07【変身解除……?】


「まあ、大体こんな感じかしらね」

「大体は分かったが……フルールよ、まだ大事な事を聞いていないぞ」

「何かしら?」

「元に戻れるのか?」


 そう。

 色々と説明してくれたのはありがたい。結構色んな事が分かったし、問題はないのだが……肝心な事をまだ聞いてなかった。


「多分?」

「多分!?」


 おい、多分ってなんだよ! いやいやこの姿のまま戻れないとか流石に嫌だぞ?


「変身は解除できるはずよ。ただ元の身体に戻るかは……ちょっと分からないわね」

「ええ……」


 それ結構死活問題だ。いや、まだ戻れないとは言われてないけど戻れない可能性があるって事だよな? もし戻れなかったら不便どころじゃすまない気がするぞ……。


 ……両親も親戚も居ないからそこは気にする必要はないが。いやそれでもだよ!?


「何せ、男性が魔法少女になるって言う例自体初めてなんだもの。男性がなれないと断言されている訳ではないにしろ……」

「……」


 それは分かるけど。

 今の今まで男が魔法少女になった事例は確認されていない。つまりそれは、俺が初めての男から魔法少女になった存在という事になるのだ。

 別に公言しなければ、中身が男だって言うのは分からないので初事例として記録される事はない。そう考えると、実は男から魔法少女になっている人ももしかしたら居るかもしれないな。言ってなければデータには反映されない訳だし。


 何より、魔法少女は見た目がリアル姿と大きく変わるのも特徴なので特定するのは至難の業だ。魔法省に所属している魔法少女だと、国家機関の魔法省がバックに居るし、徹底的に隠しているので正規の魔法少女を特定するのは更に難しいだろうな。

 それにやり過ぎれば警察沙汰になる。そんなリスクを負って特定なんてするやつは居ない。まあ中には居るかもしれないが……。


 所属しない野良の魔法少女も正規の魔法少女と比べればセキュリティは弱いだろうけど、そもそも所属しない人は魔法少女にならない人がほとんどだし特定も何もない。

 一部、野良でアンノウンを倒したり時折ピンチになっている魔法少女を助けたり……そんな風に行動している野良の魔法少女も存在するけども。


 話が逸れた。


「取り敢えず、変身解除してみれば分かるんじゃない?」

「そう……だな。ちょっと怖いけど」


 変身解除は出来るのだから、解除すれば良い。今色々と不安になっているのは解除後の、本来の姿の方なのだ。まず解除しない事には始まらないだろう。


「解除の方法も分かるわよね?」

「まあな。頭の中に魔法の情報とかが入ってきた時に、変身解除も一緒に来たしな」


 ……。

 よし、ここで止まっていても意味はない。戻れるかどうかそれを今から実際に確認するのだから。


「――リリース」


 それだけを紡げば、今着ている服と変身で大きく変化した髪の毛が光り、そんな時間もかからずに変化はすぐ起きた。


「……あちゃー」


 フルールが頭に手を当てて、やっちまった……みたいな表情を見せる。その反応を見て俺は、何が起きたのかを察してしまった。それに、確かに解除したというのに違和感が残っている。


 ……恐る恐る、俺は部屋にあった鏡を覗き込むのだった。





□□□





「……既に倒されていた、ね」

「はい。あの場所に確認されたのは3体でしたが、1体は駆けつけた魔法少女が討伐しました。しかし残り2体は既に倒されたようで、戦いの痕跡しか残ってなかったようです」


 今回出現したアンノウン。

 どれもがレベル3以下であったものの、あっちこっちに相当数の出現が確認されたため対応に若干遅れが出てしまい、すぐに倒す事は出来なかった。


 魔法少女はアンノウンを倒すのも役目ではあるけど、一般人の避難やその周囲の安全確認、一般人の護衛も行う為、倒したら次! と言ったようにすぐに動く事は出来ない。


「痕跡はびしょ濡れになった道と、氷の跡……」


 現場の写真を見ながら呟く。

 タイミングも悪く、近くにいた魔法少女があまり居なかったのもあって、それなりに遠い場所に応援要請を出すしかなかったので、出現したアンノウンを全て対応すると言うのは無理だった。


 この場合、優先順位というものも一応あるんだけど……一般人が多い所とか、各地域の心臓のような場所が最優先となっている。こういう仕事上、何処かを見捨てると言う選択肢も出てくるから本当に嫌になっちゃうわ。


 もちろん、見捨てる気はさらさらなかった。

 だから何とかアンノウンが出現しているのに、魔法少女が向かえなかった地域に急ぎで3人のCクラス魔法少女を派遣する事が出来たのだが、既にアンノウンは倒された後だった。


 あの地域に暮らす魔法少女は魔法省のデータベース上では居なかったはず。残念な事に、その地域に魔法少女が居ない。だから駆けつけるのも遅れてしまうのだ。

 すぐ近くの地域から呼ぶように基本はしているけど、さっきも言ったように今回はタイミングが悪すぎた。


 幸い、一般人に死傷者は出ていないみたいで安堵している。


「新しい魔法少女ですかね?」

「かもしれない……けど、現状では何にも分からないわね」


 もし新たな魔法少女が生まれたのであれば、あの地域では初の魔法少女となる。出来る事なら魔法省にスカウトしたいところではあるけど、それを決めるのは本人なのでこちらから強制する事は出来ない。


 それにまだ新しい魔法少女とは限らないし。もしかすると、野良の魔法少女がたまたま居合わせて倒したのかもしれない。


 あくまで、魔法省のデータベースに載っているのは魔法省に所属する魔法少女のデータだけなので野良の魔法少女までは流石に把握できていない。


「レベル3のアンノウンの2体、余裕で相手出来るって事は少なくともCクラスはありそうよね」

「余裕かどうかは分かりませんけどね」

「まあね」


 実際戦った所を見た訳ではないので、余裕で相手出来ていたかは分からない。とは言え、それでもレベル3相手に対抗できるくらいの力はあるという事。余裕かどうかは置いておいて。


「氷か水……氷の跡があるって事は氷の適性がある魔法少女かしらねえ」


 野良なのか、新たに誕生したのかは分からないけれど。


「氷ですか。しかし、氷属性は……」

「ええ……その身を犠牲にして首都凍結フリーズ・シティを起こし、国を守ってくれた謎の野良の魔法少女以外、確認出来てないわ」


 そう。

 氷属性の魔法少女は存在しない。もしかすると野良には居るかもしれないけど、少なくとも魔法省所属の魔法少女の中に氷の魔法を使う魔法少女は居ない。水属性ならそれなりに居るんだけど。


「……」


 もし、新しい魔法少女で尚且つ氷に適性のある魔法少女ならば……。


 嫌な予感がする。するだけで断言は出来ないけど、5年前の悲劇が鮮明に蘇る。その身を犠牲にした魔法少女を除き、確認されてない氷の魔法少女の誕生。


 何かの予兆なのではないか。

 考えすぎかもしれないけど、どうしてもそんな予感がしてしまう。でもまだ、さっきも言ったように新しい魔法少女だと決まった訳ではないので、そこは何とも言えないのだ。


 首都凍結を起こした魔法少女……今でもまだ不明である。野良って言うのもあって全然情報もなく、時々見かける魔法少女だって言う事くらいしかなかった訳だ。


 ……魔法少女としての名前は知っていたはずなんだけど、全然思い出せないのよね。実際会った事のある子たちに聞いても、やはり私と同じような感じで名前を聞いていたはずなのに思い出せないみたいだった。


 まるで……存在がそのまま消えてしまっているかのように。それでもその身を犠牲にして首都凍結を起こしたって事はこうやって知っているのに。


 ……これ以上考えると無駄に時間を使ってしまいそうなので、私は一旦そこで考えるのをやめるのだった。 




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