15【コンビニ】


 場所が変わり、俺とフルールは地球の俺の部屋に戻ってきていた。時刻は19時半頃。

 もう夜ご飯という時間帯だが、今から何かを作るというのも少々面倒なので近くにあるコンビニで弁当でも買おうかと思い準備をする。


 車で行く必要はなく、歩いて5分くらいのところにあるのだが……。


「なんかこの辺って結構田舎っぽく見えるわね」

「言うな」


 田舎っぽいのは認める。

 これでも一応大都会がある都道府県なのだが……いやまあ、どんな場所でも外れに行くにつれて田舎っぽくなっていくのは仕方がないのだが。


 当然今の俺の姿は変化とかはなく、黒髪少女のままだ。まだ19時半過ぎなので、補導だとかそんなのに引っかかることはないと思うけど、取り敢えず早めに終わらせるつもりだ。


 まあ、仮にそんな補導的な何かに引っかかったら身分証最強であるこの免許証を見せてやれば問題ないんだけど。不本意ではあるけど、こんな容姿になっているが立派な成人で25歳となっている。

 年齢詐欺とか言われそう……まあ、実際昼間に件の2人の女の子に勘違いされてしまったが。


「ああ、よく見るあのコンビニね!」

「その通り。まあ、誰もが知ってるだろうなあ」


 有名だし。

 全国展開しているコンビニは多いが、その中でも特に売上もトップを走っているあのコンビニである。


「いらっしゃいませ~」


 そんなコンビニの中に入れば、店員さんがお決まりの接待文句を言ってくる。中は当然ながら暖房が効いており暖かい。

 まだ冬に入り始めの時期ではあるけど、意外と寒い。この調子で本格的に冬となったらかなり寒そうな気がする。


 3ヶ月予報とかでも全体的に低いとされていた気がする。どうもあのラニーニャ現象とやらが発生している様子。この現象が発生すると、夏は暑く冬は寒くなる傾向にになる。

 しかし、今年の夏はそこまで暑いというものでもなかった。いや暑かったのは暑かったけど、例年に比べてそこまで猛暑日が多くなかった。


 お盆とかは雨が降って10℃~20℃くらいの気温になるわ、9月の初めも雨が降って気温が下がるわで色々変だった。


 それはさておき。

 弁当を買いに来たのは良いのだが、時間帯も時間帯でそれなりに混んでいる感じ。見た限りでは結構お客が居る。

 レジは3つあって、1つは店員が出入りする場所の上の台を降ろして使うような感じになっている。店員の数もざっと見た感じでは5人くらいか? 裏とかに居る可能性もあるけどそれは一旦置いておく。

 レジ対応しているのが3人、品出しとかやっているのが2人ってところか。


「なあ、フルール」

「どうしたのよ?」

「この身体ってどれくらい食べれると思う?」

「あー……今の奏は女の子だものね。量も違う可能性があるわよね」

「そうなんだよな」


 店員やお客の観察をしつつも小さな声でフルールに話しかける。

 男性と女性では食べられる量も違うだろうし、どうするかなと言ったところだ。大食いとかする人は除く。


「流石に他人の食べれる量とか分からないわね」

「だろうな……」


 うん知ってた。

 昼間に食べたハンバーガーについては問題なかった。まあちょっと重かったような感じもしたけど、それは誤差である。


「んーこれで良いかな」

「あ……」

 お弁当ではなくおにぎりにしようと思い、最後の一つだった結構人気のあるツナマヨネーズを取ろうとしたが、そこで別の誰かの手とぶつかりそうになる。


「あの、その……」

「もしかして君これを?」

「……はい。でもそちらが先だったので大丈夫です」


 ぶつかりそうになった人の方を見れば、そこには近くにあるあの高校の制服を着た大人しそうな雰囲気の女の子だった。

 どうやら彼女もツナマヨネーズを取ろうとしたみたいだ。


「良いよ、取ってって」

「え? でも……」

「別にツナマヨじゃなくても良かったからね。だから気にしないで」


 ここはレディーファーストということで、彼女にツナマヨのおにぎりを譲る。え? 今のお前も女だろって? 確かに見た目はそうだが中身は男なんで。


「えっとその……ありがとうございます」

「うん」


 そんな訳で最後の1つだったツナマヨを譲り、俺は別のおにぎりを手に取ってかごに入れる。

 1つだけだと流石に足りなさそうなので2つにして、あとは飲み物を買う感じだ。ビールとかでも良いのだが……。


「まあ、コーラでいいか」


 身分上は25歳なので問題ないのだが、まあ、今はお酒の気分とかではないのでコーラにしておく。500mlのペットボトルを3本くらい取ってまたかごに入れる。

 コーラのゼロと、普通のコーラそれからダイエットコーラである。普通のコーラが一番美味しいんだけど、砂糖の量がかなりあるんだよな。


 そこまで糖分を気にしている訳ではないけど、ゼロとダイエットも買っている。


「あとは……大丈夫かな」


 他に買うものがないかを確認したところで、俺はレジの列に並ぶ。さっきのツナマヨの女子高生の姿は見えなかったのでもう会計を終えた後なのかもしれない。


 そのままレジで会計をした後、コンビニを後にする。

 家に帰る頃には20時近くになってそうだな……まあ、問題は特にないから大丈夫だが。


「それにしても寒いわねえ」

「それな」


 当然だけどコンビニから出れば外は寒い。既に喋る度に白い息が出ている訳だし。もう少し厚着をしておくべきだったか。

 白い長袖ワンピースの上に長袖のちょっと厚めのパーカーを着て更に首にマフラーを巻いている状態なのだが。

 これは今日服屋で買ったやつの一つ。しかし、スカートはスースーするし、足は少し寒いしでなんかあれだな。

 女性はどうしてこんなスカートで出歩けるのだろうか……学校の制服もしかり。短くしている理由もよく分からない。結構見かけるんだよな、スカート丈を短くしている学生を。


 まあ、気にしたところで分からないものは分からないか。本人に聞くくらいしかないな。

 それは置いとくとしても、この服とかに慣れるのには時間がかかりそうだ。慣れるのもそれはそれでどうなのかってことになるけど……。


「ままならないな……」

「どうかした?」

「いやなんでもない。星が綺麗だなと」

「そうねえ」


 まあ全然違うこと考えていたんだけど。

 空を見上げれば夜空に輝く綺麗な星々が見える。冬は空気が澄んでいるから星も綺麗に見えるって言われているよな。

 あとは都会と違ってこの辺りはさっきもフルールに言われたが田舎っぽい場所で明かりが少ないっていうのもあるだろう。


「……東京、か」


 そんな星空を見ながら俺は一つ呟く。

 首都凍結フリーズ・シティによって絶対零度に閉ざされた旧首都である東京。夢の中であの魔法少女が使っていた”アブソリュート・ゼロ”の魔法。

 無関係……とはやはり言えないんだよな。前にも言ったと思うけど、妙にリアルだったしこうやって記憶に残っている。

 更に言えばその彼女が居た場所……見間違いではなければあれは東京タワーのてっぺんだ。

 旧首都にある有名なタワーは2つあるが、あの赤いのは東京タワーの方で間違いないはず。そんな場所に居たということは……。


 そうあの夢の中の場所は東京であるということ。


 そしてフルールの家にあったアブソリュート・ゼロの魔法。時すらも凍り付かせるというトンデモ魔法だったみたいだ。

 まだその魔法なのかは分からない。同じ名前だけど違う魔法って可能性も捨てきれないしな。


 だが、夢の中で凍らせたというのは事実なのであれはやはり……。


「また考え事しているわね」

「あ、ごめん。いやちょっとな……」


 確認しに行くべきか。普通なら近づけない場所だが……今の俺なら或いは。


「ちょっと東京に行ってみようかなと思ってな……」

 

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