12【世界樹と氷属性】

前書き

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願い致します。m(_ _)m

――――――――――――――――――――――――




「さあ着いたわよ。ここが私たちの世界、フェアリーガーデンよ」

「……え?」


 フルールの声と同時に俺はいつの間にか閉じていた目を開く。真っ先に視界に入ったのは目の前にある物凄くでかい大きな木だった。空を貫いているんじゃないかと思う程高いし、大きい。


「太い」


 見てわかるように、高いだけではなく幹や枝も相当太い感じだ。そっとそんな大きな木の幹を触ってみるが、触り心地自体は普通の木を同じ感じだ。

 フルールが良い場所があるって言っていたので、その言葉を信じた訳だが……。


「それは世界樹って呼ばれているわね。もう数千年も生きているって聞いているわね」

「数千年!?」


 そのとてつもない数字に心底驚く。反射的にその気にまた視線が向いてしまう。数千年も生きている木とか聞いた事も見た事もない。まず地球上に存在するのだろうか?


 しかも世界樹……とな。なんだその神話とかに出てくるような木は。そう言えば、移動する前にフルールが唱えていた言葉の中にそんなのがあったような。


「地球から転移すると必ずこの場所に飛ぶのよね。まあ、いきなり人が居るところとかに転移で現れたら危ないし問題ないんだけど」


 そうフルールは言う。

 いやそれよりも、こんなあっさりフェアリーガーデンに行ける事自体が驚きなんだが。地球にこんなでかい木はないだろうし、間違いなく地球ではない場所だろうな。

 もし地球上にこんな木があったら、既に認知されていてもおかしくないはずだし。知る人ぞ知る秘境とか、地球でもまだ不明な場所とかそう言う場所があったら可能性はあるが。


「どうしたの? あ、もしかしてあっさりとフェアリーガーデンに来れたことに驚いてる?」

「……何故分かったし」

「今のは完全に顔に出ていたからね」

「……」


 顔に出ていたのか……そんなつもりはなかったのだが。


「この世界樹の名前はユグドラシル。まあ、この世界の中心と言うか……この世界を維持してくれているって聞いているわ」

「ユグドラシル……」

「名前ぐらいは聞いた事くらいはあるわよね? それがフェアリーガーデンでの事ではなくても」

「まあな……って言っても神話とかの話でだけど」


 そう、聞いた事があるっていうのはあくまで神話とかそう言うものでの事。地球ではそう言う神話とかで出てくるような木だから、実在はしない……と思う。


「穴が開いたからって普通に移動できる感じではないのよね。こうやって世界樹の力を借りて世界を移動するの。戻る時はいつでも戻れるけど」

「そうなのか」

「ええ。ああそれと、今の奏は多分小さくなっていると思うわ」

「え? ってそう言えば……フルールが大きいような」


 世界樹の方ばかり気になってしまったので気付けなかった。掌に乗れるくらいだったはずのフルールが、俺と同じくらいの身長で隣に居るのだ。


「フェアリーガーデンで暮らす私たちは全員がこのくらいの大きさなのよね。だから奏は世界樹の力によってこの世界に適応した身体に変化しているわ」


 世界に適応した身体にするって……再び俺は世界樹を見る。まじでこの世界樹は何者だよ……いや、何者でもなく分類上は植物なんだろうけどさ。


「つまり、フルールが大きくなった訳ではなく俺が小さくなったって事ね」

「そういう事」


 なるほど、理解した。


「さ、私の家に行きましょ。庭とか無駄に広いしやばい魔法とか使わない限りは問題ないはずよ」

「了解……それで、フルールの家は?」

「ここからだとそれなりに遠いのよね。だからまた転移で行くわ」


 そう言ってフルールは俺の方に手を差し出してくる。掴め、という事だろう。さっき移動した時は大きさの違いもあって、掴むことは出来ずに触る感じだったけど、今回は普通に掴める。


「じゃあ行くわよ。……転移」


 フルールがそう口にすれば、一瞬にして景色が切り替わったのだった。





□□□





「氷属性の魔法少女?」

「ええ。話は伝わってるわよね」

「一応は」


 氷属性の魔法少女。

 まだ確定という訳ではありませんが、つい先日のアンノウン出現の際に誕生したとされる魔法少女の事になります。いえ、まだ誕生したとはっきり言える訳ではないのですが。


 戦いの痕跡から水か氷の魔法を使ったという事が分かっています。ただ、凍り付いたような跡があったので、水ではなく氷の可能性が高いとされているみたいです。


「まあ、まだ完全に誕生したと言い切れるわけではないんだけどねえ」

「既存の魔法少女の可能性もありますからね」


 魔法省のデータベースには氷の魔法を使える魔法少女は今までに確認されていない為、記録がありません。あくまで魔法省に所属している魔法少女のデータなので野良は分かりませんが。


「氷属性って珍しいんだっけ?」


 頭にはてなマークを浮かべて首を傾げる香菜を見て私は、はあと軽くため息をつく。


「珍しいと言うか確認されてないわね」

「確か5年前の首都凍結フリーズ・シティを起こした野良の魔法少女が氷でしたよね」


 首都凍結フリーズ・シティ

 もう誰もが知っていると思いますが、史上最悪の大事件の事です。その死傷者は数千万にも上ります。名称は首都凍結フリーズ・シティとされていますが、首都が凍って死傷者が出たと言う訳ではないです。

 5年前はまだ私も香菜も魔法少女にはなっていませんでしたが、この事件の事はよく覚えています。一瞬にして首都……今は旧首都と言われていますが、その東京が凍り付きました。


 というのもレベル6のアンノウンが出現し、更にその取り巻きでレベル4以上のアンノウンもかなりの数が出現しました。死傷者を出したのはそのアンノウンであって、凍結自体ではないです。

 それはもう当時の東京は阿鼻叫喚だったと聞いています。先ほど言った死傷者数千万人の中には魔法少女たちも含まれています。アンノウンに対抗できる力を持つ魔法少女でも相当の数の死傷者が居たそうです。


 死傷者っていうのは死者だけではなく怪我した人も入るので、数千万人が死んだと言う訳ではありませんのでそこは安心……も出来ませんが、取り敢えず全員が死んだと言う訳ではありません。それら全てを含めた人数ですね。それでも過去最悪の被害だったみたいです。


 本題に戻しますが、首都凍結フリーズ・シティというのは名前の通り首都が凍り付いた為に付けられた名称です。これはある野良の魔法少女がこれ以上の被害を出さないようにと、その身を犠牲にして首都を凍結させた事に由来します。

 とんでもない規模の魔法だったそうです。それはそうですよね……小さいとは言え東京全体を凍り付かせたのですから。それに今もまだ凍り付いたままです。


 ただ隣接している都道府県は影響を受けていないみたいです。実際隣接している都道府県が、無傷であるのが証拠ですね。


「ええ。私たちが認識している範囲ではその時の魔法少女だけね。ただ……名前が思い出せないのよね」


 そう言って考える素振りを見せるのは、この魔法省のトップである星空月夜ほしぞらつきよさんです。見た目は高校生くらいですが、実際は既に成人しています。

 今言いましたが、そうなんですよね。この方が魔法省のトップです。そして始まりの魔法少女の一人でもあります。知らない人が見たら普通に学生と間違えると思います。


 でも間違えると怒られるのでそこは注意です。まあ当たり前なんですけどね。人を見た目で判断するなという事です。


 つい最近、そんな感じで間違えてしまった事がありましたね。私も最初は素で間違えてましたし、香菜についてはちゃん付けで呼んじゃってました。

 幸いその人は許してくれましたが……いやはややってしまいました。

 

 えっと確か名前は、氷音奏さんでしたよね。私たちよりも身長が低く、同じ女性として見ても美少女と言えるくらいの容姿をしていた方でした。年下かと思っていたら成人済でした。しかも免許証まで持っていましたからね……。


 長い黒髪の若干ゆるふわしているロングストレートが特徴的でした。


 正に月夜さんと同じで、見た目で判断してはいけないの代名詞でした。


「そう言えば……そうですね。私も名前を思い出せません。聞いた事はあるはずなのですが」

「それ、私も同じかも」


 そうなんですよね。有名なはずなのに、野良の魔法少女としか分かりません。名前がこう思い出せないのです。


「やっぱり皆もそうなのね」


 なんなんでしょうかね、この引っかかるような感じは。


 今考えても仕方がないですね……取り敢えず、氷属性の魔法少女が誕生した可能性があるって事です。まだ可能性の話なので何とも言えないらしいですが。

 仮に氷の魔法少女であれば、希少な存在になりますね。その力はどれくらいかは分かりませんが……。


「取り敢えず、何か情報があったら教えてちょうだいな」

「スカウトするの?」

「まあ、出来ればスカウトしたいわね。仮に氷の魔法少女だったら。そうじゃなくても、あの地域での初めての魔法少女でもあるし」


 スカウト自体は自由ですが、所属するかは本人次第なので本人が拒否した場合はどうしようもないです。


 まだ新しい魔法少女とは決まった訳ではありませんが、会ってみたい気がしますね。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る