第80話

「ともかく、いまは葦名の事だ」

 隆正は話頭を転じた。

「我が方の命運はお前に掛かっている。領内にも纏ろわぬ者どもが充ち、戦の備えもままならず、士気は一向に上がらずだ。国境を侵した時義は破竹の勢いで迫っている。最早お前の武勇に頼るしかない」

 雅童が怪訝な顔をする。

「戦の備え?長盛はかねてより葦名攻めを画策していたのではないのか?」

 隆正は肩を竦めた。

「民たちに背かれては思う様に事は運べぬ」

 雅童が心底侮蔑仕切った様に笑った。

「己の失政が因となっておるのだろう」

 それにどうだ、と雅童は続ける。

「お前とてあの愚物の事は既に見限っているのだろう?忠義者の振りが上手いのお」

 言われた隆正はただ黙している。

「この邦がどうなろうが知らぬ。俺はただ時義が斬れれば良い。なんならあの愚物の首もついでに刎ねてやろうか?」

 よさぬか、と隆正が顔を顰める。

「まあ良い。時義は俺の獲物だ。それだけはあの愚物とその取り巻き共にも伝えておけ」

 俺は一旦本拠に戻る、と言い捨てると雅童は手勢を率いて去った。




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