍ってるな」


 そんなトップデッキの上から見た景色は綺麗だった。全てが凍り付いた世界……まさしくそんな感じだった。

 だけども、綺麗なのは確かだがその反面その東京の状態を見て恐ろしさも感じてしまう。何もかもを凍らしてしまう氷結の旧首都……。


 建物も、アスファルトも乗り物も……そして人すらも凍り付かせてしまう。


「奏、大丈夫? 何か顔色が少し悪いように見えるけど」

「! だ、大丈夫」


 凍結して世界に意識が飲み込まれそうになった。

 まあ、正確にはぼうっとしていたのだが……でもやっぱり、こうやって全体を見ることで東京の今の状態に更に現実味が増すな。


「それならいいけど……それにしても、ここからこうやって見ると綺麗ではあるけど恐ろしさも感じるわね」

「うん。それはフルールと同感だ」


 フルールも俺と同じような感想みたいだ。

 吐き出す生きは白いし、やはり寒さもある。魔力装甲があってもここまで寒さを感じるってことは相当だよな。そりゃ、魔力装甲もジリジリ削れていく訳だ。


「で、ここからどうするのよ?」

「あの子が魔法を使った場所に行きたいんだけど……な」


 この場所からアンノウンが居た方へ飛び降りて、アブソリュート・ゼロの魔法を発動させていたのだが……見た限りでは当時のアンノウンの姿は見えない。


「凍ったアンノウンは見えないな」

「それって単純にアブソリュート・ゼロで倒されたとかじゃないの?」

「だろうとは思う」


 アンノウンは倒されるとその場から跡形もなく消えるようで、倒してもその亡骸とかは残らないんだよな。これは一番初めは魔法省のデータから知ったことだが。

 実際俺も魔法少女になってアンノウンを何体か倒しているが、全てが例外なく消え去っている。魔法省が嘘を書くとは思えないけど、まあ、この目で実際見たので確定ということだ。


「そうなると、どっちの方面にあの子は行ったのかが分からないな……」


 流石にはっきりと記憶に残っている夢とは言え、そんな周りにあった建物とかの配置までを詳しく知っている訳がない。

 このトップデッキからアンノウンに向かって飛び降りたからもし、彼女自身もアブソリュート・ゼロによって凍り付いてしまっているのであれば、その近くに居るはずなのだが……。


「各方向の地上から隅々まで見る必要があるな……」

「結構大変そうね……私も出来る限り手伝うけれど、魔力装甲の方は大丈夫?」

「んー一応今のところはな」


 魔法少女になっているとは言え、他の魔法少女と一緒でこの東京内にいる間は真面目にジリジリと魔力装甲が削られていくのだ。

 体内の魔力が補充してくれているとは言え、それでも体内の魔力にだって限度というものがある。それに体内の魔力は他にも魔法とかを使う時にも必要なのであまり装甲だけに充てるのはよろしくない。


「取り敢えず、調べないとな」

「何処から行くの?」

「うーん。この場所からそこまで距離があるようには見えなかったから、手掛かりみたいなものがあるとすれば、東京タワー周辺になるのかな」


 あくまで俺が夢の中で見た感じでのものなので、正確性には欠けるかもしれない。とは言え、東京に来たのは良いけど手掛かりって結局何もないので、ここからまあ1から探すしかないよなあ。

 魔力装甲の時間制限もあるし……ちょっと骨が折れそうだ。たかが夢のことだけでここまでする必要が果たしてるのかは自分でも疑問に思う。


「取り敢えずこのすぐ下辺りからだな」


 そんな訳で、俺はそのままトップデッキの上から飛び降りるのだった。





□□□





「前に会った奏さん、凄い可愛かったよね」

「いきなりどうしたんですか全く」


 香菜からの突然の話題に少しだけため息が出てしまいました。いえまあ、確かにこの前会った奏さんは可愛い分類に入ると思いますけどね。

 ですが、彼女は驚くことに既に成人しているということです。私も最初は本当に耳を疑いましたね。でも、免許証を見せられまして、それで私も結構驚いたものです。


 いえ、失礼なのは分かっているんですが……まさか成人しているとは思わず。


「成人していますし、そういうのは失礼ですよ……」

「それは分かってるけど……葵は実際のところどうなの?」

「まあ、失礼ではありますけど確かに可愛らしい方だとは思いました」


 あ、知らない人にも分かるように説明しますと奏さんは少し前に、ショッピングモール内でナンパにあっていた私たちのことを助けてくれた方です。

 私たちよりも若干身長は低く、同い年か若しくは中学生かと最初は思っていました。そんな子が助けに来てくれたので最初は少々困惑しましたね。

 ですが、何でしたっけ? ナンパしてきた男はその彼女までナンパし始めたのですが、彼女に言われた言葉が若干効いたみたいでしたね。


 確かなんでしたっけ? ロリコンでしたっけ。確かそんな感じの言葉だった気がします。そのまま固まった間に私たちの手を掴んで奏さんは離れたかつ、人目が多い場所まで一緒に連れて行ってくれました。


 ナンパ男さんは追ってくることはなかったです。余程言葉が効いたのでしょうか? まあ、それは分かりませんが、そんな感じで私たちは奏さんに助けてもらったのです。


 まあそれで、助けてもらったのに何もお礼をしないというのは良くないので、お礼をしようとしたのですが奏さんが気にしないでと頑なに遠慮していました。

 でもまあ、それでお礼をしない訳にも行かないので少ししつこかったかもしれませんが、その場にとどめていました。


 最終的には奏さんが折れてくれまして、フードコートで何かを奢るという形にしました。それでも遠慮しがちでしたけどね……。


 私たちはこれでも魔法省の魔法少女として働いているのでそれなりのお金はあるのですよね。というより、私たちみたいな高校生じゃ使い切れないですよ。

 まあ、それも仕方がないんですけどね。魔法少女は未知の生命体であるアンノウンを相手にするんですからね。


 魔法省や国からの強力なバックアップがありますが、それでも下手をすれば大怪我を負う可能性もありますし、最悪の場合死ぬ可能性もある訳です。

 そんな訳でそこそこのお金はあるので、奢るくらいは簡単なのです。


 とは言え、奏さんはハンバーガーのセットを選んでましたが。


 話を戻しますが、そんな奏さんのこと真面目に最初は年下の中学生くらいかと思っていましたが、成人していたということです。車の免許も……しかもマニュアルで取っていました。


「でも驚きましたね本当に」

「え?」

「奏さんです。成人していましたし」

「あー……」


 当時のことを思い出したのか、香菜がバツの悪そうな顔をする。まあそうですよね。香菜は最初、奏ちゃんと呼んでいましたし……。


「反省してるよ、うん……」


 嘘を言っていないのは分かりますので、特に責めたりはしません。奏さんはまあ、色々とありましたが優しい方でしたね。


 機会があればもう一度会ってみたいなって思いますね。


 まあ、そんな機会があるのかは分かりませんけどね……。




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