14【アブソリュート・ゼロ】


 夢の中の魔法少女……恐らく彼女は氷属性の魔法少女で間違いないと思う。

 何故そう言い切れるかは正直自分でもよく分からない。でも、夢の最後で発動させたあの魔法は間違いなく、凍らせる系の魔法だ。それはつまり、あの魔法少女は氷属性の魔法が使えるということになる。


 まあ、首都凍結フリーズ・シティを起こした魔法少女とは断言できないけどな。


 そういう訳で夢の中で見たそのことをフルールに伝える。これはあくまで俺の夢の中での話なので関わりがあるかどうかはわからない。だがこの夢は妙にリアルだったし、こうして今でも記憶に残っている訳で。

 

 それに俺のことをお兄ちゃんとよんでいたのもまた気になる。

 念のために言っておくが、別に俺は妹が欲しいという願望はない。だから俺が妹が欲しかったからって夢に出てきたっていうのはまずない。


 そこ、疑わしい目で見ない! いや真面目に妹願望はないよ? ……それに仮に欲しいと言っても叶わぬことである。

              

「なるほどね……氷の魔法少女。うーん、何となく首都凍結の魔法少女な気はするけど、名前が思い出せないわ……」

「それは俺もだ」


 自分の身を犠牲にして首都を凍らせた。そのお陰で被害はそこで抑えられた訳で、今の日本がある。仮にあのまま首都凍結がされないままだったら今の日本はなかったとも言われている訳だし。

 そんな英雄のようなことをしてくれた彼女の名前を俺たちは思い出せないのだ。ネットでもちらほら見るが、その凍結を起こした魔法少女の存在自体は認識できているようだが、誰も彼もが名前を思い出せない状態だ。一体何だというのか。


「誰かが記憶干渉を起こしている……というのは考えすぎかしらね」

「記憶干渉なんて出来る存在居るの?」


 あまり想像がつかないが、記憶に鑑賞できるというのはそれはそれでかなり凶悪だな。何か悪いことをしたとしても、それを見た人とかの記憶を消したら完全犯罪待ったなしである。


「魔法少女、では見たことないわね」

「だよな。って、魔法少女?」


 その言い方だと、魔法少女じゃない存在であれば居るかもしくは、心当たりがあるというように聞こえるが。


「ええ。干渉出来る存在ならフェアリーガーデンに居るわよ。ただ、彼女の使う記憶系の魔法では大規模な記憶操作とかは出来ないけどね。出来るのはごく少数の記憶を操作すること」

「でも、少数でも使えるのか……」


 少数がどのくらいの人数かは分からないが、それでもその数人くらいに対して干渉が出来るというのはそれでも十分凶悪な気がする。


「まあ、私の知っている範囲ではその子だけね。彼女が日本全体だ世界全体だかは分からないけど、その全ての人の記憶に干渉することは不可能のはずよ。本当に少数にしか使えないみたいだからね。それに彼女は地球に行ってないはずだし」

「そうなのか」


 まあ、妖精であるフルールも例の魔法少女のことを思い出せないみたいだし。地球だけではなく、妖精にも干渉しているってことになるよな。フルールだけっていうのはないと思いたいが。


「何か関わりがあると思うか? あくまで俺の夢なんだが……」

「無関係……とは言い切れないわよね」

「まあな。なんというかこう引っかかる感じもするしな……俺のことをお兄ちゃんって呼んだのもよく分からん」

「奏には妹とか居ないのよね?」

「居ないはずだ。両親が隠していたら分からないが……それはないと思う。それに既に両親は居ないから、もしそうだとしても聞く術はない」

「あ、ごめんなさい」

「いや大丈夫だ。居ないと言っても既に結構時間も経っているしな」


 全く気にしてない……というのは嘘になるが、もう過ぎたことだ。大分落ち着いているしな……。


「考えても意味ないか……結局思い出せないし」

「そうね。一旦この話は置いておこうかしら」


 その言葉に俺は頷く。

 首都凍結を起こした野良の魔法少女……一体どんな気持ちで行ったのかは分からない。それにその魔法少女は野良。つまり国に所属していない魔法少女な訳だ。

 普通、所属しない場合というのは魔法少女として戦わないということを選んだ少女たちがほとんどだ。個人で動く魔法少女というのはレアである。


 そんな野良で個人で動いていたということになる。そしてその身を犠牲にして首都凍結を引き起こした。普通では考えられない行動……だと思う。


 ……。

 身を犠牲にした、と言ってるがここで一つ思い浮かぶものがある。前に言った3人の始まりの魔法少女の1人……死亡とされているけど、遺体を確認できていないため実質行方不明となっている。

 その魔法少女の説の一つである、東京の中で凍り付いているという可能性。首都凍結に巻き込まれてそのまま凍りついた……のではないか。


 しかし、これは確かに有力な説の一つだけど反対意見もある。その理由として、魔法少女には魔力装甲がある。それがある限りは凍結しないということと矛盾するのではないか、と。

 現に現在旧首都を調査している魔法少女は無限に居られる訳ではないけど、魔力装甲がある間は動けている訳だしな。


 まあ、始まりの魔法少女については置いておくとして、この凍り付いてしまっているというのは首都凍結を起こした魔法少女にも言えるのではないだろうか。


「どうしたのよ? そんな真剣そうな顔をして」

「あ、いやちょっとな……」


 考えるのは一旦やめようというフルールの言葉に頷いたのは良いが気になることが思い浮かんだりするとこうなるのは悪いところだな。


「もしかしたら東京……凍結してしまった旧首都の中に首都凍結を起こした張本人の魔法少女も凍り付いて眠っているのかなと思ってな」

「! 確かに」


 そう実際にその魔法少女の遺体だって確認されていない訳だ。だから、さっき言った始まりの魔法少女に限らず、その野良の魔法少女も居るのではないかと思った。


「……まあ、これはあくまで俺の考えだけどな」


 これはまだ俺の仮説にしか過ぎない。断言できる根拠とかそういうものはない。だけど、もしそうだったら……東京の中を探れば見つかる可能性はある。俺と関わりがあるのかないのか……その確認も出来るかもしれない。

 まあ、望みは薄いかもしれないけどな。


 もう5年もあのままだ。

 5年間ずっと凍り付いたままでは、生きている可能性が低いだろう。まあそれだからこそ、死亡という扱いにしているんじゃないかって思ってる。


 ……もしも、仮に生きていたら?

 ありえない気がするけど、確かにその可能性もゼロではない。それならば色々と聞けるかもしれないし、夢の中に出てきた彼女と同じかも分かるはず。


「それに5年も凍っているんだしな……」

「いえ……奏。あなたの仮説、もしかしたらあり得るかもしれないわ」

「え?」


 フルールの声に思わず、振り向く。


「どういう事?」

「これを見て頂戴」

「本?」

「ええ。取り敢えずこのページを見て」


 そう言われたので俺はフルールが開いて居るページを覗き込む。


「アブソリュート・ゼロ?」


 大きく見出しにアブソリュート・ゼロの文字が書かれており、その下は細かな文字で色々と書かれていた。


「アブソリュート・ゼロっていう魔法にあの時は言わなかったけれど、ちょっと聞き覚えがあったのよね。あらゆる物を凍らせるって言うのも。だからちょっと調べてみたんだけど」

「いつの間に……」


 いつの間に調べたのか。気になるけど今はこの本に書かれている内容だ。


「これ本当に氷魔法なの?」

「ええ。分類上は凍らせるから氷みたいね。ただ……」

「……時すらも凍り付かせる」


 その一文字。

 それが何を意味するのか……誰もが簡単に予想がつく。


「この本の説明通りなら、凍り付いた当時の状態のまま凍っているって事だよな?」

「ええ」


 なんじゃそりゃ。


 俺たち二人はその内容を驚きながらも読み進めるのだった。

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