18【凍結首都】
旧首都――東京。
今から5年前に起きたアンノウンの出現による史上最悪規模の大惨事。死傷者は数千万人にまで上っている。
このことは最早誰もが知っている事件だろう。
今年生まれた赤ちゃんとか、5年前にはまだ生まれていない子たちでも親が教えていると思う。もしかしたら知らない人も居るかも知れないが……。
そんな大惨事の出来事はこう呼ばれている。
――
具体的に何が起きたのか? そもそもアンノウン自体は既に今から15年前には出現していた。魔法少女もその時期である。
そんなアンノウンの出現から10年が経った日。その10年の間に魔法省と呼ばれる国家機関が生まれ、そして魔法少女のバックアップを行うようになった。
出現するアンノウンには脅威レベルという目安が設定され、一番下がレベル1、一番上がレベル6とされた。
以前にも言ったと思うが、脅威レベルの低いアンノウンは自衛隊の攻撃が効く。レベル1やレベル2であれば、最悪自衛隊でも対処ができるとされている。
ただ、やはり兵器類の効き目は思ったよりも弱く、圧倒すると言うほどではなかった。なので自衛隊単独で対応するのは本当にどうしようもない時となった。
だからといって自衛隊は何もしない訳ではなく。魔法少女と協力してアンノウンに対処していた。避難誘導や、護衛等様々なものがある。
魔法少女だって無限ではないのだ。しかも、魔法少女になるのは10代の少女たちがほとんどだ。
そして強制ではなく、任意……つまり覚醒した少女の意思を尊重している。志願制と言っても間違いではないかな?
魔法少女になって戦う道を選んだ少女というのはこれが意外と多かったりする。まあ、学校とかも普通に行ける。アンノウンが出た時だけ対処するだけだしな。
国のバックアップもあるし、意外にも多かったりする。とは言え、それでも普通に考えればその年頃の女の子が命をかけるなんて選択はきついだろう。
確かに少なくはないが、それでも辞退する少女だってそれなりに居る訳だ。
それに今俺が暮らしている地域のように、魔法少女が居ない場所も少なからず存在している。全ての地域に居る訳ではないってことだな。
話を戻すが、アンノウンと魔法少女というのはもう15年前から存在している。魔法省が出来たのは後になるが、それでも結構昔である。
魔法少女とアンノウンの戦い。それはもうずっと続いており、5年前ではもうその出現から10年が経過している訳だ。
それだけの年月が経過すればもう慣れてしまう。そんな油断した中で起きてしまったのが5年前の大惨事。
もちろん、魔法省や魔法少女、国が油断した訳ではない。した訳ではないけど、慣れてしまった中で起きてしまったものであり、今までとは尋常にならない規模のアンノウンの進撃だった。
そういうのも災いしてしまい、過去最悪の規模の大惨事になってしまった訳だ。それに魔法少女だって5年前の惨劇で死傷した者も多数居る。
まあ、そんな5年前の事件以降は事件以前ほど魔法少女になる道を選ぶ少女は少なくなっている傾向みたいだ。
そもそも魔法少女の覚醒条件が不明だし、誕生自体がそもそも少なくなってしまっている可能性だってあるので一概には言えないが。
また話が逸れたが……そんな首都凍結では何が起きたのか。
簡潔に言えば、レベル6のアンノウンの出現及び、レベル4以上のアンノウンの多数出現である。
発生した時刻は13時頃。そう夜でも朝でもなく昼間に発生した。しかもその日は平日でもあった。
多くの人が昼休みを終えて業務などを再開する時間帯だ。もちろん、すべての会社がそうとは言えないけど、12時から13時が昼休みというのは多いのではないだろうか。
時間帯も結構悪かっただろう。
アンノウンの大規模出現によって、昼間なのに空すら真っ暗になった。他の都道府県から見た限りでは空は暗くなかったようだが、東京では真っ暗になった。
近くの都道府県から見た東京方面の空は目で分かるくらい暗かったそうだ。離れた都道府県からも遮蔽物がない場所からは見えたみたい。山の上とかそんな高い場所とかね。
大規模な魔法少女部隊が送り込まれ、自衛隊もそれなり数の者たちが出動していた。当時の俺は20歳。成人をしていたし、はっきりと覚えている。
幸い俺は東京から離れた都道府県に居たから影響はなかったが……それでももうずっとずっとテレビでもなんでも話題が続いていたな。
「……」
ここまでで分かっているとは思うが、念の為説明するとその大惨事の名称が”
そう。
皆も知っている通り、その身を犠牲に東京を凍り付かせた野良の魔法少女。その魔法少女の事を忘れないようにと言う意味も込めて
別名はいくつか存在しているけど、国が公表した正式名称は
「あそこに行くのよね?」
とあるビルの屋上から東京の方を見ていると、フルールがそう言ってきた。魔法少女の身体能力っていうのは中々えげつなくて、離れている場所でもそんな時間をかけずに辿り着くことが出来る。
普通に車とか電車とかよりも早いのが恐ろしい。
「うん」
フルールの言葉に俺はただそう頷く。
この位置でもだいぶ離れているけど、それでもはっきりと見える。白く閉ざされた東京の光景を。身体能力っていうのは視力も含まれていて、こっちもこっちでかなり遠くまで見えるくらいだ。
流石にはっきりとは見えないが、東京周辺を動き回っている魔法少女みたいな子たちが居るのが見える。多分だけど、見回りをしている魔法少女かな?
「今更だけど、東京に入ることがそもそも出来るの?」
「うーん、どうだろう」
そう言えば一般人とかが近付いた場合は見回りしている魔法少女とかが出てくるんだけど、一般人ではなく魔法少女の場合はどうなんだろうか。
魔法少女と言っても俺は野良に分類される訳だが。
「まあ、行ってみれば分かるんじゃないか?」
「それはそうだけど、もし入れなかったらどうするの?」
「その時は……まあ、こっそりとな」
「わあ……」
若干引きつった顔を見せるフルール。
そんなこと言ったが、多分大丈夫だと思う。だって実際、東京には時たま野良の魔法少女が入って来たりする時があるみたいだし。
更に言ってしまうなら一応、魔法省のサイトに野良の魔法少女が東京に入ること自体は別に禁止してないと書かれていたしな。
もちろん、何があっても自己責任という名目で。そりゃそうだ。野良は国に所属していない訳だし、バックアップの対象外だしな。
そもそも野良の魔法少女自体、そこまで多くない。
いや正確には認知している野良の魔法少女が少ないってだけなんだがな。申告やら報告でもしない限り魔法省が野良の魔法少女を把握するのは難しいのだ。
ただ一部地域に限定して見れば、野良の魔法少女を認知しているところもある。個人的にその地域の人が支援したりとかもあるみたいだ。
野良の魔法少女はぶっちゃけその地域でのみ行動しているのがほとんどみたいで、他の地域に来るっていうのは本当に稀である。
まあ、最低限自分の暮らしている地域だけは守りたいっていう意思があるのかも知れない。それなら魔法省に所属したほうが良いって言われるだろうが、事情とかも絡んでいるのではないかと思う。
これは俺の予想の範疇でしかないけどな。
「多分とは言ったが、大丈夫だと思うぞ。野良の魔法少女の進入禁止とか書かれてないし。まあ自己責任だが」
「それはそうでしょうね」
東京で戦闘が起きるとは考えにくいが……一応、それなりに慣れてきたのでアンノウンが出ても問題ないはず。
戦闘が起きるとすれば魔法少女との戦闘くらいだろうけど、魔法少女同士が戦うなんてそんなバトロワとかじゃないんだからないだろ。
確かに噂では毎年だか毎月だか、魔法省内でお互いの技術を磨くという名目でトーナメントみたいなやつがあるらしいけどな。
流石に東京内でそんなのやらんだろ……だってあそこ絶対零度に閉ざされているやばい場所だしな。……そんな場所に今から俺は行く訳だが。
「俺の魔力装甲がどこまで持つかだな」
「多分、奏の魔力量は尋常じゃないからその辺の魔法少女よりは長く行動できると思うわよ」
「そうなのかねぇ」
「多分ね。でも普通より圧倒的に多いのは間違ってないはずよ」
魔法少女だとしても、東京内では魔力装甲がじわじわと削れていくので魔力装甲を維持できなくなる前までが東京内に居られる限界となる。
それは俺も例外ではないはずなので、実際行って見ないとどれくらい持つかは予想できない。まあ、今から実際に行く訳だしそこで考えればいい。
「……取り敢えず、行くぞ」
「気をつけるのよ」
「もちろん」
十二分に注意をするつもりだ。
そんな訳で俺は東京の方に向かって今立っているビルから飛び降りるのだった。
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