05【妖精と魔法少女】
「……うわあ。本当にこれが俺なのかあ」
ゾウ型と狼型のアンノウンを倒した後、魔法少女がこちらに向かってきているとの事で、会うのはちょっとまずい気がしたのでそそくさにあの場から立ち去り、自分の家に戻って来ていた。
もちろん、魔法少女になっている状態で、である。戻る方法が分からないし。流石にこのまま戻れないって事はないと思うが……というかそう思いたい。
でだ。
自分の部屋にある姿見に映るの”純白”の少女。白銀の髪をツインテール? いや、後ろ髪があるからツーサイドアップ? いやその辺りは良く分かないけど、そんな感じの白い15、6歳くらいの少女が映っていた。いや、もしかしたらもっと幼いかもしれない。
後ろ髪の長さはセミロングと言えば良いのかな? 肩にかかるくらいで、若干ゆるふわしているような髪だ。
やはり、髪にもアクセサリーみたいなものが付いており、ツーサイドアップにしている部分には胸元にあるような水色の雪の結晶を模したデザインの髪留めが付いていた。当然ながら胸元にあるやつよりは小さい。
髪の毛も髪の毛で、白銀なのはもう知っていたがそれだけではなく何だか雪のオーラというかなんて言うの? 髪の毛の部分だけに雪が降っているようなエフェクトがかかっている。うん、普通じゃない。
「目の中にも雪の結晶って……ファンタジーすぎる」
いやまあ、魔法少女の存在自体が既にファンタジーだが。
そんな俺の今の瞳の色は白銀の髪に並んで両方とも銀色であり、瞳の中にはさっきも言ったように雪の結晶のようなものが浮かび上がっている。
目の中に図形とかそういうのがあるキャラなんてアニメとか漫画の世界だけと思っていたのだが……。いや良く考えて見れば、魔法少女たちの瞳って結構変わってるのが多い気がする。
「……」
とどめには、元の時ですらそこまで高くなかった身長が更に低くなっているという。性別が変わっている時点で、既にとどめを刺されている気がする。
……元の身長だって160センチあるかないかくらいだったのが、今の状態では150センチあるかないかくらいじゃないか? いや身長を測る測定器なんてないから正確には言えないけど、低くなっているのは確実だ。
「謎の存在感があるな、この羽」
背中から左右に伸びている二対四枚の純白の羽は、そこそこ大きく謎の存在感を放っていた。それと、あの時に言っていた事が現実となっていた。
「リングもあるじゃん……」
うん。見えないふりをしていたが、頭上には浮かんでいる白いリングがあったのだ。何処か水色っぽく光ってる。そう言えば背中の羽も真っ白ではあるけど、若干水色を帯びている気がする。
「天使……」
別にナルシストという訳ではない。この場合の天使というのは容姿の事を言っているのではなく、神話とかに登場する天使そのものだなという意味合いで言っている。
「どうやらあなたは氷に対してかなり高い適正と、それから普通じゃない魔力量があるみたいね」
「待って欲しい……そもそも俺は」
「男性、よね? 男性でその膨大な魔力量と極めて高い氷の適正があるなんて、希少とかそんなレベルじゃないわよ。逸材と言っても過言ではないわ」
「そ、そうなのか……じゃなくて、説明とかがもっと欲しい」
「ええ分かっているわ。約束通り、説明するわね」
「よろしく頼む……」
俺がそう言うと、彼女は頷く。理解は追いついてきているけど、それでもやはりまだ困惑から抜けられていない。……そう言えば名前をまだ聞いてなかったな。
「まずは私の名前からかしらね……私の名前はフルール。こことは違う世界”フェアリーガーデン”から来た妖精よ」
「フェアリーガーデン?」
「そう。私たちが暮らす世界よ。あなたで言う地球と同じ感じかしらね」
「別惑星って事?」
「うーん……それは違うわね。まず世界自体が違うと言えば良いかしら」
「それってつまり、並行世界とかそんな?」
「そうそんな感じよ。まあ並行世界と言うよりかは異世界と言った表現の方が分かりやすいかもしれないわね」
「なるほど」
惑星ではなく世界がそもそも違うと。でも確かに……並行世界だと、同じような世界が並行して並んでいるってイメージが強いか。行動によって分岐するとかなんとか、そんな説があったよな。それらを実証する事は出来ないけど。
「あら。異世界と言っても驚かないのね」
「驚いてはいるけどあまり現地味がないって言うのが正解かなあ」
いきなり別世界から来たと言われても、え? ってなるようなそんな感じだ。ただ彼女……フルールが嘘を言っているようは聞こえないので、まあそうなんだなって思っている程度だ。
「それもそうよね。……フェアリーガーデンって言うのはまあ私たちの世界なんだけど、フェアリーガーデンと地球は世界の壁があるものの昔からずっと隣接していた世界なのよ」
「え?」
「ええ。世界の壁があるからお互い干渉は出来ないでいたけど、15年くらい前に突然現れた異界の生命体……地球で言うならアンノウンが出現してから私たちの世界と地球の間を遮断していた世界の壁に穴が開いたわ」
「!」
「穴が開いた事により、フェアリーガーデンと地球はくっ付いた訳ね。とは言え、最初はお互い存在自体知らない状態だったから開いたところで結局何も変わらなかったけど、アンノウンは私たちの世界にも時々出現するようになったのよね」
「そうなの?」
「ええ」
世界の壁に穴が開いたって言うのもある意味凄い事だけど、でもやっぱり現実味がないからなのかそこまで驚かないでいた。そもそも世界の壁って何だって状態だしな。
まあ、簡単にまとめるとフルールの暮らす世界”フェアリーガーデン”と俺たちが暮らす世界”地球”が、壁に穴が開いた事によって繋がったって事だよな?
「私たちの場合は、魔法っていう力をそもそも最初から使えていたし、魔物と呼ばれる私たちの世界での害獣も存在していたし、その討伐もしていたからアンノウンが出現しても魔物と同様に対応出来ていたのよね」
「魔物……」
「ええ、魔物ね。アンノウンも同じようなものだから魔物として扱っているわ」
魔物か。
これまたファンタジーな名前が出てきたな。魔物と言えば流行りの異世界モノとかでも良く出てくるというより、常連さんじゃないか。呼称は作品によって違ったりするけどな。魔物もあれば、魔獣もあるし、後はモンスターとかか?
「地球みたいにレベルみたいなものは設けてないからどれくらいのレベルかは分からないけど、普通に相手できる程度だったわね。時々強い個体が居たりするけど。ただ地球のと比べと弱い感じはするわね」
「そうなのか」
「まあ、それは置いとくとして……」
フルールはそこで一旦言葉を止める。
「地球の方がアンノウンの数は多いし、さっき言ったように地球のアンノウンの方が強い傾向なのよね。少なくとも私から見た感じでは、ね。それで、地球に何かがあったらフェアリーガーデンの方にも悪影響があるかもしれないって事で、一部の妖精をこちらに派遣したりしているってところね」
「あれもしかして魔法少女って……」
こっちに妖精を派遣しているという言葉にふと気になった事が頭に浮かんでくる。
「うーん、言いたい事は分かるけど、それは正解でもあるし不正解でもあるわ」
「?」
「魔法少女と妖精は確かに関係がある。ただ、全ての魔法少女に妖精が関わっているって事ではないって事よ」
「なるほど?」
「簡潔に言えば、一部の魔法少女は妖精と関わりがあってその影響で魔法少女になっているって事ね。妖精と関わった魔法少女は普通に比べて能力が高い傾向にあるわ」
あ、なるほど。
魔法少女は複数居るけど、全てに妖精が関わっている訳ではないって事か。でもって、妖精の干渉を受けた魔法少女は普通に比べて能力が高い、と。
「まあ、妖精単独で行動するよりも現地の協力者が居た方が動きやすいって言う妖精も多く居るからね」
「なるほどなあ」
「で、話を一旦振り出しに戻すけど、そんな妖精の一人が私って事ね。……そう言えば今更だけどあなたの名前聞いてなかったわね」
「今更だな!? うーん、教えても良いけど笑わないでくれよ?」
「え? 何そんな変な名前なの?」
「いや変な名前というか……」
変な名前ではないのだが、何というか……男としての名前にそれはどうなのって感じなんだよなあ。そりゃあ、身長も低いけどさ!
「笑わないわよ」
「本当? ……
そう、奏。”そう”ではなく”かなで”なのである。
この名前ってどっちかというと女の子に多い名前な気がするんだ。良く中学とかでは奏ちゃんとか言われたものだ。ちゃん付けは勘弁して欲しい……。
これは高校でも同じで、身長も大して伸びなかったのもあるし、同じ中学の奴らも結構同じ高校にきていたのもあって、奏ちゃん呼びは続行されてしまったのである。
それは高校で初めて会う人たちにも浸透してしまった。……どっちかというと女顔なのは認めるけど辛いものがある。
「へえ、良い名前じゃない」
「お世辞でも嬉しいよ」
「別にお世辞ではないわよ? あ、もしかして女の子っぽい名前って言うのを気にしているの?」
「うぐ……」
「そんなの気にするだけ無駄よ無駄。それに両親がつけてくれた名前なんだから」
「そうなんだけどな」
そう。
これは両親がつけてくれた名前でもある訳で。別の俺自身、嫌いという訳ではないのだ。でもやはり、色々と言われるのは気になってしまう。あいつ等ががわざとというかいじめみたいな感じで言ってきてた訳ではないのは分かってるんだけどな。
……よし、思い出すのはここでやめとこう。
「話が逸れたけど、大体私自身の説明としてはこんな感じかしらね。何か他にあるかしら?」
うん。フルールはこことは違う世界”フェアリーガーデン”に暮らす妖精で、なんやかんやで地球に妖精を派遣しているって言うのは分かった。で、全ての魔法少女という訳ではないけど、一部の魔法少女は妖精が干渉しているので、妖精の存在を認知しているって事も分かった。
特にフルールについては他にはないな……フルールについては、な。
「大体フルールについては分かったよ。後は俺なんだが」
「魔法少女になった理由よね。まあ、それについても説明するわよ」
「よろしく」
そう言えばまたフルールは頷いてくれるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます