第92話

「まさか、猫だけ連れて逃げたってのか?」

 平治が呆れ顔で言う。いや、でもね、と蘭。

「そもそもあの集落自体が野良猫のために作られたものらしいの」

 猫長者、と平治が首を振る。いいあざなだね、と蘭が笑う。

「で、これからどうする?」

 平治が若犬丸に尋ねた。若犬丸は子供らを見回した。

「この子らをどこか安全なところに届けてもらえまいか?」

 若犬丸の言葉に平治も蘭も頷く。

「で、お前はどうするんだ?」

「私は保奈殿の安否を確かめに行く。間が空かないうちに追いたい」

 そうだ、と平治が手を打った。

「あのお縁って娘のいたとこはどうだ?」

 良さそうであるな、と若犬丸。当てがあるの?、と蘭が聞く。

「ああ、何しろ若犬がたったひとりで邦崩しをやっちまって、領主に苦しめられた郷の者らを救っちまったんだから大恩があるってもんよ」

 嘘、と蘭が目を丸くする。大袈裟な、と若犬丸が肩を竦める。

「とにかく、子供らにはきついかも知れぬが急ごう」

 ここも安全ではない、と若犬丸は立ち上がった。

「孤剣、皆を守ってくれ」

 若犬丸の言葉に孤剣は刀の柄をぽんと叩いた。

 

 

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