第86話

「あなたは…」

 保奈が息を呑む。野盗を蔵へと手引する三吉と出くわしたのだ。ちっつ、と三吉が舌打ちをする。そこへ蔵から荷を抱えた野盗たちが出て来た。

「どうした?」

 野盗の一人が三吉と保奈を見比べながら言った。

「この女、始末して行く」

 と三吉が言うと、野盗たちは、あ、そ、と芯からどうでも良さそうに答えて立ち去った。三吉は短刀の鞘を払いにじり寄る。保奈は怯えよりもむしろ悲し気な顔をしながら後ずさった。そして三吉が飛び掛かろうとしたその刹那。

「ぬう!」

 三吉は金縛りに遭った様に動きを封じられた。

「薬師様!」

 驚く保奈の傍らを死無常が錫杖を構えながら前に出る。

「お前がどの様な人間かは一目見た時から分かっていた」

 死無常が三吉に語り掛ける。呼吸も阻害されているのか、三吉は苦し気な様子だった。

「真っ当な者ならいくら食い詰めたからと言って人を手に掛けようとなどせぬものだ。この騒ぎもお前が手引したものであろう」

 死無常が法力を増し、さらに締め上げんとした時、いけません、と保奈が声を挙げた。

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