17【向かう前に】


「アイシクル・シュート!」


 氷の礫がマシンガンのようにステッキの先から放たれる。そんな氷の礫を食らったアンノウンは、前回と同じようにその姿を消した。


「あれはレベル3かしらねえ。どっちかと言うとレベル2寄りかな」

「レベル2寄りjか。それなら俺が手を出したのはまずかったかな?」

「まあいいんじゃない? 早いうちに対処する分には問題ないはずだし」

「まあそうだよな」


 出現したアンノウンをそのままにしておけば、当然アンノウンは動き出すし人や建物を襲うだろう。早いうちに倒すに越したことはないのだ。

 余計な被害が出てしまう方が問題だしな。それにアンノウンを倒したところでそんなゲームみたいに何かを落とすなんてことはないんだしな。脅威でしかない。


 脅威レベルが低くてもアンノウンはアンノウンである。その動きは同じものであるしそのままにしておく方がリスクが高い


 今更だけど、この地域には魔法少女が居ないんだよな。

 隣町とかの魔法少女がこちらに駆けつけるようになっているようで、この地域自体に魔法少女が居る訳ではない。

 前の俺が襲われた時のことだが、どうやら別の場所にもアンノウンが多く出現したみたいでその対処をしていたからこっちに来るのが遅れたとこの前テレビで言っていた。


 まあ、この地域には魔法少女が居ないから遅れるのは当然だよなあ。凄い今更だけど。まあそれでもなんとか3人の魔法少女がこの地域に来れたみたいだが、俺が2体もやってしまったから3人は驚くというかちょっと困惑していたようだ。

 あと、俺が倒した2体以外にもう1体出現していたらしく、そちらはその魔法少女たちが対処したみたいだ。


「あー。また倒されてる!?」

「本当だ……うーん?」


 そんなこんな考えていると、下の方から声が聞こえる。

 視線をそちらに向けてみれば、如何にも魔法少女です、といった格好をした少女が2人居た。アンノウンが居なくて困惑している様子。


「ん?」

「あ、まずっ」


 そんな魔法少女らしき2人のうちの1人と俺の視線が交差する。俺のいる場所と彼女たちがいる場所では高低差があるので目があった少女の方は見上げる形となっている。


「あ、待ってください!」


 そんな声が聞こえるが、俺はスルーしてその場を後にする。

 いや……正直なところ、他の魔法少女とはあまり顔を合わせたくない。嫌いとかそういう訳ではなく俺の内情的にである。

 だって俺の場合は例外も例外だしな……男なのに魔法少女になってるし、しかもリアルの身体の方まで変わっちゃっているしな。


 アンノウンの対処をしている以上、他の魔法少女と鉢合わせになるのは仕方がないことではあるが……別に話す必要もないし。

 実のところ、既に何度か俺はこの地域でアンノウンが出たら対処しているのでこうやって魔法少女と遭遇するのは初めてではない。声をかけられるのもまた初めてではないんだよな。


 魔法少女になって、それから東京に行くと決めてから数日は経過しているんだけど、何だかここ最近アンノウンが多くなってきたような気がする。

 東京に行く前にもう少しだけ戦闘とかに慣れたいっていうのもあって、アンノウンを相手している感じだ。

 フルールの家で魔法の練習はできるけど、あくまであれって練習場にある的とかを使うだけなので、実戦とは言えないのだ。


 まあ、東京で戦闘が起きるとは思っていないが念には念をってことでこうやって地道に行動している。


 まあ、それで、今回もまた駆けつけた魔法少女と遭遇した訳だ。


 いつも通り逃げるみたいな形で(まあ実際逃げている訳だけど)その場から去ろうとしたのだが、今回はちょっと気になることが。


 あの声、何処かで聞いたことあるような……それも最近な気がするけど……うーん? 俺の気の所為だろうか。まあ、声なんて似ている人とか結構居るからその声に似ているだけなのかもしれないが……。


 今考えても仕方がないか。そんな訳で俺はその場を後にするのだった。




□□□




「あー行っちゃった……」


 もう誰も居なくなってしまった場所を見ながら私は呟く。


「あの子ってもしかして例の?」

「多分……見たことないし」


 まあ、野良の魔法少女自体そもそも滅多に見ないので見たことないっていうのは当然なんだけど、でもこの地域には魔法少女は居ないはず。

 私もかれこれ2年くらい隣町と合わせてここを担当しているけど、2年間の間ではみたことがない魔法少女だった。


 たかが2年と言ってしまえばそれまでなんだけどね。

 一応ここも担当となっているけど、メインは隣の町だし、そもそも私が住んでいるのもそっちだから駆けつけるにはちょっと時間がかかってしまう。

 意外と大きいだよね……この町も私の町も。


「やっぱり新しい魔法少女なのかな?」

「それは分かりませんが……でもまあ、私も見たことないですね」

「あ、やっぱり、アズールフラワーも?」

「うん」


 隣のこの子はアズールフラワーって言ってかれこれ結構長い付き合いの友達だ。というよりリアルでも幼馴染だしね。

 彼女もまた私と同じようにここの担当をしてから2年は経過している。幼馴染っていうも

あって一緒に行動することが多いんだよね!

 ただこの子、誰に対しても比較的丁寧語を使うから何ていうか……うん。私に対しても丁寧語だから凄い変な感じ。たまに砕ける時があるけど……そっちで喋ってくれた方が私は嬉しんだけどねえ。

 まあ。これは昔からだし仕方がないのかな。

 家も近いし、よく一緒に遊んだけどまあやっぱりちょっと丁寧語みたいな感じ。子供の頃は結構砕けることが多かったけど……。


 中学生になってからそっちに板が付いちゃったみたいで高校生になった今でも変わることはなかった。


 まあそれでも、丁寧語なだけであって普通に話すしよく遊ぶし別に気にしてないんだけどね。え? 今さっき、砕けたほうが嬉しいって言ってなかったっけ? だって?


 いやまあ確かに砕けてくれた方が嬉しいのは事実だけど、無理強いするのはちょっとね。嫌われたくないし。


 とまあ、私たちの話は一旦置いておいてっと。


「魔法はよく分からなかったなあ」

「まあ、私たちが駆けつけたときには既に倒された後でしたし、仕方ないと思いますよ?」


 これはアズールフラワーの言う通り。

 私たちが駆けつけた時は既にアンノウンの姿はなく、さっきの空を飛んでいた魔法少女くらいしか居なかった。

 既に戦闘の後なので、あの子が何の魔法を使っていたかは分からない。ただ月夜さんは例の魔法少女は氷属性って言っていた気がする。


 そもそも、新しい魔法少女かどうか分からない状態なんだけどね。もしかしたら元から居た野良の魔法少女かもしれないし。たまたまこの町に来ていただけとかね。


 ただ、今回持っていうのは気になるよね。

 今回もたまたまこの町に居たから対応したっていうのは流石にどうなんだろう。というか既に何回かこの町で行動しているのを目撃されている訳だし。

 まあ、私たちじゃない魔法少女も呼び止めようとしたみたいなんだけど、やはり今のように逃げていったと言うか、去って行っちゃったようだ。


 たまたまにしてはこの地域で目撃されすぎている気がする。いや、引っ越したとかそう言う可能性もあるけど、取り敢えずこの地域でよく見かけるのは変というか……。


 あまり頭が良くない方って自覚している私でも引っかるよ。


「取り敢えず、報告だけしましょうか」

「うん、そうしよう」


 仮に新しい魔法少女だとしても既にあの子は何処かに行ってしまったしここで考えていたも仕方がないよね。


 一応月夜さんには報告しておくことにする。まあ、月夜さんはスカウトする気があるみたいだけど、何となく断られそうな気がする。

 もし所属する気があったらあんなさっさと逃げたりはしないだろうし。


「それにしても、真っ白だったよね」

「背中に羽みたいなのがあったのも見えましたね」


 何ていうのかなあ。

 距離もあったからはっきりとは見えなかったけど、一言で言うなら純白の天使? そう言うくらい白かったし、背中の羽も天使の羽みたいに真っ白だった。


「取り敢えず、行こっか」

「そうですね」


 ここでじっとしていても仕方がない。

 アンノウンは倒されたので、私たちはそのままその場を後にするのだった。


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