第94話
喘ぎ声と共に口の端から唾液が流れる。それを手の甲で乱暴に拭うと三吉は後ろを振り返った。脚が怠く、いまにもつんのめりそうだったが背に迫る焦燥感に押されてよろめきつつ駆ける。
「誰のお陰で、誰のお陰で」
荒い息の中で切れ切れに呟く。
期待していた労いや褒めの言葉もない、野盗らのよそよそしい態度に三吉は違和を覚えた。仲間同士見交わす視線、三吉を盗み見る視線、そう言った諸々が危険を告げていた。
岩陰に回り込むと、どかっと倒れこんだ。腹が波打ち、額が汗でべったり濡れている。結局、分け前にも預かれず追われる身となったのみだった。だが、と三吉は性懲りもなく賤しい考えを廻らす。名のある野盗であるらしい領袖、龍衛。然るべきところへ詳らかにすればあるいは…
岩陰から逃げ来た路を窺い、安堵の息を漏らす。その首筋に冷たいものが当てられた。
「ひっ!」
身を強張らせる三吉。それを若犬丸が冷然と見降ろしていた。
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