19【東京と魔法省】
「うわあ……驚くほど白いわね」
目の前に広がる旧首都”東京”の景色を見たフルールが若干引きつった表情を見せながら呟いた。
そう。今俺たちは東京がすぐ目の前に見える場所まで来ている。そんな距離だから、少しだけ冷気を感じる。
本当に東京だけしか凍ってないっていうのは凄いよな。こうやって近くに居ても冷気みたいなのは感じるけど、別にそれだけで他は特に何もない。
そしてさっきフルールが呟いた通り、東京は白く染まってしまっている。当時の建物や信号やら交通標識やらがここから見える範囲でも結構ある。
5年前の状態のまま凍り付いている。道路とかも凍っているようで、結構光が反射しているように見える。
そう。
これらは今言ったように5年前の状態のまま凍っている訳だ。普通何も手入れとかされなければ汚れたりするけど、そんな感じはしない。
「5年間ずっとこのままなのよね」
「ああ。5年間ずっと凍りついたままだ」
「さあ行くぞ」
何か見つかれば良いが……夢の手がかりになるようなものがあれば、色々と考えられるのだが期待はあまりできないだろうなあ。
まあ、その時はその時だ。何も分からないまま置いておくしかない。
「ってそう言えば、フルールは大丈夫なのか?」
これまた今更だけど、俺は魔法少女になっているから魔力装甲がある限りは居られるだろうが、フルールはどうなのだろうか?
「ん? あ、私は大丈夫だと思うわよ。こう見えて得意な魔法属性は氷だしね。氷にも結構耐性があると思うし、自分の周りを常に魔力の壁……まあバリアみたいなものね。それを張っているから」
「お、おう……って結構それ凄いことやってないか」
「私にかかればちょちょいのちょいよ!」
そう得意げに言い放つフルール。
まあ、俺を守ってくれた時に氷のバリアを張っていたし、氷属性の魔法が使えるのはまあまあ予想出来ていたけどな。
取り敢えず、フルールが大丈夫と言うならば、大丈夫なんだろう。
「それなら良いけどな。じゃあ行くぞ」
「ええ」
一旦深呼吸をして東京を見た後、意を決して俺とフルールは5年間ずっと凍り付いたままの旧首都……東京の中へと足を踏み入れたのだった。
□□□
「ええ!? それ本当かしら?」
『はい。本当です。少なくとも私たちは見たことがない白い魔法少女が東京の中に侵入しました』
つい先程、東京周辺を見回りしている魔法少女から連絡が入ってきた。その内容に私は声を出して驚いてしまう。
これがまだ他の都道府県とかで目撃されたっていうだけなら良いのだけど、今回報告があったのは東京である。それだけでも十分驚くに値する。
「どうかしたんですか?」
「ええ。ちょっとね……」
すぐ近くにいつものように定期報告にやって来ていたアズールフラワーの言葉に私はそう返す。今回はアズールフラワーだけで、いつも一緒にいるチェリーレッドは居ない。
彼女たちは幼馴染でもあって、魔法少女になったのもほぼ同時期という偶然が重なりまくったレアな魔法少女だったりするのよね。
まあ、仲も良いみたいだし基本は一緒に行動してもらっている感じね。だけど今日はアズールフラワーだけ。何でも、急用があるみたいで一緒には来れなかったみたい。
まあ、それは置いとくとして、今はその白い魔法少女のことだ。
「ねえ、アズールフラワーたちが見た件の魔法少女も白かったのよね?」
「へ? あ、はい。雪の結晶みたいなアクセサリー以外は真っ白でした。まあ、そのアクセサリーも白寄りでしたが……それがどうかしましたか?」
「いえ、実は今さっき連絡が入ってね。東京に白い魔法少女が侵入したって」
「え!?」
私がそう言えばアズールフラワーも驚いた顔をする。
「同一人物かは分からないけれど、それでも白い天使のような羽があったって言っていたわ」
「!」
目撃された魔法少女は白。
そして天使のような白い羽。それはつい最近、アズールフラワーとチェリーレッドからの報告で聞いた魔法少女の特徴を一致しているのよね。
「雪の結晶のようなアクセもありましたか?」
「今のは聞こえたかしら?」
『あ、はい。聞こえました。言われてみれば胸元にそんなものがあったような気がします』
「あ、まだ繋がっていたんですね」
「ええまあね。だってついさっきだしね」
連絡が来たのはついさっきなので、まだ見回りの子と繋がったままである。そういう訳で今のアズールフラワーの質問は向こうに聞こえているわね。
「全体的に白、天使の羽、雪の結晶のアクセ……ここまで揃うとほぼ同一人物で間違いなさそうね」
「恐らく同一人物だと思います。そこまで一致するのはあまりない気がしますし」
「そうよね……」
100%確定とまでは言い切れないけど、それでも件の魔法少女の可能性は極めて高そうね。その魔法少女ということを前提にして考えると、何故その子は東京へ入ったのかしら?
確かに東京への野良の魔法少女の侵入は禁止にしている訳ではないけど……一般人は流石に禁止というか見回りの子に止めてもらっているけれど。
とは言え、最近は一般人が近付くことは全くないんだけどね。それでもまあ、念の為ってことで見回りの魔法少女はそのままにしている。
魔法少女だけではなく、自衛隊や魔法省の職員たちも一応見回りをしてもらっているわ。魔法少女と同じで交代制にしている。
まあそれはさておき、そういう訳で野良の魔法少女が入った場合は特に止めるってことはしてないのよね。同じ魔法少女であれば魔力装甲があるはずだし。
ただ報告だけはしてもらっているのでこうやって見回りの子から連絡が入ってきた訳だ。
「未だに彼女とは誰も話せていないのよね?」
「それは月夜さんが一番知っていると思います。……まあ、私とチェリーレッドは少なくとも話したことはありませんね……すぐ逃げられてしまいますし」
「ええそうね……他の魔法少女もそんな感じね」
そうなのよね。
彼女……白い魔法少女はつい最近目撃され始めた野良の魔法少女なんだけど、魔法省所属の魔法少女と会うとすぐにその場を去ってしまう。
理由は分からないけれど……誰も今の今まで彼女と接触できた試しがない。いえ、正確には接触自体は何人かの魔法少女がしているけど、今言ったようにすぐにその場から去ってしまうのよね。
そんなこともあって、彼女と話せた魔法少女は一人も居ない。魔法少女が嫌いなのか、それとも魔法省の魔法少女が嫌いなのか……他には魔法省自体が嫌いとか? 後は極度の人見知りとか……。
一番最後のパターンであれば可愛らしいのだけど、他の場合だと何故嫌いなのかが分からないわね。まあ、他のパターンの可能性もあるけど……。
「魔法少女が苦手とか嫌いなんでしょうかね?」
「まあ、一つの可能性としては考えられるわね」
今さっき私が考えていたことと同じことを言うアズールフラワー。
仮に嫌いだとか苦手ならば……何故そうなのかしらね。前に魔法少女になにかされたとかそういう可能性もあるわね。いやあくまで推測に過ぎないんだけどね。
「魔法省が嫌いなのかも知れないし、魔法省が所属の魔法少女が苦手とか嫌いなのかもしれないわね。まあどれも予想だからどうだかは分からないけど」
本当にそうなのであれば、彼女をスカウトするのはかなり難しいわね。確認されていない氷属性の魔法少女であの地域初の魔法少女かも知れないからスカウトしたいんだけれど。
強制はできないから結局は彼女の意思次第になるんだけどねえ。
「うーん」
あれこれは全部一度おいておくとしても、その白い魔法少女はどうして東京なんかに? そう、まずはそこよね。
今じゃかなり危険な地域で旧首都の東京。魔法省からも何人かの実力のある魔法少女を定期的に調査に出しているけれど、著しくない。
まあその原因はやっぱりあの環境なのよね。東京内に居る間は、魔力装甲が削れていくからそれらの様子を見て離脱したりしてるのよ。
恐らく魔力装甲がなくなったら同じように凍り付いてしまうだろうし。
……何かが東京にあるのかしら? これもまたただの推測だけど……しばらくの間は様子見かしらね。
そうと決まれば、調査隊をもう一組作らないとね。
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