第91話

 平治らは朽ちた社に身を潜めていた。

「物の怪でも出そうだな」

 辺りを見回しながら平治が言う。

「子供たちが怖がるでしょ」

 蘭が子供たちを抱き寄せた。平治は肩を竦めると玉兎を見遣った。壁の穴に片目を当てて殿の中を覗いている。

「どうした、玉兎ちゃん?」

 平治が殿に近づくと中から狐が一尾、飛び出して来た。平治が驚いて尻もちを着く。その様を見て子供らが笑った。

「びっくりさせやがる」

 尻を叩きながら平治も笑った。

 と、蘭が手を挙げ皆を静まらせた。平治が一行を従え裏手にそろそろと回る。蘭は棒を構えると呼吸を整え、侵入者の気配に集中した。

「!」

 引き付けてからの一撃。が、軽くいなされた。蘭は相手の顔を不服そうに見遣った。

「若犬!」

 平治が駆け寄る。後ろには孤剣がいた。が、保奈の姿はない。

「保奈様は?」

 平治に問われた若犬丸は首を振った。蘭も続いて長者の安否を孤剣に問うた。

「猫がいなかった」

 と孤剣がまた謎の様な答えをした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る