第90話

「どうされました、由佐様?」

 不意に立ち止まり眉根を寄せ遠方を見遣る由佐に芙蓉が尋ねた。

「よもやその様な愚かなまねを…」

 と由佐が呟く。

「え?」

 芙蓉が耳を寄せる。

「いま、何か感じなかったか?」

 そう訊かれた芙蓉が首を振る。すまない、と由佐が衣を翻し速足に歩き始めた。

「しばらく離れる」

 呆気に取られた芙蓉だったが、すぐにはっとなった。

「見つかったのですか?何か感じたのですね?」

 由佐が振り返って手を振った。

「定かではない」

 そう答えた由佐の足取りは、しかし、確信に充ちていた。


  

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