第87話

 薬師様、どうか…保奈が縋る様に言う。錫杖を構え三吉を睨みつけていた死無常はふっと笑いを漏らすと法力を解いた。三吉がその場に崩れ落ち呻いた。

「お前の様な者を一人二人始末したところで何も変わらぬか」

 そう言うと死無常はさっさと消えろと言う風に手を振った。三吉は喉元を押さえ、よろめきつつ逃げ出した。それを見送ると死無常は保奈を振り返った。

「巫女様。あの様な者にお慈悲を掛けても」

 そう言う死無常を保奈が不思議そうに見ている。

「どうされたのです?」

 と死無常が尋ねた。

「いえ、薬師様。あの様な力をお持ちだったのですね」

 ああ、と死無常は頭を掻いた。

「まあ、多少の心得は」

 それより我々も避難致しましょう、と死無常は保奈を促した。

「けれども、皆とはぐれてしまいました」

 私が考えもなく飛び出したばっかりに、と保奈は子供の様に地団駄を踏んだ。

「あの武人が居られるのだから心配はいらんでしょう」

 と死無常は錫杖を構えると、ふん!と念を送った。きーん、と錫杖が鳴り、保奈は耳を手で押さえた。

「これで察してくれると良いのですが」

 妻が待っております、と死無常は再度保奈を促した。


 

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