20【旧首都】


「寒いわねえ」

「そりゃそうだろ……寒くなかったら逆におかしい」


 旧首都の東京に早速侵入した俺とフルール。やはりというか何というか結構寒い。そりゃ東京全体が凍り付いている訳だし、寒くない訳がないんだよなあ。

 吐き出す息も白くなっている。それからじわじわと魔力装甲が削られているような感覚もある。というより完全に削れているわ。


 魔法少女になっていれば、どういう訳か今の自分の魔力装甲がどうなっているかが分かる。視覚的なUIみたいなシステムはないけど、まあこうなんていうの? 何となく分かる感じ。

 何となくではあるけど、絶対減っているとか、このくらい削られているとか、謎の自信がある。ほぼ間違いないと言ってもいいくらい。


 フルールが言っていたように、どうやら俺の魔力量というのが非常に多いとのことだ。魔力量が多いということは魔力装甲も長く維持出来るらしい。


 何でも魔法少女の魔力には2種類あって、1つが体内の魔力。俺の魔力量が多いっていうのはこの体内の魔力が多いということになる。

 これが多ければ多いほど魔法を使いまくれたりとか、魔力装甲も長く維持できるとかなんとか。


 で、もう1つの方が外の魔力。体外の魔力と言えば分かるかな? 体内の反対で、魔法少女の外側にある魔力のことを指す。と言っても、体外魔力っていうのはほぼ魔力装甲と同じなんだけど。


 でだ。

 そんな体内の魔力が多いと魔力装甲も長く維持できると言ったのは、体外と体内のこの2つの魔力は互いに繋がっているからだ。

 体外の魔力……魔力装甲っていうのは以前も言ったと思うが魔法少女の受けるダメージなどを肩代わりしてくれるもので、更に言えば魔法少女に変身させているのもこの魔力装甲なのである。


 魔力装甲はダメージなどを受けると削れるが、その削れた分を体内の魔力が補充する訳だ。なので、魔力装甲が削れても体内の魔力がある限りは修復されていく。


 それが何を意味するのか?

 もうここまで来たら分かると思うが、体内の魔力が多ければ多いほど魔力装甲は修復され続けるのだ。もちろん、ダメージとかを受けなければ、魔力装甲は削れないので、修復に動く体内の魔力が減ることはない。


 だから、魔力量が多ければ多いほど魔力装甲の維持が長くなるということだ。まあ、東京内ではじわじわと削られて行くのでその分、体内の魔力も常に動いているんだけどな。 


 でだ。

 気をつけないといけないのが魔力装甲よりも体内魔力である。体内の魔力は様々なことに使用されるため、魔法少女にとってはかなり重要な力と言ってもいい。


 魔法を使う場合も体内の魔力が消費されるので、真面目に魔力量の管理は大事だ。

 体内の魔力が切れてしまえば、当然魔法も使えないし、魔力装甲を修復することが不可能になる。するとどうなるのか? ダメージを受けても修復がされないため、ダメージとかを受け続ければ最終的に魔力装甲がなくなってしまう。

 魔力装甲が削りきられた場合、変身させているのが魔力装甲であるため、それが消えれば変身も強制的に解かれてしまう訳だ。


 変身が解かれる……それはつまり生身になってしまうということ。魔法少女は確かに強い力を持っているけど、それは変身しているからであって元は普通の女の子なのである。

 生身になった魔法少女はもう魔法少女ではなく、普通の少女である。そんな状態でアンノウンの攻撃を受ければほぼ確実に死んでしまうだろう。


 一番重要なのは体内の魔力だが、魔力装甲……体外の魔力も大事ってことだな。


「本当に綺麗に凍り付いているのね……」

「だな。俺もこうやって実際、この目で見たのは初めてだ」


 いや正確には、こんな間近……まあ中に入っているが、間近で見たことはない。というかこんな場所普通なら怖くて来れないしな。

 今の俺がこうやって来れているのは魔法少女になっているからだな。とは言え、男が魔法少女っていうのも何回言ったかは分からんが、謎だよな。


 普通に地上を歩いて見ても良かったのだが、それだと結構時間がかかるので空を飛びながら凍り付いた都市を見下ろしている状態である。

 地上に降りて探索するのは後である。まずは空からこうやって大雑把に見回し、怪しいところがないかを確認している。


 魔力装甲という時間制限もあるしな。

 調べる場所をまず決めておかないと、時間が足りなくなりそうだ。見ての通り、空を飛んでいても普通に魔力装甲は削れていってる。

 空も地上も関係なく、絶対零度に晒されている証拠だな。今さっき見えたけど、ヘリコプターらしきものが凍り付いていたしな。


「……うわ」

「どうしたの?」


 空を飛んでいればやはりというか、まあ当然なんだけど凍り付いてしまったヘリコプター間近にあったりする場合がある訳で。

 その凍り付いたヘリの中を覗くと、まず後ろの人が乗る場所? に2人ほどの人間が綺麗に凍り付いてしまっている光景が見える。

 更に奥を見ると、操縦士らしき人がレバーに手を置いた状態で綺麗に凍ってしまっていた。


「……いや、凍り付いたヘリとかがあるのは簡単に予想できていたけど、実際こうやって人が凍っているのを見ると、怖いと思ってな……」


 後ろに乗っている人はなんかカメラみたいなものを持っていたのでテレビの人とかなのかもしれない。いつ凍ったのかまでは分からない。

 こうやって実際凍っている人を見ると本当に凍っているんだなと一気に現実味が増す。素直に恐ろしいと思ってしまった。


「なるほどね。大丈夫?」

「ああ……一応な」


 別に吐きそうとか調子が悪いと言った症状はないので大丈夫……だと思う。確かに良い気分にはなれないが。


「無理しないようにね? ただでさえ、奏は色々とあるんだから」

「ありがとう。大丈夫だよ」


 色々、か。

 まあ確かに色々あるな……まず男なのに魔法少女になっていることとか、後は魔法少女になってから何故か元の身体の方も変わってしまっていたこと。

 未だに風呂とかに入る時とか抵抗があるんだよな……毎日のように鏡を見ているが、戻る気配は一切ない。まあ、戸籍とかはどういう訳か今の状態でも問題ないようになっていたが。


 良いことなのか悪いことなのか……俺からすれば悪いことになるけど、今の状態で見れば良いこととも言える。何不自由なく過ごせる状態だしな。


「確か東京タワーだったな……」

「そう言えば夢の中の魔法少女が居た場所は東京タワーのてっぺんなんだっけ?」

「そう。まあ、正確にはてっぺんというよりは展望台の方って言えばいいかな」


 展望台はメインデッキとトップデッキと2つあるが、俺が見たあの場所はおそらくは後者の方だ。つまり、一番上の展望台と言えば良いか?

 その展望台の屋根の上に彼女は立っていたと思う。そこからアンノウンや町の様子を見ていたような感じだった。


 ここまではっきり覚えているのはやっぱり、ただの夢ではないのかもしれないな。


「東京タワーには2つの展望台があったから、そのうちの一番上。トップデッキって呼ばれるところの上に居たと思う。特別展望台とも言われてるな」

「なるほどね。その場所から見ていたってことね」

「そ。アンノウンとか、町の様子とか対応している魔法少女の姿も見ていた気がする」


 まあ、実際何を見ていたかは彼女にしか分からないが、全体を見ていたと思う。とは言え、一番はやはり目の前にいたレベル6のアンノウンだとは思うが……。


 一応東京タワー位置自体はすぐに分かった。

 赤くて高いタワーで、それから昔の東京のシンボルのようなものな訳だし、すぐに分かる。そもそも、今の俺は上空からこうやって見ている訳で、東京全体を見ているのと同じだ。空から見ているのだから簡単に見つかる。


 その場所で色々と考えていたんだろうなと思う。でもって、しばらくそうしていた後、もう一度アンノウンを見てから何かの覚悟を決めたような顔をして、アンノウンに向かって飛び降りた。


「取り敢えず、あそこに行くとするか」

「了解っと」


 そんな訳で、魔力装甲はまだまだ大丈夫そうなので、俺とフルールはここから見えた赤い東京タワーへと向かうのだった。

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