第97話

「雅童、雅童、また雅童か」

 雅童に兵を与え援軍に赴かせよと言う献策に長盛が不快も露わに吐き捨てた。

「他に将は居らぬのか?そなたらはいったい何をしておるのだ?」

 一座を見回しながら長盛が言う。皆が目を伏せるのを見て兼平が進み出た。

「お分かりでございましょう。あの者の力無くしては…」

 長盛は大きく体を揺すってそっぽを向いた。兼平は小さく嘆息すると隆正を振り返った。

「隆正殿、行ってくれるな?」

 はっ、と隆正は礼をすると素早い身のこなしで退出した。それはまるで一瞬でも早くこの場を離れたいかの様でもあった。

「また使い走りかと雅童に笑われそうだな」

 足早に歩きながら隆正は自嘲した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る