16【魔法の特徴】


「東京に行く?」

「ああ。東京に行けば何か分かるかもしれないし。まあ、夢の出来事にそこまでするっていうのはおかしいかもしれないが」


 東京。

 旧首都であり、首都凍結フリーズ・シティによって絶対零度に閉ざされた場所。近づくもの全てを凍らせてしまう、まあ危険な場所といえば危険な場所だ。

 とは言え、全てを凍り付かせてしまう環境になっているのは事実だが、それでも唯一行動が可能な存在が居る。

 それが前にも言ったと思うが、魔法少女である。彼女たちは魔力装甲と呼ばれる魔力で出来た装甲を変身時に身に纏っている。それは魔法少女を攻撃などから守るために存在するものだ。

 実際俺も魔法少女になった際に、装甲のようなものを可視できたしな。透明な膜のようなものだ。これが受けたダメージを肩代わりしてくれているという訳だ。


 そんな魔力装甲だが、絶対零度と化した東京内にも有効であり、中にいる間はじりじりと削れていくようだが、装甲がある限りは魔法少女が凍ることはない。

 因みにそんな東京だが、特に立入禁止とかいう標識はない。まあ、東京に行ったらどうなるかってもう分かっているからな。


 もちろん、近くには魔法少女とか魔法省の人々が見回りしているのだが、まあ近づく人は今じゃ全く居ないらしいな。テレビでも言われていた。

 普通は行くような場所ではないからな。言ったら最後、凍り付いてそのままになってしまう訳だから。


 昔はそれなりに興味本位とか好奇心で行く馬鹿が居たので、見回りも厳しくなっていたみたいだが。

 残念なことにそれによって凍り付いてしまった人も居る。自業自得ではあるけど魔法省にはいくつかクレームみたいなものが来たらしい。

 いや、危ないと知ってて行く方が悪いだろ、普通。そういった意見が圧倒的にネット上とかでも多かったな。


 まあ、そんな前のことはさておき。


「でも東京って今は……」

「ああ。知っての通り、絶対零度に閉ざされた場所だからかなり危険な場所になってる」

「そこに行くつもりなの? 夢のことなのに」

「それはご尤もなんだけどね」


 たかが夢のために危険地域に行くのはおかしな話だろうが、それでもやっぱり引っかかりがあってどうしようもないんだよな。

 何か大事なことを忘れているようなそんな感じ……もしかしたら本当に俺に妹が居てその妹が首都凍結フリーズ・シティを起こした魔法少女なのかもしれない。


 いやそんな馬鹿な、とは俺自身も思う。

 じゃあなんで覚えていないんだ? おかしいだろ。小さい頃の思い出の中にだって妹のような存在はないのだ。俺の家族は母さんと父さん、お祖母ちゃんにお祖父ちゃんそして俺だけだったはずなのだ。


「……」


 仮にだ。

 仮に俺に本当に妹が居たら……そしてその妹が首都凍結フリーズ・シティの魔法少女だったら……。


「仮に居たとして、何で俺は覚えていないんだ?」

「奏、大丈夫?」

「あ、ごめん、フルール。やっぱり気になるんだよな……」

「……」


 本当に馬鹿らしいことだと思う。

 でもどうしても引っかかる”何か”が俺の中にはある。本当によく分からない。


「いえ、気持ちは分からなくないわ。確かに偶然にしては都合が良いと言うかタイミングが良すぎるしね」

「フルール……」

「同じ氷を使う魔法少女に東京。そしてアブソリュート・ゼロという名前の魔法……無関係とは言えないわね」

「だよな」


 夢の中の魔法少女、そしてその夢を見た日に魔法少女になった俺。

 夢の中の魔法少女が使う属性と、俺が使う属性。

 最後に俺自身も使えるアブソリュート・ゼロと呼ばれる魔法。


 今更ながら共通点が多すぎる。仮にアブソリュート・ゼロという名前でも同じ名前の別の魔法だとしてもだ。ここまで共通するのが多いのは本当に偶然なのだろうか。

 ここまで共通点があると俺たちが兄妹だったと言った方が何となく理解できる。同じ血の繋がった兄妹なら魔法とかが同じでもおかしくはない。


 俺のことをお兄ちゃんとも言っていた訳だからな。


「仮にさ。兄妹だとしたら魔法が同じっていうのは十分あり得るよな?」

「ええ。その推理と言うか予想はかなり当たっているわ」

「そうなのか……」

「この10年で私が見た限り、血の繋がった姉妹は似たような魔法を使っているパターンが多いわね」

「……そう言えば」


 魔法省に公開しているデータ……魔法少女になりやすい年代以外にも色々とあった気がする。そこに魔法の傾向とかもあったような……。


「ちょっと急いで家に帰ろうか」

「へ? どうしたのよ、いきなり」

「いやちょっと調べたいことが出来た」


 魔法省の公開データならネット上でも見れる。というか普通はそれで見る。魔法省に直接行っても専用のPCとかで見れるのだが、わざわざ自宅にあるPCで見れる情報を見に行く人など居ないだろう。

 PCがない人なら行くかもしれないが……。


 取り敢えず、若干急ぎ足で俺は家に帰るのだった。




□□□




「あったこれだ」


 自宅に帰り、まずはコンビニで買ったおにぎりをコーラと一緒に頂いた後、自分の部屋に戻ってきてはPCを起動して魔法省のサイトを開く。


「魔法少女の使う魔法の傾向?」

「ああ」


 そう。

 魔法少女と一言で言ってもそれぞれ属性というものがある。この前、フルールに教えてもらったように9属性だったかな。

 俺の場合はその中にある氷属性という訳だが。俺のことはもう分かっているので置いておこうか。


 魔法少女の中には姉妹で変身したという例もある。

 そんな姉妹魔法少女はお互い使える属性が一緒な場合が多く、特に血の繋がった姉妹同士はほぼ同じ属性となるらしい。

 血の繋がっていない姉妹……まあ義理だな。その場合でも変身した例はあるが、こちらはやはり属性が異なる場合が多いみたいだ。


「なるほど。そういうデータがあるのね」

「まあ、思い出したのはついさっきなんだけど」

「あーそれで、急いで家に帰ったのね」

「うん」


 このデータとフルールが言っていた説明は一致しているだろう。これで分かるように血の繋がった姉妹同士であれば同じ属性になる可能性が非常に高いということだ。

 因みに数は少ないが例外もあって、このデータでも分かるように血の繋がった姉妹でも別属性にある場合もあるっちゃあるみたいだ。


「仮にその夢の中の魔法少女が奏の妹さんだったとしたら……」

「属性が同じっていうのは当てはまるな」

「でも、妹さんなんて居ないんでしょ?」

「そのはず、なんだよな。……なあ、記憶を操作する魔法はフェアリーガーデンで言っていたように少人数対象のしかないんだよな?」

「ええ。私が知っている範囲ではね」


 妹という存在自体が記憶から消えてしまっている。その可能性があるとは言え、フルールが言うように少人数が対象のものしかない。

 首都を凍らせた魔法少女のことを知っている人は相当数存在する。スレもそうだし、SNSとかでも話題になっている。

 しかしながら誰もその魔法少女の名前を思い出せない。その身を犠牲にして首都を凍らせたということ自体は覚えているのに。


 要するに知っている人の数は日本人の全てとまでは言わないけど、それだけの数の人が知っている訳だ。それに海外でもまたアンノウンは出現しているようだし、5年前の出来事は世界中にも広がっている。


 知っている人の数が多すぎるのだ。だからその規模の記憶を操作したってことになるのだ。もし記憶を操作した存在が居るのであれば。


 フルールの言っていることが本当であれば全員の記憶が操作されたという可能性ないに等しい。

 それならば普通に考えて俺には妹なんて居ないって考えるのが普通になる。


 ただ、そうとも断言する材料もない。

 存在しないって断言できる材料はない。そして反対に存在すると断言できる材料もない。

 まあ、戸籍謄本に妹の名前がないっていうのは材料になり得るが、魔力や魔法といったものが存在するこのご時世だ。

 しかも俺自身だって性別やら戸籍やらが変わるという前代未聞の珍事かどうか分からないが、普通ではありえない変化が起きている。


 東京に行く。

 行けば何か分かるかもしれない……かもしれないの範囲ではあるけど、何もしないよりはマシだ。

 それに、俺は見ての通り今では仕事とかもやっていない訳で時間はたっぷりとある。何か行動指針みたいのがあれば捗るはずだ。


 もちろん、元に戻る方法も一緒に探すつもりだがこっちはどうなのかね。こっちについては今すぐに出来ることはないし、東京を調べる方がまだ出来ることに入るだろう。


「まあ、奏の好きに動けば良いと思うわよ。もちろん、私も行くわ」

「ああ。よろしく」


 そうと決まれば、いつ行くか……取り敢えず今後のことを考えるか。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る