11【転移】


「はあ」


 自宅に戻ってきたところで俺は一息つく。

 何と言うか……色々と疲れた。そんな疲れるほど何かをした訳ではないが、身体的ではなく精神的に疲れた。服屋もそうだし助けた2人と一緒にフードコートで座って話したりした時もそうだ。


「”私”って使ってたわよね」

「そりゃあ……まあな。不本意ではあるけど、変な喋り方は出来ないだろ」


 この見た目で俺とか使って見ろ……違和感が凄いのなんの。別にこうやってフルールと話す時は素で行けるけど、見知らぬ人に対して素で話すのはちょっとな。


 あの後、まあ知っての通りフードコートで軽く話をしながらお昼を取っていた。お腹は空いていたが、がっつり食べたいと言う気分でもなかったので軽めのもの……ハンバーガーを頂いた。

 頂いた……って言うのは、ナンパ男から助けた2人に奢られた訳だ。やんわりと断ろうと頑張ったのだが、結局こっちが折れてしまった。


 ……聞けば2人ともまだ高校2年生って言うじゃないか。女子高生に奢られる成人男性とか何か嫌だ。


「今の奏だと、あの子たちよりも身長低かったし、むしろ妹とか後輩とかそんな感じに見られてたかもしれないわねえ」

「……解せぬ」


 非常に残念な事に、あの子たちよりも俺の今の身長は低かった。確かにそう考えると傍から見れば妹はさておき、後輩とは思われたかもしれない。これで実年齢25歳って言ったら皆どう反応するんだろうなあ。


 葵と香菜は予想通りかなり驚いていたな。


 因みに彼女たちの名前は葵と香菜。大人しそうな感じの少女が葵……望月葵もちづきあおい、何処かテンション高めだった方……まあ、俺の年齢を知らずに奏ちゃんと呼んでいた子が香菜……柊香菜ひいらぎかなと名乗っていた。


 そんな見知らぬ俺に対して名前を教えて良いのかとも思ったのだが、特に気にしている感じはなかったな。


「……これ本当に俺なんだよな?」

「それ何回言っているのよ。間違いないでしょ」

「そんな言ったかな……まあ良いや」


 鏡に映る今の自分の姿を見て自然とそんな言葉が出る。そんな何度も言っただろうか? 無意識のうちに呟いていたとかだろうか。

 そんな鏡に映る俺は首からネックレスのようなものをぶら下げている。


「これが変身キーアイテムだっけ?」

「ええ。変身キーアイテムは人によって違ったりするけど、奏の場合はそのタイプね。まあ、どんな形であれ使い方は一緒だけど」


 この首にかけているネックレスは俺が魔法少女に変身する際に必要なキーアイテムである。変身解除したら勝手にクビにかかっていた感じだ。あの時はそれよりも自分の姿に意識が集中していたけど。

 先の方には水色の雪の結晶を模したような形をしている宝石がくっ付いている。微かながら宝石の中が若干きらきらしているように見える。


「チェンジ”フリーズ・フルール”!」


 ネックレスに付いている宝石を持って変身キーワードを紡ぐ。

 そうすると、最初変身した時と同じように謎の浮遊感に襲われ、自分の意思で身体を動かせない状態が少しの間続く。身体に自由が戻ってきたところで変身を終えた俺の今の姿が鏡に映る。


「……魔法少女フリーズ・フルール」

「名前とか決めてたの? 意外と乗り気?」

「いやそうじゃないけど……そんな名前がふと思い浮かんだだけだ」

「そうなのね。というか、いきなり変身してどうしたのよ?」

「念の為、自分の使える魔法をそれぞれ確認したいなって思って。どうせこの後予定とかはないし」

「なるほどね。確かに使える魔法を知ったとしてもどんな物かは実際使わないと分からないものね」

「うん」


 最初に変身した際に、フルールの言う通り自分自身に使える魔法を問いかけた時に一応使える魔法のデータと言うか情報? が頭の中に入ってきたので、魔法自体は恐らく使えるはずだ。

 ただ、あくまでそんな情報というような感じに入ってきただけで実際に使った場合どうなるかまでは分からない。何となくこんな感じの魔法っていうイメージしかない。


 だからまあ、実際に使ってどんなものなのかをこの目で確かめたいと言う感じだ。

 魔法少女名については、別に俺が考えた訳ではない。考えた訳ではないのだが、ふとそんな名前が思い浮かんだと言った感じだ。思い浮かんだって事は結局は俺が考えたって事になるか?


 ……まあいいや。


 しかし、フリーズ・フルールね。

 フリーズは英語だけど、フルールってフランス語じゃね? 確か花とかそんな感じの意味だった気がする。フリーズは氷結とか凍らすとかそんな意味だったかな?


 二ヵ国語が混じっているけど、意味としては氷結の花と言ったところか。いやなんだよ、氷結の花って……確かに俺の魔法の適性と言うか属性は氷らしいので、間違っちゃいないが……。


「あーでも、何処で確認するべきか……」


 アンノウンも居ないのに魔法をぶっぱしているところとか見られたら、何か色々聞かれそうと言うか目立つよな。使える魔法の確認だから、使わなきゃ意味ないし。


「それなら良い場所があるわよ」

「え?」


 夜でも人が居るような都市の中じゃ、時間帯を遅くしても見られる可能性はある。それに、夜勤って言う人だって居るだろうし、結局は何処でやっても見られる可能性があるんだよな。

 そんな感じで、何処でやるべきか悩んでいると、フルールがそう言ってきたのだ。良い場所……あるのであれば、是非そこでやりたいものだが、何処の事だろう……。


 一応フルールって10年くらい地球とフェアリーガーデンを行き来していたって言っていたし、一つや二つ知っていてもおかしくはないか?


「それって何処? この近くなのか?」

「いいえ」

「じゃあ遠い?」

「うーん。近くも遠くもないと言うべきかしらね……」

「?」


 その言い草に俺は首を傾げる。


「その顔可愛いわね……」

「……」


 いきなり何を言い出すんだ。可愛いとか言われてもうれしくないぞ。


「じょ、冗談だって。でも正直なところ、奏の今の容姿は気にするべきだと思うわよ?」


 俺が真顔になったのを見て顔を引きつらせるフルールだが、そのまま続けて言葉を繋げる。今の俺の容姿? いや確かに、鏡を見た感じでは美少女と言っても過言ではないが。


 ナルシストじゃないぞ? 率直な俺としての感想だ。


「そういうものかねぇ」

「そう言うものよ。まあ今そんな事言っても仕方がないわね……で、話を戻すけど、良い場所って言うのが私の家の近くよ」

「家の近く? 誰の? ってフルールの家?」

「ええ」

「フルールって地球に家があるの?」

「ないわよ」

「え?」

「私の家はフェアリーガーデンにしかないわ。だからここで言っている私の家というのはフェアリーガーデンの事しかないわよ」


 ……フェアリーガーデンと聞いてはっとなる。


「もしかしてフェアリーガーデンに行くって事か?」

「気が付いたようね。そういう事。フェアリーガーデンならば、別に魔法を使ったって何の問題もないわ」

「なるほど……ってか、フェアリーガーデンに行けるのか?」

「こっちから地球に行けるんだから反対も可能に決まっているじゃないの」

「確かにそうだが……」


 フェアリーガーデンねえ。


「まあ、そう言うことで早速」

「え、そんなすぐに行けるの?」

「もちろん」


 自信満々で得意げに話すフルール。不覚にもちょっと可愛いと思ってしまった。


「百聞は一見に如かず。という事で、私の手を掴んでくれるかしら」

「お、おう」


 掴むと言ってもフルールと俺では身体の大きさが全然違うし、潰してしまいそうで怖いのだが。


「触れるだけでも問題ないわよ」

「それなら……」


 触るだけでも良いなら大丈夫……なのか?

 取り敢えず、言われたままフルールの手に俺の人差し指を触れさせる。大きさが違うから人差し指一本でも触るのがちょっと難しかったが、何とかなった。


「じゃあ行くわよ」

「お、おう」

「――世界樹ユグドラシルの扉は開かれる」


 フルールが何かを唱えると、一瞬にして俺の視界が暗転するのだった。



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