10【続・買い物】


「奏ちゃんは学校とか行ってないの?」

「いや……もう卒業してる」

「え? あ、中学校を、だよね!?」

「いや高校も……」

「へ?」

「えっと自分こう見えて成人しているので……」


 そう言いつつ自分の免許証を目をぱちくりさせている少女に見せつけるように出す。


「えええ!?」

「こら、香菜! うるさい」

「あ、えっとごめん」


 免許証を見せると香菜はそれなりに大きな声で驚く。この場所はフードコートっていうのもあって、周りが凄いざわざわしているんだけど、それでも香菜の大きな声は結構響いていた。そこへすかさず隣に控えていた葵が香菜に注意する。


「ほ、本当だ……」


 免許証は身分証明書としては最強である。組む予定とかはないけど、ローンとかそう言うものを組む際とか、クレジットカードとかを作る時とか、免許証があれば身分証明書は一発解決である。


「正直私も驚きましたね……免許証、バイク……ではないですよね?」

「見てわかる通りだよ」

「普通車……しかもマニュアル」


 一応、免許証はマニュアルで取っている。まあ、今乗っている車はオートマなのだが。

 何故か今の自分の姿の写真に変わっていたけど、免許証自体は男の時のものと一切変わらない。だからマニュアルで取ったと言うのも反映されているようなのだ。


 葵も葵で心底驚いたような顔を見せていた。


 さて……服屋で服を買っていた俺が、何故こんな2人の少女と一緒にフードコートに居るのかと言えば……それは少し前に時は遡る。





□□□





「下着のコーナーよりはマシだな」


 開幕、店員さんに下着とか言ってしまってそのまま測られて案内された下着のコーナー。最初にそこに行ってしまった訳で、レディースのコーナーの前で立ち往生していたのが馬鹿みたいに普通には入れてしまった。


「これとか良いんじゃないの?」

「スカートかあ……ズボンが良い」


 女性物の服にもズボンはある。

 まあ、男のとはちょっと違ったりするけど、それでもやはり男だし……まだズボンの方が良いのだ。フルールがおすすめと言うか、指さした服と言うのは、スカートというかワンピースというもの。

 そして白い……何となく清楚系の子が着てそうな……無地だったり文字が入っていたりとか、その辺りは男の時の服とそこまで変わりがない。


「気持ちは分からなくはないけど……正直、奏のその見た目だズボンって言うのはちょっとアンマッチな気がするわ」

「うぐ」


 ……フルールの言っている事に同意出来てしまう俺自身が情けない。

 鏡で見た今の自分の姿は、フルールの言うようにズボン系統はちょっと合わないなとは思っていた。フルールの指すワンピースに限らず、ズボンよりかはスカートの方が似合うのではないかとは思う。


「んー」


 どうしたもんかねえ。

 まあ、ズボンとスカート両方買っとけば問題ないか。ちょっと予算オーバーになるかもしれないが……。


 最初のフルールが選んだ白いワンピースの上にグレーのパーカーを着てみる。サイズ自体は特に問題なさそうな感じ。ただ、スカート……ワンピースなのでめっちゃスース―する。


「良い感じじゃない?」

「そうなのかねえ。よく分からん」


 男である俺が女性のファッションなんて詳しくないので、何となく似合うんじゃないかな? だとか、これはちょっと違う気がする的な感覚でしか分からん。


「これも良いんじゃないかしら」

「いや流石にこれは無理だから!?」

「そう?」


 今度フルールが選んだのは、何と言うか……うん。ロリータ服っていえば良いの? ゴスロリとかそう言うのではなく、そう言った子たちが着ていそうな可愛らしいもの。


 何と言うかフルールが選ぶ服は確かに良い感じの物だったりなんだけど、それでもやはりフルールも女の子なのか結構そう言う感じの服を選ぶことが多い。


 フェアリーガーデンのファッションとかどうなっているのかは知らないけど……。フルール自体は若草色って言うのかな? そんな感じの色のワンピースを着ている感じだ。

 掌に乗れるくらいのサイズで、髪の色は綺麗な緑色をしている。瞳の色も緑と言った感じだ。あとは背中に半透明な羽があるくらいか。


 フルールは時折は俺の手の上や肩の上に座ったり立ったりする事はあるけど、基本的には俺の周りをくるくると飛んでいる状態がほとんどだ。移動する時も飛んだままだったり、さっき言ったように肩に乗ったりする。

 フルールは、掌に乗れるくらいの小さな体なので、あまり重さを感じない。まあ、女性の体重をとやかく言うのは失礼になるけど、そうではなく純粋に軽い。軽すぎると言ったところだ。


 話を戻すが、そんなたくさん買う必要はなく何日か毎に着回す事が出来れば俺としては良いので当初の予定では2着だったのだが……結局気付いたら6着くらい買っていた。

 当然だが予算オーバーである。とはいえ、余裕がない訳ではないので問題ないのだが……それにこれから先、着て行くしかないだろうし。


 スカート(ワンピース含む)とズボンのそれぞれを購入。何故か4:2になってしまったけども……そこはスルーしてくれ。


 まあ、それで服も買ったところで丁度お昼になったから、ついでだからという事で上にあるフードコードで昼食を取ろうと移動していたのだが、その途中……。


「2人とも可愛いね! ねえねえ、俺たちと一緒に遊ばない?」

「結構です」

「えっと遠慮します」

「そんな事言わずにさあ」


 ……。

 まさか、そんな現場に遭遇するとは思わなかった。ナンパとかこのご時世見たことないぞ……いやまあ、俺は男だしナンパされるって事はないので、見たことないのは当たり前か。実は意外とあるのかね?


「やーねー。この世界にも居るのねえ。ああいう輩」

「フェアリーガーデンにも居るの?」

「まあね。そんなたくさんって訳じゃないけど、時々くらいかしら。私の数えるくらいだけどされた事あったし」

「あったのか……」

「ええ。まあ、私の正体を知ったらみんな逃げて行ったけど」

「ん? 正体?」

「あ、こほん、今のは忘れて」


 と言われもばっちり聞いちゃったよ。


「忘れるのは無理だなあ……ばっちり聞いちゃったし。でもまあ、無理に聞くつもりはないさ」

「……ごめんなさい」

「フルールが謝る必要ないだろ? それに隠し事の一つや二つ、誰にだってあるだろ」


 フェアリーガーデンに暮らす妖精フルール。今はそれだけで良いだろうし……まあ正体って言うのは確かに気になるけどな。でも、まだフルールとは会ったばかりだしな。


 何事も距離感は大事……多分。


「あいつら、結構しつこいタイプだなあ。リアルで見るの初めてだ」

「嫌がってるのが分からないのかしらねえ」

「分かっててやってるんじゃないか? どうせああいうタイプは最終的には力づくで、ってなるだろうな」


 ……アニメや漫画の見過ぎだろうか。


「ちょっと失礼。の連れがどうかしました?」

「ああん? って、君も可愛いねえ。一緒にどう? 連れ何だって? 3人でどうかな?」

「……ロリコン?」

「ろ、ロリコンちゃうわ!」


 なんだ、そんな突っ込めるくらいのユーモアはあるのか。いや、ユーモアかどうかは置いとくとして。


「じゃ、失礼します」


 見知らぬ少女2人は困惑状態だが、まあ取り敢えず2人の手を掴み、引っ張る。2人も特に抵抗する事はなく、そのまま簡単にその場から抜け出せた。

 これでもし俺が男だったら、あのナンパ男と同じような感じに見られていたのだろうか? 2人が抵抗なく、引かれるままに来てくれたのはこの見た目のせいかねえ。


「勇気あるわね」

「まあ、中身は男な訳だし」


 フルールが俺のすぐ耳元で囁くようにそう言ってきたので、俺も2人は聞こえないくらいの声で返す。

 しかし、あのナンパ男、追撃と言うか追いかけるとかしなかったな……2人に対しては何か無理やり連れて行きそうな感じだったのに。まあ、面倒なのでこれで良いんだけど。


 ロリコンという言葉が効いたのかな?


 取り敢えず、さっきいた場所から大分離れたところまで2人を連れて行くのだった。近場だともしかしたらあの男がまたやってくるかもしれないしな……人の多いところまで連れて行かないと。




 ……とまあ、こんな感じで離れた場所に行った所で手を離したのだが、そこでお礼を言われた。いやお礼を言われるのは嬉しい事ではあるけど。


 で、何かお礼がしたいって言われて……いや別に特別な事はしてないので気にしなくていいと言ったのだが、2人とも譲る気がなく、こっちが折れてしまった。


 でもって、フードコードにやってきた訳だ。そしてなんやかんやあり、冒頭に戻る。



「そうなるとちゃんって呼ぶのは失礼だったよね……えっと、奏さん」

「ちゃん付けはあれだけど、さん付けもいらないよ?」

「え、でもそれは……うーん」


 さっきまで結構テンション高めだった子、香菜……柊香菜ひいらぎかなが急に大人しくなってしまった。まあ、年上だったらそうなるよなあ。


 まあ、そういう訳で今に至っているって事だ。





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