第96話

 流れに滞る芥の様に敗走した兵たちがこの砦に引っ掛かっていく。それにより守りの数だけは日毎増していくが、士気は低い。どの兵にも捲土重来を期す気概など見えず、ただ行く当てがない故に留まっているに過ぎなかった。

 既に半ば統制を失いかけている砦の守備を巡邏する保仁の心中は諦念に充たされていた。ただ、武人として死に場所と栄誉を求めているだけだった。時義に対し我が邦にも人ありと言うところを示したい。

 保仁は自らの手勢が戦意を削がれない様に、敗走兵と交わらせない様に留意した。

 杭の先端を野鳥が跳ねる様に渡って行く。兵たちが作業をしながら低い声で歌っている。保仁はその一人一人の顔を食い入る様に見ながらその横を通り過ぎた。

 伸明が地形の描かれた紙を広げ、難しい顔をしていた。保仁を見ると一礼し場所を譲った。

「今更作戦などもあるまい」

 と保仁が笑った。伸明は生真面目に頭を下げる。

「時義が来るまで幾らか間があるだろう。休息せよ」

 保仁はそう言いながら伸明の肩を叩いた。

 

 

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