第16話

 焼け落ちた村を見ても村人たちは左程落胆している様には見えなかった。いつもの仕事をする様に、兵火による残骸を黙々と片づけ始めるのだった。それも一段落した頃、今後の事が話し合われた。村に残ると言う者もいれば、保奈と共に旅立つ決心をした者もいた。村のあちこちで、別れを惜しむ声、先の幸運を祈る声が聞かれた。

「巫女殿」

 と若武者が言った。

「保奈です」

 身支度を続けながら保奈が答える。

「保奈殿。私もお供させては貰えないだろうか?」

 保奈は手を止めて若武者を見た。真っ直ぐな瞳が保奈を見つめていた。

「見たいのです。あの、救いの巫女が暮らしていた里を」

 保奈は目を伏せると深いため息を吐いた。そして目を上げると尋ねた。

「お名前は?」

「若犬丸と申します」

 それを聞いた玉兎がわんわんと鳴き真似をしながら若犬丸の周りを飛び跳ねた。思わず保奈は吹き出し、若犬丸は苦笑した。

「どうでしょうか?」

 真顔に戻った保奈が思案顔で言った。

「あなたは、この村を襲った人たちの仲間です。共に行く村の人たちがどう思うか…」

 私の一存では、と保奈が言うので村の主だった者たちに諮る事になった。

 やがて、篝火を見つめて待つ若犬丸の元に保奈がやって来て言った。

「共に行ける事にはなりました。ただ…」

 言い淀む保奈を若犬丸は見つめた。

「縛めを受けて頂く事になります」

 と保奈は頭を下げた。

「構いません」

 そう答えると若武者も深々と頭を下げるのだった。

  

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